第16話 超伝導コイル「No.8」

「それって・・・一体・・・」


「時間軸が崩壊すると地球は・・・どうなるの??」


「そ、その、こ、根拠はあるのですか?」


「ないわ。でも、そんなことって嘘でも思いつくかしら。」


「わたしたちはジュリアを信じる。それしかないの。」


「たったそれだけの思想でジュリア、そしてルーデンスに従うのですか?」


「わたしたちが時の瞳の力を持って生まれてきているのがその証拠よ。ジュリアが見たものを信じ、従うわ。」


「その時間軸の崩壊が近いから、地球レベルで時間を戻し、リセットかけたいってわけね。」


「そうなるわね。」


慶子が立ち上がって叫ぶ

「でも、もし仮にそれができたとして、いったいどうやって?いくらルーデンスで時の瞳の力を集結させても、時間巫女の力を借りても、もう地球のこの姿は戻しようがないでしょう??」


エジル、スリーカラ、その疑問を待ってましたとばかりに少しにやっと笑う。

慶子、美和が思わず聞き返す。


「え?いや、まさか?」


「まさか地球全体の時間を・・・」


「巻き戻すことができる・・・??というの??!!」


エジル、スリーカラ、薄笑いしながら

「そうよ。全部戻すの。リセットよ。」


「歯止めが利かなくなった状態から時間を戻し、人類にやり直させるチャンスを与えるの。」


2人の目から青い輝きが消え、周囲の風景が色味をとり返した。

BBQプレート上で生に戻った肉がじゅうじゅうと音をたて、再び焼けはじめる。


エジル、テーブルにあるにあるまだ焼いていない肉やソーセージを時間犬たちにぽいぽい投げ、がっつく様子を見ている。


唖然とした表情から我に返り、全否定する慶子

「そんな・・・、そんな馬鹿な事できないわ。あまりにも巨大な時間軸を操作することになるわよ!」


美和も続く

「そうよ、たとえルーデンスが束になって、そこに複数の『コイル』や時間巫女の力を添えても、できっこないわ!」


晴義、怪訝な表情で

(さっきから「コイル」の話が出るけど・・・「コイル」ってなんだ??)


エジル、スリーカラ、少し強面の表情で

「あるわ、方法が」

「そう、あるの。地球全体の時間を戻す方法・・・」


一同、緊張の眼差しで立ち尽くしている


キャンプテーブルの裏に、盗聴機のようなものがついている。

どうやら今話している内容が拾われているようだが、誰も盗聴器の存在に気づいていない。



ロッジから離れた白樺林の中


人影がイヤホンを耳に何かを聞いている。

テーブルの下に仕掛けた盗聴機(スマートウォッチ)で慶子たちの会話を盗み聞きしている様子だ。


「・・・。」




同、ロッジ前


慶子がエジルらに聞く

「その方法って・・・。」


「これよ」


エジル、そう言うとスマホの画面を押す。


バタン、バタン!

彼女らが乗ってきていたキャンピングカーの天井が開き、筒のような射出口が垂直にせり出すと、バン!と音がして射出口の蓋が空いた。


冷気が射出口から吹き出し、キャンピングカーの屋根を伝い、地面に流れていた。

ルルルルルルルル・・・という小さい音とともに、姿をあらわす円柱状の超伝導コイル。

コイルの側面には「No.8」と大きく描かれている。


晴義、驚きの表情で見ている。

「な、なんです?」


慶子が青ざめた顔で言う。

「超伝導コイル・・・!!」


「超伝導??コイル??」


「やっぱり持っているのね。馬酔木のやつめ・・・」


コイル、20mほど宙に昇るとエジルのスマホからの操作でUFOのように浮いたまま白樺林に入っていく。


「うわわわわ、」

白樺林にいた人影、先ほどから晴義たちの様子を見ていたが自分のほうにコイルがせまってきたので、あわててさらに奥の茂みへと身を隠す。


美和、憶測が当たったことからやや白けた顔で見ている。

「なによ、やっぱりコイルじゃない・・・。」


一方の晴義と則子は初見なので、真剣なまなざしで見ている。


「晴義君と則子さんははじめて見るようね。いい機会だわ。」


エジル、そう言うとスマホを細かく操作しはじめる。

スリーカラはどこから出したか、筒状の管が先端についた銃を用意している。


「磁場が発生しますので、ナイフ類を押さえておいたほうがいいかも」

スリーカラがそういうと、テーブルの上のナイフ、フィークがかたかたと音をたてて、ゆるゆるとコイル方向に動きはじめていた。

あわてて食器類を押さえる一同。


ルルルルルル・・・


コイル、不気味な音をたてながら浮遊を続け、ポーランドの森に埋まっていた列車を掘り起こしたときと同じように、半透明のドームをコイル下に形成し、白樺林の一角を包み込んだ!


ズズズズズズズズ・・・


ドームの中、育っていた樹々の葉の伸びが戻っていき、地面の草花がざわざわと新芽へと若返っていく。その差違はわずかだが白樺林の形相が変わっていくのが見えた!


感動と驚きを隠せない晴義と則子、そして無言で傍観している美和

「すごい、あのドーム内の時間が戻っているのね・・・!!??」

「え、戻ってる?」

「戻っていますよ!ほら、先輩が切り落とした白樺の枝、そしてさっき放火された薪も・・・」


則子の言う通り、燃え崩れてくすぶっていた薪の山が再び炎をあげなおしたかと思うと、黒焦げになっていた薪本体からその炎が消えていき、もとの白樺の色合いを取り戻していく・・・


「あ、あのコイルはクロノス・アイと同じ働きをするのか・・・」


上空のコイル、ヴォン・・・ヴォン・・・と鈍い音を発したかと思うと青白い輝きが鈍り始める。


それを見ていたエジルたちが焦りだす。

「だめだわ、気温が高いのね。」

「ここでは効果が持続しない。」


彼女らの言葉尻でコイルは回転を止め、落下の衝撃緩和用のエアバッグを展開しながら地面にボン、バスリと落下した。

同時に半透明のドームは消え、森は静けさを取り戻した。


「え、もう終わり?」

晴義が残念そうな声をあげた。


慶子が説明する。

「超伝導コイルは極低温化でしか効果が発揮できないのよ。」


「そうなんだ。だから保冷庫から出してすぐに気温差で動きを止めてしまったんですね。」


「そうよ、察しがいいわね、晴義君。」


「い、いまのでどれぐらい時間が戻ったんですか??」


エジルらがアバウトな返答をする。

「うーん、数秒で効果落ちたから10日間ぐらいかしら?」

「いや、もっとないかも」


晴義、則子、コイルが落下したあたりの白樺林に入る。

則子、1本の白樺の樹に注目する。


「・・・わたしが樹に掘った文字が消えているわ・・・」


数日前に則子が白樺に刻んだ文字のあとがすっかり消えて元通りの木肌になっていた。


「さっきまで大きな火柱になっていた薪の山や、僕が焚き火用に切った枝とかも元に戻っている・・・たしかにあそことあそこの枝を切り落としたのに・・・」


慶子が近づいてきて言う。

「正確には元通りじゃないけどね。時間はアナログなのでどこか欠損はしているはず」


「そうね、慶子さん、お詳しいわね。」


エジルがそういうと、おそらく晴義が切った部位であろう枝がぐらりと捻れ、ばさりと地面に落下した。


「今のでたった10日弱程度なのでしょ。」

美和が落下したコイル脇に立って話す。

「さっきも言ったけど、その程度じゃ地球全体の時間なんて戻りっこないわ。しかも全人類の愚かな行動まで巻き戻すなんて、どれだけの時間の物量なのよ。」


「そうね、超伝導コイルを100個や200個、用意したってできっこないわ。もっとも100個も用意するだけでも大変なことよね。」


落下した8番コイルはまだ冷気を纏い、不気味な低音を発している。


エジル、にやにやしながら

「・・・それができるとしたらどうする?」


慶子と美和が全力でそのコメントを否定する。

「不可能よ。そもそもコイルの生産が間に合わないでしょ?それとも時間巫女が100万人とかいるわけ?」


「ありえないわ!」


「そうですね。まあ、あとは我々の仲間になるまでの秘密にしておきましょうね。」

「ええ、全部話すとつまんないですもんね。」


「・・・・。」


「先生、どうするんですか。」


「こ、荒唐無稽すぎて、どこまで信じていいのか・・・」


エジル、スリーカラに目くばせを送るとスリーカラ、いつの間にか用意していたジュラルミンケースをどん、とキャンプテーブルに置き、中を開けた。


「!!!」


中には大量の札束が日本円で入っている。


「もしわたしたちの仲間に入って色々協力くれるのなら、お近づきの印に皆さんにこちらをお渡しするわ。」

「もちろんこれは一時金で、仲間として同じ意思をもち、今後わたしたちと共に行動してくれるなら、もっといい待遇がまっているわよ。」


「それほどわたしたちに仲間になって、協力してほしいってことがあるのね。」


「そういうことですわ。」

「札束の下にわたしたちの連絡先のメモがあります。意思が固まったら連絡をくださいね。」


じっと札束を見ている晴義に声をかける姉妹。


「晴義くん、大学受験控えていたわよね。」

「お金必要よね。」


晴義、一瞬ぎくっとなり、無言で2人を睨む

(そ、そんなことまで・・・)




同ロッジ外

白樺林の中

さっきの人影がまだ晴義たちの会話を盗聴器で盗み聞きしていた・・・。

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