第15話 メトロンな戯れ

そして現在・・・



夜、伊豆のロッジ前 


スマホの画面を操作するスリーカラとその様子を腕を組ながら見ているエジル


キャンピングカーのサイドドアが開き、保冷庫にタイヤがついたような機械が中から降りてきて、こちらに向かってくる。


冷気のようなものをしたたらせながらドロドロと近づいてくる保冷庫・・・


真っ青な顔で見ている慶子

「な、なんなの?何をはじめようっていうの?まさか・・」


美和がつぶやく

「まさか連中、コイルを出すんじゃないでしょうね。」


晴義が聞き返す。

「コイルって?」


どろどろどろ・・・

保冷庫、ロッジの外にある木製のテーブル脇に止まる。


エジルとスリーカラ、保冷庫の傍に立ちながら


「お近づきの印に今日はこれを持ってきたわ!!」


エジルがそういうと、保冷庫のロックを開けるスリーカラ


それを遠巻きで見ている慶子たち4人。

「くっ・・・!」

慶子、胸に手をあてて、いつでも時の瞳を発動できるように身構える。


(ぎしっ、ぎぎっ)

スリーカラが凍り付いている保冷庫の扉をはがすように開あけると庫内の明かりがもれ、同時に冷気がふぁーっと地面を這い始めた。


「!!!」


スリーカラ、保冷庫に手を突っ込んで中から何かを出して、テーブルの上にゴトゴトと置き始めた!


「???」

「な、なに??」


それはソーセージや肉の塊、野菜などの食材だった!!


「え?」

「え?」

「えっ?」

「ぇっ?」


人数分の「え?」が聞こえたあと、エジルが言った。


「そうよ、お近づきの印にBBQをしましょう!!」


あまりの拍子抜けムードに腰も抜けた慶子

「な、なんですって・・・」




同 ロッジの外

数分後



焚き火の明かり、焼ける肉の香り・・・


BBQセットの脇にある大きなキャンプテーブルを囲み、なんとも言えぬ雰囲気で団らんをとる6人と3匹の犬


美和がBBQ大臣役を努めてせっせと焼いている。


慶子、無表情で

(なに、なんなの。何でこうなるの・・・)


エジル達、スマホをいじったりしながら、肉が焼けるのを待っている様子。


晴義、冷や汗をたらしながらエジルたちに話しかける。

「インドから来られたって言ってましたよね・・・」


「そうよ。」


「インドの人ってお肉はあまり食べないと聞いてましたので。」


「そういう宗教概念に縛られたままの人は多いわ。でも、最近そういう概念にとらわれず、いろんなものを自由に食べる人も増えてきたわ。わたしたちもそう。」


「ええ、それにこうやって世界をまわっていると、楽しいことたくさん経験しちゃうでしょ・・・一度きりの人生、色々経験しないと損だもの。」


「煩悩・誘惑が多すぎると、人間楽したくなるし、気持ちよくもなりたくなる。これだけ色々あると心も揺らぐわよね。・・・晴義君もそうでしょ。」


「僕の名前を・・・皆さんは僕らのこと、どこまで知ってるんですか?いつから見ていたんですか?」


慶子が思い出したように言う。

「あの時間ゾンビを遣わせたのもあなたたちなわけ?」


「あれはわたしたちじゃないわ。」


「わたしたちはむしろああいう乱暴なやり方には反対してたの。だからこうして話し合いにきたのよ。」


エジル、生のステーキをお預け状態の時間犬たちに3切れ投げる。

たちまち肉にがっつく犬たち。


「話し合いとは・・・??」

「そもそも何故僕らにつきまとうのですか?」


「必要だからよ。」

「そう、わたしたちの仲間になってもらいたいの。話したいことはそれだけよ。」


「仲間??」

「仲間になるって・・・」

「一体何の目的があって、わたしたちが必要なんですか。」


「色々やり直したいの。」

「取り戻したいものがあるの。」

スリーカラの言い方に少し何か不満を持ったのかチラリとスリーカラを睨むエジル。


「・・・『リセット』したいのよ。」


「リセット??」


「リセットって、えーと、何を?」


エジル、スリーカラをチラリと見ながら

「やっぱり、ストレートに話したほうがいいんじゃないかしら。」


「・・・姉さんにまかせるわ。わたし、いい言葉が浮かばない。」


「わかった。」


突然周囲の風景がモノトーンになる。

エジルの左目がいつの間にか青く光っている。

一瞬動きを止まってしまったように見えた晴義たちだが、ゆるりと動きを見せる。

いきなりの時間操作に対して明らかに動揺することがなくなった晴義らの成長がうかがえた。

時間犬3匹も、時の瞳の影響を受けることなく、はぁはぁと涎をたらしながら慣れた様子で次の肉を与えられるのを待っている。


慶子、奥歯を噛みしめながら

(くっ、やっぱり『時の瞳』の術者だったのね・・・ってことはこっちの妹面している女子も術者よね・・・!!)


美和が落ち着き払った様子で話す。

「なんで時間止めたんですかぁ」


「これから話しが長くなると、せっかく焼いていただいたお肉が冷めると思って」


「なるほど納得。」


シーン・・・と言葉をしばらく失う一同。則子が口を開く


「さっき、リセットがどうとか言ってましたけど・・・。」


「ええ、単刀直入に言うわ。今のままでは美しい未来はわたしたちにない。それが大きな理由です。」


「わたしたちの未来ってのは、僕らも含めての未来ですか?」


「そうよ。ここにいる皆の未来・・・。」


「わたしたちにとって都合の悪い未来がカイロス・アイの力で見えた?」


「カイロス・アイで見えるような単純な未来ではないわ。」


「それってどういうこと?」


慶子、美和がとっさに気づく

「はっ、まさか・・・」


「時のチャクラ・・・」


「ウラニア・アイ?!」


「ウラニア・アイの術者があなたたちの中にいるってわけ?」


晴義、ちんぷんかんぷんな表情で

「先生、なんですか、ウラニア・アイって??」


エジル、慶子と美和を見ながら

「ええ、わたしたちのリーダー、ジュリアは見たのよ。『時のチャクラ』、ウラニア・アイを用いて見えし暗黒の未来を。だから避けたいの。でも、誰も信じない。耳も貸さなかったわ。だからもう我々でやるしかないの。」


「え、暗黒の未来?」


「その人、何を見たっていうの?」


「ジュリアって誰?」


「ジュリアはわたしたち、ルーデンスのオピニオン・リーダーよ」


「え??ルーデンスのリーダー??」


慶子、それを聞いて口をぎゅっと紡ぎながら

(ウラニア・アイを使えるものが彼らの中にいたとは・・・しかもリーダー格?)


エジルの左目の輝きが少し大きくなる。

一同、一瞬ビクッとなり、身構える。


「そうよ。わたしたちもルーデンス、あなた達も含めてね。」


「え??」


「どういうこと??」


エジルの左目の青い輝きが増していく!

BBQの上で焦げた肉が、みるみると逆転し、火にあぶられる前の姿を取り戻していった!


晴義ら、あまりの緊張で身動きできないでいる。


「もともとはわたしたちは同じ思想を持つ1つの組織だったのよ。」


「え??・・・・」


「それが、数年前におかしなこととなって、今の状態にあるの。」

エジル、慶子をちらりと見る。

慶子、思うところあり、ハッ、となる。


(まさか正和さんの・・・)

慶子の頭に消えた旦那のイメージがよぎる。


則子がややパニック状態で声を出す。

「ちょっと待って、わたしたちの命を狙っている連中が、同じ組織??」


「情報量多すぎ、しかも1つ1つがでかすぎる・・・。」


「いきなり言われても、考えがまとまらない・・・」


「そのジュリアさんってのは何を見たのですか?核戦争?大地震?死のヴィルス?AIの暴走?」


エジル、上空に輝く月を見ながら

「未来予言の話をもちだすと、たちまちクレイジー発言扱いになるのよね。おかしな話だわ。」


スリーカラが美和に語りかける。

「檍美和さん、だったわね。時間巫女のあなたならわかるわよね。」


美和、何も言えず立ちすくむ

「・・・。」


「そうよ、タイム・シャーマン。あなたの先祖は時の『神懸り』を司る神官をサポートする役目を持っていたことは知ってるわよね。」


「ならば我々の思想がわかるはずだわ。『時祭』とは、そもそも地域環境の充実と安定を願う祈りの場だったはず。」


「日本だけじゃない、世界中にそういった神官がいて、巫女がいて、『時祭』を行い、その地域の環境の幸せと秩序を祈り、守っていたわ。」


「でも時の流れがわたしたち時間神官、ルーデンスの力や考え方を薄れさせたわ。それは地球とわたしたちルーデンスにとって、いけないことだったのよ。」


「だから取り返したいの。このままでは破滅するから。」


「破滅・・・って・・・。」


「いや、そのウラなんとかアイで、どんな悲惨な未来を見たっていうのですか?」


「・・・。」


エジル、意を決したように口を開く


「時間軸の・・・崩壊よ」


一同、それを聞いて身体が凍り付く


「時間軸の・・・??」


「崩壊・・・??!!」

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