第14話 Ludens in JAPAN

4週間前

羽田空港 到着ロビー


「お待たせー!」


「スーったら、もう着替えたの?」


超ミニスカートファッションで化粧室から出てきたスリーカラを見て呆れるエジル。


「古臭い信仰に縛られた服を一刻も早く脱ぎ捨てたかったのよ!それに・・・!!」


くるくると回りながらはしゃぐスリーカラ、周りの男性の目線を釘付けにしている。


「若い時にしか、こんな恰好できないし!」


「まあ、気持ちは解る・・・しかしあんたがその恰好で・・・わたしだけスリダじゃバランス悪いわね」


「エジルも早く着替えなよ。トイレ、めっちゃ綺麗だったよ。信じられない。ワンダフルジャパン!」



ガチャリ!

空港のトイレからミニスカファッションで出てくるエジル。

二人、いきいきとした表情と足取りで空港のタクシー乗り場へ。


「運転手さん、英語わかる?」

「ノー、アイキャンスピークイングリッシュ」

「これだから日本人は」

「東京で一番にぎやかな街に連れていってください。」

「オー、OKOK、アンダースタンド。シンジュク、カブキチョウ、OK??」

「OKOK」

「わたし、秋葉原に行きたいんだけど。」

「じゃ、新宿のあとにしよう。」


走り出すタクシー



数分後 首都高速道路


軽快に走るタクシー。目に入る街並みを見ながらはしゃぐスリーカラ


「やっぱ都会っていいね。」


「たまに来るとね。」


「昨年のシンガポール以来だもんね。こんな大都市に来るの。」


「そうね・・・人とエネルギーの坩堝ね」


エジル、ギラギラと反射するガラスの壁面を持ったビル群を見ている。


日本の季節は冬に入ろうとしていたが、日差しが強く、ビル群が密集するあたりにゆらゆらと蜃気楼のようなものが見えている。

ビルの屋上からは熱交換器の仕業だろうか、蒸気がところどころであがっているのが見える。


「・・・・・・粛清、そして・・・。」


羽田に着陸態勢の旅客機が低空飛行で高速道路の上を通り過ぎていく様子が見える。


「取り返すわ・・・必ず・・・、父さん、母さん・・・」






3日後


夜、都内某所のホテル


暗い部屋の中、スイートルームのキングサイズベッドの上で裸で寝転がっているエジル。

ベッドサイドに秋葉原で買ったと思われるフィギュアの箱やキャラグッズが並んでいる。

彼女の隣に日本人の男が同様に裸で寝ていて、むくりと起き上がるとエジルの脱ぎ捨てた服やバッグをまさぐって財布を探し出し、現金とカード類を抜き取った。


服を着て、そのまま部屋を出ようとしたとき、青白く目を光らせた人影に気づく。

さっきまで寝ていたはずのエジルだ。


「ひっ!」


「最低ね、まったく・・・」


エジル、ズレ落ちたネグリジェの肩ひもを修正しながら「ふん、」と鼻息をはなつと左目の奥で何かが回転するような動きを見せ、青い輝きがひと際大きくなった。


「えっ!うわっ、くぉっ!」


男の身体とその周囲がモノトーンの色合いとなり、男の動きがスローモーションのような緩い動きになった!


エジル、左肩に右手を置きながら鼻息、歯ぎしりが激しくなると同時に左目の輝きもさらに増した!


「ふーっ!」


エジル、最後に強く息を鼻からはくと、モノトーンだった男の身体は空間に捻れるように消えていき、男が盗んだはずの現金とカード類がバラリと床に落ちた。



同、ホテル内

エレベーターシャフト

先ほどエジルの力で消された男の身体が瞬間移動でもしたかのように、シャフト内に現れる。


「え?」


男の目の前にはフロアドアらしきものが見えたが乗客を乗せる「篭」はない!


「ぎやああああああっ!」


一瞬、男はまるでギャグアニメのキャラのように足が宙を蹴り、悲鳴をあげながら真っ逆さまの恰好で落下していく・・・。



同、ホテル内

エジルらの泊まっているスイートルーム


エジル、床に落ちた現金とカード類を拾っていると、奥にあるもう1つの寝室からスリーカラが目を覚まして起きてきた。


「う・・・・ん・・・あれ、姉さん、どうしたの?」


「どうしたもこうしたも・・・また男に現金とカード取られるところだったの。」


「え・・・」


寝ぼけ眼で周囲をキョロキョロとするスリーカラ


「どうもお酒飲むとダメね。毎度無防備すぎるわ、わたし・・・」


「え、えーっと・・・あの・・・男は逃げたの?」


部屋の外が騒がしくなって、救急車のサイレン音が聞こえてきた。

その音を聞いてとっさに何かを悟るスリーカラ

「ま、まさか・・」


「イエース、デリート オールレディ。ファッキン・シーフ!」


「えー、そうなの!!??なんか姉さんと久々いい雰囲気だったのに・・・」


スリーカラ、床に落ちたエジルのバッグと財布を拾いあげようとして、ショーツが落ちているのに気づく。


「あ、それわたしの」

冷蔵庫をあけてミネラルウォーターを飲みほすと、そのショーツを拾って履きなおすエジル。


ドアの外に顔を出して外の騒ぎを見たスリーカラ、少し呆れ顔で

「別の時間軸に送ればいいのに・・・消さなくてもいいよね??」


トイレに入るエジル、用を足しながらスリーカラに返事をしている。

「泥棒は嫌いよ。インドでもさんざ盗まれたわ。一瞬でもう顔も見たくなくなって・・・あの男、セックスはよかったのになぁ・・・」


「だったら消さなくたっていいじゃない・・・」


ジャーーーッ!水を流す音のあと、トイレから出てくるエジル


「そんな甘いこと言ってると、いつか男に騙されるわよ、あんた。」


「わたしは姉さんとは違うもん。」


「いつまで処女を気取ってるんだか」


「わたし、もう処女じゃありませんから!」


「あれ、そうだったっけ?」


「・・・シスコ行ったときに・・・したのよ」


「えー、なんだそうだったの。言ってよね。え?インドで彼はいるの?」


「いたけど、こないだ別れたわ。許嫁いる相手だったし。」


「なによ、急に女づいてきたじゃない。」


「だからいつまでも子供扱いはやめてよね!」


「よーし、スーも男遊びデビューしよっ!」


「・・・日本人と恋愛しにきたんじゃないでしょ」





さらに3日後

東京近郊の温泉旅館


同、客室 露天風呂付きスイート


また裸でベッドの上でひっくりかえっているエジル。

ベッドの周囲には服、荷物やら飲み物、酒の瓶類が転がっている。


ぶぶぶぶ・・・とどこかで鈍い音がしている。

浴衣姿のスリーカラが部屋に備え付けのマッサージ器で身体をほぐす音だ。

スリーカラ、寝ているエジルに向かって話しかけるが、声がマッサージ器の振動で震えている。

「姉ぅぇさん、そうぅいえぅば日本ぅに来て何ぅん日経ったかぅぁしら」


寝転んだまま片目をあけて答えるエジル

「わからない・・・楽しき過ぎて・・・どうでもよくなってきた」


「だぅぁめよ・・・こぅのままだぅぁと、ジュリアにわぅぁたしたちもぅぁ消されるわぅぁよ。」


「そ、そうね・・・うーん・・・そろそろ行動しましょう。」



冷蔵庫からケーキを引っ張り出して食べるインド人姉妹。


「あ、そういえば、アチョークまだ日本にいるかな。」


「いるはずよ。そう、電話入れて協力求めておかないと。」


「・・・ねえ、わたし少し太ったかも」


「日本のスイーツ、美味しすぎだわ」


「生活も不摂生だったし・・・」


「・・・ところで、歯痛くない?」


「姉さんも?」




さらに15日後

都内某所


部屋から海が見える海沿いのリゾートマンションの一室


寝室のキングサイズベッドの上で裸でひっくり返っているエジル

部屋はかなり散らかっている。


閉じていた目をゆっくりと開けながら


「だめだ・・・この国は楽しすぎる・・・」


そこにミニサーフボードを片手にウェットスーツ姿で部屋に入ってくるスリーカラ。


「ただいまーー、あれ?彼は?」


「消した」


「えーーー、また?」


「だってやめてって言ったのに、中で出すんだもの。別の時間軸作るしかないよね。」


「でも消さなくても・・・」


「存在自体がうざくなったのよ。あーあ、セックスがいい男にかぎってくだらないわ。どうしてかしら。」


部屋から冬空の下に広がる海をぼんやり眺めるエジル


「日本の季節ではそろそろ冬らしいけど、デリーに比べたら、変に暖かいわね」


「ええ、寒いうちに入らないわ」


ウェットスーツをグニグニと脱ぐスリーカラ、美しい肢体に数か所、何かで討たれたような古い傷がついている・・・。




深夜


インスタントのカップ麺をすすりながら映画を見ている姉妹


「やばいわ。インスタントでこの美味さ・・・」


「わたしたちの国のそれと、クオリティが違いすぎるわね。」


「日本やばいわ・・・サンフランシスコの次にいいところだわ。」


「そうね、シスコもよかったわね。男のレベルも。」


「そうねえ・・・日本の男の子も悪くはないけどね。」


エジル、思い出したようにクローゼットの引き出しから歌舞伎がプリントされたシャツを出して、タリーマーク「卌」を書く。


「それ、また例のカウント?」


「そう日本に来て消した人間の数」


「姉さん・・・多すぎる・・・」


「何言ってんの、あんただってそのうち・・・」


ぴろろろ!ぴろろろ!

けたたましく鳴る携帯電話。

電話をとる前に頭を数回ぶんぶんとふって、一口冷蔵庫のペットボトルの水をぐびっと飲むスリーカラ

「いたたた!歯!」

冷水が虫歯にしみた様子で、突然飛び上がって叫ぶ。


「大丈夫?」


「ふぁい丈夫」


急いで電話に応答するスリーカラ


「あ、はい。あ、はい、えーと、ノー・プロブレムです。ええ、はい。はい、わかりました。はい。はい、どうぞ。ええ、伊豆・・・いえ、行ったことないです。はい・・・はい、わかりました。ではまた。」


電話を切るスリーカラ


エジル、テーブルの上に残っていたピザを食べながら

「なんだって?」


「連中、週末伊豆にいるとき多いから、そこで会えって。」


「わざわざそんなところで会えってのは、人気のない場所ってことかな。」


「そうみたい。住所はあとで送るって。」


「えーっとじゃあ、今週末に連中と会うってことは・・・」(ニヤリ)


「あと3日遊べるわ!」


「やったね!っって、歯!!痛たた!!」



お風呂に入っているエジルとスリーカラ

大き目のバスタブでゆられながら向き合って話している。


「虫歯・・・わたしも相当痛いわ。」


「スー、あなた、ほっぺた少し腫れているわよ。」


「いやだ・・・どうしよう。」


「これでもしこれから会う連中と戦闘にでもなったら、支障が出るわね。」


「歯医者行く?」


「だめよ。あまり行動の証拠を残したくないわ。」


「やっぱりそうよね・・・。」


「しょうがない、あれをやるか。」


「・・・そうね・・・。」



バスルームのドアが青白く輝き、やがてその光がすうっと消えていく・・・



バスタブで向き合いながらしばらく無言の二人



「ねえ、姉さん。」


「なあに、スー。」


「わたしたち、どこまでも一緒よね。」


「あたりまえでしょ。今更なによ。」


「・・・なんかセリフ失敗したかも。」


「なに?」


「いや、この状況、死亡フラグ立つようなシーンだから。」


「死亡フラグって何?」

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