第10話 稀代の天才

翌日、テレカンで話し合う晴義、慶子、則子、美和の4人

司会を務める慶子


「では皆さま、昨日の活躍ご苦労さまでした。」


「活躍って・・・あれはただの襲撃ですよ。何か敵の罠だったのでは」


「そうだと思うわ。えーと話に入る前に1名紹介しますね。」


則子が顔を少し乗り出した

「さっきから5人目の枠があるのが気になってました。」


「新メンバー?」

晴義も興味津々だ


「えーと馬酔木(ますき)くん、自己紹介をどうぞ」

慶子から馬酔木と紹介された枠は真っ暗けのままで声だけが聞こえてくる


「馬酔木です。よろしくお願いします。」


「カメラがOFFですね。」


「お顔が見えません。」


「あ、顔は隠してます。色々ばれるとまずいので。」


「・・・なんかやばい系の人ですか」


色々質問が飛び交う中、美和だけが黙って聞いている。


「えーと、慶子先生、僕のことはなんと紹介すれば良いでしょう・・・」


「あ、えーと、馬酔木くんは我々の協力者です。主にメカニック担当。」


「へえ・・・」


「メカというと、秘密兵器とか、7つ道具とかそういう・・・」


「まさにそのとおりよ。たぶん、これから彼の発明品が役に立つときが来るわ。」


「役に立つときが来ないほうが平和なんですけど・・・」


慶子が深刻そうな顔で言う


「残念ながらわたしたちはもう連中の追っ手をさけられない状況にあるわ。悪いけど皆、覚悟をきめてちょうだい。」


「・・・・」


シーンとなる一同


「ではえーっと、馬酔木くんの紹介がおわったので、各自自己紹介をお願いします。晴義君からどうぞ。」


「あ、はい・・・」


晴義、則子の順で自己紹介が進んでいくが、馬酔木は黒い画面のままなので聞いているのかどうかわからない。


「馬酔木君、聞いているわよね。」


「聞いてまーす」


「では、続けて・・・檍さん。えーと、檍さんは晴義くんの幼馴染だそうですけど、わたしも則子さんも・・・まだあなたに会ったばかりというか。てなわけで自己紹介どうぞ」


「・・・檍美和です。今、椿坂先生が言ったとおり、晴義とは幼馴染で・・・まあ、晴義がいつかこんなふうに時の瞳に開眼するのはなんとなくわかっていましたというか・・・」


「えーーー」

やっぱそうなんだ、という雰囲気の晴義


「まあ、檍家は代々巫女の家系で・・・わたしのおばあちゃんが、晴義君の素質を見抜いていたみたい。なので、おばあちゃんから刷り込み済です。」


「そ、そんな子供のころから僕を・・・」


「古代から時間巫女は神官を補助する役目でした。でも、時間神事・・・つまり『時祭』があたりまえだった古代から現代に移行するにあたり、その時祭で神官たちは時の瞳を使うことがなくなったわ。」


「・・・人々が奇跡を信じなくなって、時祭の意味も価値も失われたってわけね。」


「はい、同時にわたしたち時間巫女の役目も違う形になっていったってことなのかなって思ってます。」


「今じゃ巫女さんっていうと萌えの存在になってしまったぐらいだもんね。」


「そうだね・・・。なんか間違ってるけど。」


慶子、言葉を選びながら美和に話しかける。

「時間巫女はわたしが知る限り、ルーデンスのサポート役になるはずよ。わたしの知らない力があなたにあると思うのだけど」


「わたしもそう思うけど、まだどう使うのかはわからないわ。なんといってもあんな連中と闘うのも初めてだし、できれば・・・一生闘いたくもなかったし・・・」


「それで存在を黙っていたのかい」


「女子だもの、普通そう思うよね?・・・できれば見たくも関わりたくもなかった・・・。」


慶子が語りかける

「でも、わたしたちのピンチをよく見捨てないで出てきてくれたわ。ほんと、感謝している。」


「そう、見捨てられなかった・・・そうなのかな。なんか飛び出してしまいました。・・・というかんじでわたしの自己紹介はこれぐらいでいいですか?」


則子が会話に割って入る

「ねえ、さっき言ってた 晴義くんの素質って?」


「わたしにもまだわからないけど、おばあちゃんが感づくぐらいだもの。なにかあるのよね。連中もだから晴義君に目をつけたんでしょ。」


頭をかかえる晴義

「なんだってんだ一体・・・」


馬酔木のボイスが入る

「あのー、そろそろ僕次の仕事のテレカンがはじまるので、ぬけていいすか?」


「あー、どうぞ。ああ、馬酔木くん?例のもの、必要になったわ。できてるかしら。」


「できてますよー、デリバリーしますか。」


「ええ、最低3セットはお願い。」


「先生ー、例のものってなんですか?」


「秘密兵器よ。なのでまだ秘密。」


晴義が勘弁してほしいという顔で慶子を見ている

「なんですか、それ・・・」


「慶子先生」


「ん??馬酔木くん、なにかしら」


「次回からこういう会議、妹さんにもそろそろ参加してもらったほうがいいんじゃないの」


「妹さん??」

一同、慶子のほうを見る


「・・・妹は・・・まだいいわ。」


「そうですか。じゃ、僕はこれで」


プツリ、とテレカンの画面からいなくなる馬酔木

慶子、余計なことを言いやがってというような顔をしている。


慶子に妹がいることが解って、シーンとなっている一同。


馬酔木のあの言い方だと、慶子の妹が何かしらの協力をしてくれるように思えたが、慶子がそれについて話をしはじめそうな気配は感じられなかった。


則子がシーンとした空気を割くように話し始める。


「先生、馬酔木さんてイケ面ですか?声がわりと素敵。」


「うーん、イケ面・・・なのかな?もう少し綺麗にすれば女子にモテるかも・・・」


「えー、汚いの?」


「汚いというよりも、仕事で忙しすぎてガサツというか。ひげ面というか。たまに小さっぱりした顔になるときがあって、それは女子と遊んだあとだなってのがわかるというか」


「(笑)(笑)(笑)なんとなくイメージできました。」


「彼は天才よ。そのうちわかるわ。色々とね。」


「へえー、興味津々」


テレカンの画面を閉じた馬酔木だが、慶子らの会話を特殊な技術で見聞きしている。


「まる聞こえだぜ、お嬢さんたち。まあ、イケ面の噂たててくれるのは、悪くはないね。」


モニターに映る晴義を指でぐりぐりしながら

「さて、このぼっちゃんは・・・何を見せてくれるのかね、このあと。」


超低温保冷庫を開ける馬酔木。

濃い冷気がふわーっと床に広がり、庫内から放たれる青い光が、馬酔木の部屋を照らした。

保冷庫中央に固定されているシリンダーのような形状の超伝導カプセル。

その上下の『蓋』がグリングリンと鈍い音をたてて回転している。

表面に手文字で”NART:31”と描かれた青い光を放つ超伝導カプセル内に黒い粉のような物質が入っている。


その粉をカプセルのまま眺める馬酔木。


「・・・今度こそ、きみたちを信じていいのかい・・・」

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