第7話 横荻則子

夜、横荻則子(よこおぎのりこ)が住んでいるアパート前

車で到着する晴義と慶子

晴義、先ほど時間犬に噛まれた部位に包帯を巻いている。


「ここが横荻則子の住んでいる場所ね。母親と2人暮らしらしいわ。」


「うちと割と近所だな・・・なんで同じ駅で通っているのに、今まで会ったことがなかったんだろう。」


「記録では今月、転校してきたばかりよ。」


「そうだったのか、どうりで・・・」


「わたしのカンでは、たぶん横荻則子はすでに時の瞳を開眼していて、連中からマークされている身になっていると思うの。」


「だからあの日、自殺をしようと・・・??」


「まあ、思春期の女子だから、何を考えているのかわからないところはあるけどね。でも何か思いつめているからああいう行動に出たんでしょう。そんな彼女をあなたが救った。これは何かの巡りあわせであり、時間軸がもたらした運命なのかもね。」


「・・・あっ、部屋に明かりが・・・ちょっと今から横荻さんに逢ってきます。」


「いきなりの展開ね。」


「まわりくどくなくていいでしょう。」


「うふふ、では突撃しましょう。」


「いや、先生はここで」


「あら、そう」


「女子生徒の情報を先生が僕に流したと思われてもまずいし、先生が時の瞳の術者であることはまだ横荻さんに知られないほうがいいと思って」


「なるほど、ではわたしはここでおいとまさせていただくわ。また状況連絡ちょうだいね。」


「わかりました。」





横荻家のチャイムを鳴らす晴義


(ピンポン)

もう一度呼び鈴を押してみる

部屋の明かりは煌々と着き、電気メーターもまわっているが・・・居留守だろうか、何の反応もない。


「こんにちは、横荻さん・・・僕です。数日前、駅のホームで逢った」


ごそごそと玄関で音がして、ガチャリとドアが少しあいた。

内鍵をかけながら外をのぞく横荻則子の顔が見えた。


「・・・。」


ばたん!お約束どおり、ドアがしまった。


「あ、あのさ!話したいことがあるんだ!横荻さん、話を聞い・・・」


そう言い終わらないうちに、またガチャリとドアが少し空いた。

明らかに不信そうな表情ではじめて口を開く則子。


「やめてください。ご近所に変に思われるわ。帰ってください。」


「だ、大事な話なんだよ。僕らの力のことや、危険がせまっているかもしれないこととか・・・」


「・・・。」


「僕らの力にはきみも気づいているんだろ?」


「・・・。」


「数分で終わるから」


「・・・。」


ばたん!とドアがしまると、内鍵をはずす音が聞こえ、再びドアが開いた。


「おかあさんが務めからあと1時間ぐらいで帰ってくるわ、それまでなら。」


「あ、ありがとう。入っていいのかな。」


「・・・どうぞ」


部屋に入ると、則子は半パンにチューブトップのシャツというわりと露出の高い部屋着姿だった。

ブラジャーもつけてないように見えた。うっすらとバストトップの形が見える。

晴義、則子の姿に少しどきっとすると、あっという間に股間に血が充填されるのを脳と身体で感じ取り、少し焦りだす。


(やばい、また・・・)


身体にそのカタチが浮き出てしまうことをなんとかごまかせやしないかと、部屋の中をきょろきょろしてしまう晴義。

部屋はまだ引っ越しの片付けが全部終わっていないらしく、開かずのダンボールが積まれたままだった。

棚には体操の大会かなにかでとったようなトロフィーがいくつか飾られていて、レオタード姿で競技している則子の写真が添えられているのが見えた。


「ま、前の学校では、体操の選手かなにかだったの?うちの学校ではもうクラブに入った?」


則子、その質問には答えず

「まず先日は・・・先輩に助けてもらって、ありがとう・・・と言えばいいですか。」


「僕のこと、年上だってわかるんだ。」


「先輩がわたしを校内で探しているときに、逆に先輩のクラスまであとをつけたんです。」


晴義、目の前にいる女性の生肌の面積の多さに、目のやり場に困っている様子


「そ、そうだったんだ。ていうか、あ、あのさ・・・上着をはおったほうがいいんじゃないかな、一応。男子の目の前だし。」


「先輩、時間を操れるのでしょ。その瞳で。」


「え、知ってるの」


「そんな相手には、どんな服着てても無防備だもの」


「僕はそんなことしてないよ。まだ・・・」


「そのうちしますよね、きっと・・・」


「し、しません。少なくともきみにはしません。約束します。」


「ほんとかなぁ・・・で、話ってなんですか?」


「よ、横荻さんはなんであの日、自殺なんかしようとしたの?」


「連中が追ってくる生活、人生にうんざりしたんです。わたしが死ねば楽になると思ったから、そうすることにしたんです。」


「連中って?」


「先輩ももう出逢ったのでは?それともこれから逢うのかな。心当たりあるはずですよね。その怪我とか・・・?」


「あ、これね。まあ、心当たり・・・あ・・・あるね」


晴義は包帯を巻いた手を少しさすりながら話を続けた。


「で、きみはその連中に何かされたのかい?」


「これからされるかもしれないし、とにかく付きまとわれるのがいやだったんです。転校したら何かかわるかもと思ったけど、変わらなかったわ。」


「どんな連中なの?」


「はっきりとはわからない。でも、嫌な視線を感じるんです。」


(椿坂先生も、同じようなことを言っていたな・・・『時の瞳』所持者特有のセンスだろうか・・・)


「・・・でも、きみが死んだらおかあさんが悲しむよ。」


「ええ、そう思います。でも、わたし、あの日死なないこともなんとなく見えていたんです。」


「え?」


「先輩が助けてくれることまでは、わかりませんでしたけど、そういう時間の分岐が電車に飛び込む前から見えていたように思います。だからとりあえず飛び込んでみようって」


晴義の脳裏にフラッシュバックする則子の飛び込みの様子


「と、とりあえずって・・・そ、そんな賭け事みたいに自分の命を?!」


「でも、実際にわたしは死ななかった。死なない時間軸で生きています。」


「時間軸の理論もわかっているんだね。」


「ええ、なんとなくですけど」


部屋にあるアナログ時計の文字盤に二人の姿が反射している。


少し下がっていたチューブトップをたぐりあげる則子。

柔らかそうな則子の乳房が、ぷるりとその仕草の中で揺れた。


(この子は死の時間軸から生の時間軸へ・・・)


生と死の大きなギャップ・・・

あの日、もし電車に飛び込んでいたらバラバラの屍となって焼却されていただろうはずの則子の身体が、目の前で生肌を晒して呼吸している。

ただそれだけのことだったが、やけに生々しく、そして性的に愛おしく感じられた。

また晴義の股間がぎゅんと堅く、熱くなってきた。


「き、きみに会わせたい人がいるんだ。」


「保険の椿坂先生ですね。」


「それも知っているんだ」


「先輩の行動を見ていて、なんとなくですけど。・・・それともう一人・・・」


「もう一人?」


そのとき、則子の携帯にチャットの着信が入った

「あ、母からです。あと数分で到着しそう」


「え、あ、じ、じゃ、また明日学校で。放課後保健室にきて!先生に話しておくよ!」


「わかりました。」


あわてて立ち上がる晴義だが、則子の姿を見ていてすっかり欲情したらしく、膨らみきった男性でつっぱった股間に激痛が走る!


「って!、あいててて!!」


「ど、どうかしました?」


「い、いや、なんでもない、あは、ははは!」


振り返ることもできず、股間を押さえることもできず、ぎくしゃくとした動きで玄関を出ていこうとする晴義。


「??」


晴義の不審な挙動を瞬時にキャッチした則子。


(ギン!)

則子の左目が青く輝くと、周囲の風景がモノトーンになり、晴義の動きがスローモーションになる。


「へえ、この人は白く輝いて見える・・・。」


晴義に近づき、晴義の身体をじろじろ見る則子。

晴義の下半身の変化に気づく。


「あ、そういうこと。あははは・・・」


時の瞳を解き、何事もなかったかのように玄関からこそこそと出ていく晴義を微笑ましく見送る則子。


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