第2話 Y-Shaped Road
神奈川県 藤沢市
いつもの朝、いつもの登校風景
駅のベンチに座り学園行きの電車を待つ九月晴義(くげつはるよし)の目の前を千羽鶴を持った幼い少年と母親の姿が横切った。
そのとき!晴義の右目がかあっと赤くなり、目の奥で何かが回転しはじめる。
晴義は自分の目の変化に気づいていないが、視界の変化には気づいた。
「!?」
晴義の視界には周囲の風景がモノクロームのスローモーション映像となって見えていた。
千羽鶴のむこうに不思議な「光彩」を放つ怪しげな挙動を持った人影がいる。
それはモノトーンの背景に際立って見えたのだ。
見慣れた母校の制服を着た女子生徒の姿!
(あれ・・・?うちの学校の生徒?)
ふらふらとした足取りでホーム上の白線を越えていく女子生徒。
そのままでは快速がつっこんでくる線路へと身体が落ちるのは明確な挙動だ。
「あぶない!」
晴義は赤い目を光らせたまま思わずベンチからとびあがり、ホームから落下寸前の女子生徒にかけよる。
視界はモノクロのスローモーションのままだ。
女子生徒の身体は完全にホームから逸脱し、線路へ落ちようとしていた。
(くそっ、間に合わない?!)
晴義が諦めかけたその刹那、赤い目は輝きを止め、今度は左目が鈍く青色に輝くと線路に落下するはずの彼女の身体がホームにひき戻るような挙動を見せた。
(!!??)
間一髪!!晴義は女子生徒の腕をつかみ、思いきりぐいと自分のほうへと引き寄せた。
半身以上線路にかかっていた女子生徒の身体は、ホームにもどされ、晴義とともにその場に倒れ込んだ。
(いてて!!な、なんか間に合ったか!?)
快速電車が急ブレーキをかける音と、人々の悲鳴が聞こえた。
かけよる駅員らと、鳴り響く駅の非常ベル。
明らかに人身事故の体を成した光景・・・!!
(え、何? え!!、あれ??!!)
さっきぐいと引っ張ったはずの女子生徒の身体は晴義の手にない・・・。
晴義は駅ホームの床に1人で力なく倒れていたのだ。
左目の青い輝きもいつの間にか消えていた・・・。
急停車した車両に周囲から野次馬が集まってくる。
(え、え??!!な、さ、さっきの女の子を・・・助けられなかったのか?!)
女子生徒の身体がバラバラになった光景を想像し、青ざめる晴義。
しかしながら、自分のそばにはあの女子生徒が唖然とした表情で立ちすくんでいた。
晴義に間一髪自殺を止められた女子生徒、横荻則子(よこおぎのりこ)も春義と同じ光景を見ていた。
「・・・!!」
身体の震えがとまらず、カバンを落とす則子。
二人の目があったその刹那、停まっていたはずの快速電車と野次馬は消え、
代わりに定刻どおりの快速電車・・・そう、則子の身体をバラバラに切り裂くはずだった快速電車が二人のわきを通りすぎていった。
「え?!なんで??」
線路向こうにある踏切の音が鳴る中、何が起こったかわからぬまま見つめあう2人。
やがて踏切の音が消えると、則子は我に返り、落としたカバンを拾うと
晴義の視野から逃げるようにどこかに消え去っていった。
「あ、あの、ちょっと!」
(あ、あれは、うちの学校の制服・・・下級生か?)
わけがわからないまま立ち上がる晴義、(俯瞰)
しかし線路に目をやると、一瞬!電車が停まったままでいる人身事故現場がまた見えた。
(あれ?!!)
同時に晴義を襲う激しい頭痛と耳鳴り。
思わず目をとじ、こめかみを指でおさえる。
すると耳鳴りが消えると同時に、停まっていたはずの快速電車も消え、空のホームが見えた。
そしてそのホームにいつも通学で使っている各駅停車の電車がガタゴトと何事もなかったかのように侵入し、停まった。
(か、快速電車が消えて・・・??なんだ・・・なんだったんだ・・・・)
訳が判らぬまま、ふらふらとした足取りで電車に乗る晴義。
その様子を遠くから見つめる目があった。
椿坂慶子(つばきざかけいこ)・・・晴義が通う高校の保険教師だ。
慶子はスマホで晴義と則子の写真を撮っていた。
スマホを懐にしまう慶子の左目から青い光が消えていく・・・
晴義の通う高校 教室内
登校を終え、教室の席に座る晴義だったが、また激しい頭痛が起こり
席につっぷしてしまう。
周囲から声が聞こえる
「あれ、晴義は?」
「まだ来てない?」
「なんか人身事故あったらしいよ。電車停まってるっぽい。」
「あー南さんや、立石さんも来てないよね。同じ電車だから。」
(どういうことだ?僕はここにいるんだけど!)
しかし頭痛と耳鳴りが、晴義の身体を押さえつけるように襲い、晴義はそれ以上動くことができない。
まるで狂った重力下にいるかの如く、ぺしゃんこに押しつぶされそうな勢いの痛みだ!
(な、なんだ?ぼ、僕の手が??!!)
更に手が急激に重くなり、机に同化していくような錯覚を見る晴義。
(うっ、うああっ!つっ!!・・・なぜだ?!僕がこれだけ苦しんでいるのに、だれも助けてくれないのか?)
がくがくと震えながら汗だくの表情で同じクラスの女子、檍美和(あおきみわ)が座っている席のほうを見る晴義。
美和は幼馴染だが、晴義の変化に全く気付く様子もなく、別の女子と笑顔で話し込んでいる。
晴義が1人苦しんでいる中、始業チャイムが鳴り、先生が入ってくる。
先生も晴義の様子に全く気づいていない!
「えーと、なんか私鉄で人身事故あって数名遅れてるっぽいな。」
先生がそう言い終わると、南と立石が少し息をきらせて、クラスに入ってくる
「おお、ちょうど授業に間に合ったか。事故のわりには意外と早く着いたな。」
「はぁはぁ、バスで三島駅まで振替輸送してくれたんです。」
「なるほど、あとは・・・」
「九月くんがまだでーす。」
晴義には周囲の声がエコーがきいたような音となって聞こえている。
(せ、先生、僕はここにいます・・・)と言いかけた直後、クラスの後ろの扉が開き、1人の生徒が入ってきた。
「おっ、九月もきたな。」
先生の言葉と目の前の光景を信じられない様子で見つめる晴義
頭痛と耳鳴りがズドン!とひどくなる。
心臓がさらにバクバクと動き、汗が大量ににじみ出てきた。
「すいません、遅くなりました。」
もう1人の自分がそういいながら、晴義の席に近づいてくる。
(ぼ、僕がもう1人???なんだ?なにがどうなって・・・??うわ、来るな、来るなあっ!)
頭をおさえながら必死で立ち上がり、もう1人の自分の動きを止めようとする晴義。
だが次の瞬間、もう一人の自分の身体が晴義の身体と同化し、消えてしまうと
頭痛と耳鳴りも消えた!
「う、うわっ!!」
思わず声をあげてしまう晴義
その声で一斉に晴義のほうを振り向く周囲の生徒たち
その視線にぎょっとなる晴義
だが、次の瞬間!
「あ、あれ??」
振り向いていたはずの生徒たちは普通に前を向き、先生の授業に耳を傾けていた。
(なんだ?何が起こっている・・・??なにかがおかしい!)
自分の手を見つめる晴義、
(はっ?!)
手が二重に見える。いや、二重というか、別の自分が席に座っていて、
別の自分はペンを持ち、真面目にノートをとり、いつもどおりの様子で授業をうけていた。
その別の自分の身体に晴義自身が重なって見えた。
(ぼ、僕の身体がふたつに・・・)
また頭痛と耳鳴りが激しくなる中、晴義はペンケースからペンをとり、
二重に見える自分の腕にあわせるように、右腕を動かしてみた。
「くっ・・・!!」
突然右腕が自由になり頭痛が消え、二重に見えていた別の身体が消えた。
いや、いつもの自分にもどった・・・。
汗だくの表情で、ホッとする晴義
そんな晴義の様子に気付く檍美和。
晴義には悟られないように、横目で見ている。
「・・・。」
そしてクラスの外から晴義をみている保険教師・椿坂慶子がいた。
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