カサンドラ・アイズ

@BNR34_RB26DETT

第1話 序章

ポーランド ゾーン88


雪が降る極寒の季節、山の中腹で秘密裏に大掛かりな発掘作業が行われている。

2台の重機が土を掘り返す作業をしていて、掘り返された土砂が周囲にうず高く積まれていた。

土砂山の近くには3台のトラックが待機しており、ジェネレーターらしきもののシルエットも見え、そこからのびる太いケーブルにつながれた大型のライトが最低限の光量で発掘現場を照らしていた。


防塵用のゴーグルと防寒具を着た数名の人影が作業を見守っていて、ぼそぼそとタミル語で話している。


「ゾーン65なんか掘っても何も出てきやしないのに、馬鹿な連中だ。」

「だがあれはあれでいい隠れ蓑となったな。」

「それもそうか。」(笑)


トランシーバーから連絡が入り、それに応答する。

「ジュリア、列車のケツが出たってよ。」

「よし、間違いないわね。気温も下がったので『コイル』を出しましょう。」


ジュリアと呼ばれたリーダーらしき小柄な女性がそう言うと、待機していたトラックの後部が開き、人の背丈ほどある「保冷庫」が冷気をしたたらせながら各々のトラックから計3つ出てくる。

地面を這うように広がる冷気の量から、かなりの極低温で運用されている様子だ。


「保冷庫」には運搬用の無限軌道がついていて、作業者のオペレーションにより、ラジコン戦車よろしくコントロールされ、キュラキュラと音をたてながら森の中を進んでいった。


その動きを負いながら、小声でぼやいている者がいる

「ジュリアがやってくれれば『コイル』なんか使わなくていいのに。」

「今回は広範囲だから、コイル無しだときついんだろう。」


操られた3つの「保冷庫」はそれぞれ任意位置で停まり、あたりは一瞬静まりかえった。

「あれ、機動した?」

「はい、『コイル』今、機動します。」


オペレーターらしき者がそういうと「保冷庫」が青白く輝きだし、保冷庫上部の扉がパカン!と開くと、中からゆるゆると縦長の缶詰のような円柱型回転体が頭を現した。

何に釣られているわけでもなく、特別な動力を持っているわけでもなさそうなその『コイル』と呼ばれる物体は、まるでSF映画に出てくるUFOさながら、静かに、そして不気味に宙を浮きはじめた。

『コイル』の金属ボディ側面には隙間がいくつかあり青白い光が漏れていて、その隙間からはボディ内側で回転している物体の動きが見え隠れしている。

3つのコイルにはそれぞれ機体ナンバーのような数字がペイントされており、それぞれ「3」「5」「8」と見えた。


静かな夜の森林に青白い光の筋がちらちらと通ると、リスや鹿たちが驚いた様子で逃げ出し始めた。


(ルルルルルルル・・・!!)

3つの『コイル』はかすかな音をたてながら上昇し続け、保冷庫上空20mに位置すると、内部の回転体の動きが突然高まり、青白い輝きを増していった。

するとまるで3つの『コイル』が共鳴したかのように、各々青白いドーム状の空間を同じタイミングで生み出すと、それらは合体して1つの大きな半透明の怪しげなドームを形成し、周囲の森ごと地表を包み込んだ!!


ばたばたばた!

驚いた森中の鳥たちが一斉に飛び立ち、集団で森から飛び去っていく姿が見えた。鳥目なのでまさに散り散りバラバラな飛び方だ。


オペレーターが時計を見ながら叫ぶ。

「よし、下がるぞ。21時34分、あと2分だ。」

「うわわ、思ったよりも範囲でかいな。」

「おい、フィールドから離れろ!消されたいのか」


ホバリングを続ける3つの『コイル』と青白いドームの様子を離れた場所から双眼鏡で見ている数名の人影


コイル、青く輝きながら回転をしているが、時折薄いピンクの光を放ちはじめる。


「コイル、やっぱり不安定」

「ちっ、馬酔木の野郎、進歩がないな。HM散布!」

「はい、撃ちます」


複数名の人影が既に準備していたM72をかまえ、上空でホバリングする3つの『コイル』群の中心あたりにロケット弾を発射する。

HMと呼ばれたロケット弾が空中で炸裂すると、キラキラした金属のようなものが空中に広がった。

続けてどん、どん、どん!と3発のHMが打ち込まれ、半透明のドームに虹色の色彩が加わったかのような見え方になると、ピンク色を放ち始めていた『コイル』からその色味が消え、もとの青白い輝きに戻っていった。


「コイル安定しました!」

「フィールド内磁場、規定値!」


「・・・ショータイム!!」


ズズズズズ・・・

鈍い地響きが聞こえてきたかと思うと半透明のドーム内に砂鉄や鉄くずがばらばらと舞い上がり、それらが磁場曲線に沿って、空中に特有の斑紋を描いていた。


崖の上から双眼鏡で状況を見ているメンバーの一人の目が青白く、怪しく光る。

「出てくるぞ」


光る眼をもつ者がそういうと、山腹が崩れ、ボコボコと土が砕けていく音をたてながら、地面に埋まっていた列車が出てくる。いや、出てくるというよりも、列車の周囲の土がまるで埋められている前の状態に戻っていくような動きを見せている。


「おおお・・・これがナチスの・・・。」


ジュリアがその声に反応し、ニヤリと笑いながら言った。

「そう、黄金列車よ。」

(ぼこぼこぼこ・・・・!!)


地中の列車、土を落としながら地面からせり上がり、埋まっていた線路ごとほぼほぼオリジナルの姿を取り戻していく。

土だけでなく、周囲の草木も成長した姿から、ザワザワと新芽に戻っていき、時間が巻き戻っているかのような動きを見せている!!


列車のサイドには鍵十字のマークが見え、埋もれ汚れていたその忌まわしき印がみるみると白いペイントの彩度を取り戻し、列車の主を明確に示していた。


ジュリア、防塵用ゴーグルを取り、列車の動きにあわせ、オーケストラの指揮をとっているかのように腕を躍らせた。

ジュリアの左目も青白く光っている!


「うははは」

「いつみてもすげえ光景だな。」

「ああ、見事だ」


「コイルの効果、終わります。」

「十分だ。コイルの落下に注意しろ」

「コイル回収班、よろしく!」


空中に浮いていた『コイル』、徐々に青白い光を失い、回転が停止すると力を失ったようにぐらりと落下しはじめる。

落下の途中でボディ全体に落下の際の衝撃を和らげるエアバッグが展開し、地面にバスンバスンとバウンドしながら落下した。


地中から出てきた列車の扉を開き、中を覗き込む人影たち。


「ありましたね。」

「当然。」


列車の中には、金塊が入った木箱と、美術品が入ったケースが

うず高く積まれていた。


ジュリアが木箱からこぼれ出た金塊の1つを手にとってつぶやいた。

「これでたった30億ドルほどですか・・・まだまだ足りないわね・・・」



金塊と美術品をコンベアを使って次々と運びだし、大型のコンテナに積み込んでいるジュリアたち。



森の周囲に敷かれてある鉄道路線の踏切を越えてポーランド軍の車両が2台発掘現場に近づいてくる。

車両はジュリアの部下らしい者たちの誘導をうけ停止すると、中から数名の人影が降り立った。ポーランド軍の士官たちだ。

ジュリア時計をみながら軽く士官たちに会釈する。既に顔見知りの様子だ。


軍高官と見られる人物が、にやにやした表情でアタッシュケースいっぱいの金塊をジュリアから受け取っている。


上空にバラバラと爆音をたてながら3機のスカイクレーン隊が到着すると、ポーランド軍高官が無線でなにか指示を飛ばしはじめる。


金塊と美術品を詰め込んだコンテナ群は各々のスカイクレーンの腹に抱えられると、爆音をたてながら何処かへ飛び去っていった。


軍高官、無線を追え、振り返ると左目を青く光らせたジュリアが銃を持って立っている。


「ジェンクイエン ド・ヴィゼーニャ(お役目ご苦労様)」


ポーランド軍高官、ぎょっとした顔がモノトーンに変わると、

パパン!

胸に2発の銃弾をうける。

軍高官についていた4名の士官はそれを見てハッとなるが彼らもモノトーンの色合いとなり、ジュリアの部下らがそれぞれの身体に2発ずつ銃弾を打ち込んだ。


パパン!パパパン!

小さな閃光と乾いた音が森林に木霊し、鳥が数話飛びたつような音が遠くからした。


驚きと苦痛の表情のままビデオのスローモーション映像のように動きが止まって見えている軍高官と士官達の姿。


ジュリア、少し汗ばんだ表情でゆっくりと拳銃を降ろし、ホルダーにしまうと彼女の左目の青白い輝きが少し増していった!

すると軍高官らの全身が歪むような像となり、空間にかき消え、軍高官が手にもっていた金塊の入ったアタッシュケースだけがどさりと地面に落ちた。



その数秒後!!


先ほどの発掘現場から何処か離れた場所にいる軍高官たち。

何故か発掘現場まで乗りつけた軍用トラックに全員乗っている状態・・・


そこは踏切内、線路の上だった!


「う、うぐぐ・・・」


胸に銃弾を受けたまま、苦しみもがく高官ら。中には既に死んでいる者もいた。


「はぁはぁはぁ・・・・あっ!!ああーーーっ!!」


(ファンファーン!!キキキー!)


彼らの目の前にちょうど通りかかった列車がほぼノンブレーキで踏切内に停まっていた2台の軍用トラックを軍高官らごと、轢き飛ばしていく!


ドン!!ドドン!キキキー・・・!キー・・・・


線路が敷かれてある方向から聞こえてきた衝突、ブレーキ音と小さくあがった火柱を双眼鏡で確認するジュリアたち。


「ふふ」

「あは」

「あはは」


先ほど地面に落ちたショックで開いたアタッシュケースからこぼれ出た金塊に月とジュリアの怪しく青く光る目が反射していた・・・。

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