いらない僕
僕は、と口を開きかけて閉ざした。この教室では僕だけが浮いている。ずっとずっと馴染めないままだ。
小学校でも中学校でも、まあ、上手くやれていたと思う。しかし今考えてみれば、それは周りの人たちに恵まれていたからなのかもしれない。僕が僕らしく振る舞ったって、誰も否定しなかった。みんなが受け入れてくれた。休み時間に男子グループにまざってサッカーをしていても、女子の恋バナに入っても、咎める人はいなかった。僕が誰を好きだと言おうと、嫌な顔をする人なんていなかった。
それが高校では上手くいかない。僕だって当然もうわかっている。どうしてこうなってしまったのか。たぶん、もっと早くからわかっていた。良し悪しの分別がつく頃には、もう、僕は「僕」でないことを知っていたと思う。
クスクスと笑い声が聞こえる。きっと僕に頭から水をかけるのが楽しいんだ。きっと僕がやつらに切られた制服をそのまま着てるのが嬉しいんだ。きっと僕には全く似合っていないスカートを見るのが面白いんだ。僕だって着たくないのに。
僕はただ、あの頃みたいに遊び回る友だちが欲しかった。燃える愛の話をくれる親友が欲しかった。でもただ、性別だけがいらない。
お題「女の子/好き/僕」
掌編集2021 たぴ岡 @milk_tea_oka
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