第参拾弐話 水面揺れ動き、終わる凪哉
4階の生徒会室の前につき、扉を左側にナツが引く。
「お疲れー」
「あ。お疲れ様ですって――
私を心配してくれたのは生徒会執行部書記1年生の
艶やかな黒髪ボブが印象的であどけなさが残る顔と身長は150㎝ほどのため、可愛いが全身から溢れ、抱きしめたくなる。しかし、凪ちゃんは暴力的な胸部を備えている。そこのギャップもまた素晴らしい。
はぁー真っ先に私を心配してくれるなんて可愛くて素晴らしい後輩なんだろう……
控えめに言って抱きしめたい。妹にしたい。
「水無月。心配する必要ないぞ。自業自得なんだから」
「
くっそ。
せっかく凪ちゃんが心配してくれているというのにこやつらは。
でも、今回ばかりは言われている通りだから否定できない……
「あ、そうなんですね」
そう言って凪ちゃんは自分の作業に戻る。
「な、凪ちゃーん……」
私は彼氏に振られて、その場に立ち尽くしている元カノのように凪ちゃんの後ろ姿に呼び掛ける。
「ふふ、また
ほほ笑みながら私たちの一部始終を見てたのは生徒会執行部副会長のしおりんこと
胸のあたりまで綺麗に揃えれた黒と紫が美しく混じった髪を後ろで結び、ハーフアップが特徴的な奈良が生んだ美少女。
その風貌からクールな印象を抱かれがちだが、そんなことはなく心を開いた相手にはとても暖かく優しく接してくれる。
「いや、いつも鈴望が俺に何かしら仕掛けてくるだけなんだけど……」
「とか言ってなんだかんだ嫌じゃないくせに~」
「それは仕掛ける側が言っちゃいけないやつだぞ、鈴望……」
「それを仲が良いって言うんだよー」
しおりんは私とナツの言い合いを笑いながら眺めてる。
「まぁ、鈴望さんは白あ¬――もがもg」
嫌な予感がした私はしおりんのそばに一瞬で移動し、元凶となる口を両手で塞ぐ。
「ぷはっ何するのよ鈴望さん」
と抗議しながらどこかニヤニヤしているしおりん。
「い、いやーなんかしおりんが余計なこと口走りそうだったからさー」
私は厄介な人物に私の最大の弱みを握られてしまったようだ……
しおりんといちゃいちゃしていると扉が開く音がする。
「やけに声が聞こえるって思ったら俺以外揃ってたのね」
「あ、会長お疲れ様です」
最後に生徒会室に姿を現したのは多宰府高校生徒会執行部会長の
前髪を右目の目頭を延長した辺りで6:4で分けて、前髪を上げており、爽やかな印象を与える。勉強もスポーツも人並み以上にでき、校内順位はトップ5を常にキープしている。それに加え優しさに溢れているため、男子女子両方から信頼を寄せられている。
私とナツとは中学校が一緒で1年生のときに同じクラスになって仲良くなった。
「また鈴望が何かやったの?」
「なっ!アオイまで私を馬鹿にするのか!今回ばかりは否定できないけど」
「否定できないんかい」
アオイは私にツッコミを入れて、そのまま窓と平行に生徒会室の中央に位置している長机のロッカー側のいわゆるお誕生日席に座る。
その右斜め前がしおりん、その隣が凪ちゃん。
アオイから左斜め前がナツ、その隣が私、私の隣が
「
「お疲れ。うちのクラスは毎度のごとくHRが長いからさー。
んん??
何か匂うぞ
2人の会話を聞いているとどこか違和感がある。
私はIQ100の頭脳をフル回転させて過去の記憶を遡る。
平均じゃんってツッコミはなしで。
そして私の脳がはじき出した答えは……
名前呼び!
アオイとしおりんは先週まで苗字で呼び合っていたはず。
ナツたちにも聞いてみるか。
「ねぇ紫水くん」
「なんです?」
「2人の会話にどこか違和感なかった?」
私は小声かつ口元をグローブはないが野球選手のように隠して話す。
「違和感なんてありました?普通の他愛ない話だったように思いますし、まずお二人の会話なんて意識していないので、よくわかりませんよ」
「はぁ、紫水くんは何もわかってない……」
「なんで僕が鈴望先輩に溜息つかれてがっかりされてるんですか」
次にナツの隣へ素早く移動し、耳打ちをする。
「ねぇアオイとしおりん何かいつも違くない?」
「んー?そうか?」
ナツはパソコンを操作しながら片手間で答える。
「うん、間違いないね。私の恋愛センサーが反応してるからねっ」
「そりゃまた厄介な……」
ナツはがくっ頭を落とす。
そんな失礼極まりないナツのうなじに手刀を軽くくらわす。
さっきの仕返しも含まれていることは内緒。
「あの2人さっき名前で呼んでたんだよ。先週まで苗字で呼んでたでしょ」
左手でうなじをさすりながら起き上がる。
「あー確かにそうだったな。でも、そのうち執行部で活動してれば遅かれ早かれ名前で呼び合うようになるだろうし。そんな気にすることか?」
「気にすることよ! 修学旅行で恋バナを始めたら寝かさない女と有名な私はあの2人の真相が気になるの」
「いや、それは同部屋の人かわいそうだから寝かせてやれ……」
今年の修学旅行が楽しみになったところで、もう一度考える。
先週の金曜日の打ち合わせの後、私とナツ、紫水くんの3人はすぐに帰ったけど、確かアオイとしおりんと凪ちゃんは生徒会室で作業していくって言っていた。
よし、凪ちゃんに聞いてみよう。
私と凪ちゃんの席は隣同士のため、話しかけやすい。
「凪ちゃん」
「どうしました?」
凪ちゃんはWordで生徒会広報を作成していた。
いやー感心感心。
「アオイとしおりんって何かあった?」
それを聞いた瞬間凪ちゃんの身体がピクっと跳ねる。
「どうしてそう思うんですか?」
パソコンの画面に集中してこちらには顔を向けず、声だけで反応する。
「だってあの2人名前で呼び合うようになってるよね?」
バっと音がしたのではないかと思うくらい勢いよく私のほうへ振り返る。
「やっぱり鈴望さんも気づきましたか」
「う、うん」
普段穏やかでおしとやかな凪ちゃんのさっきの勢いのある振り返りの衝撃が強くて、正直戸惑っている。
でも、凪ちゃんも気づいてたんだ。
全くうちの男子どもは鈍ちんだらけだな。
「先週あの2人何かあったのかな」
私の何気ない言葉に凪ちゃんの身体が先ほどよりも大きくピクっと動く。
「え、本当に何かあったの!?」
「知りたいですか?」
そうもったいぶる凪ちゃんを見て、ゴクリと生唾を飲み込む。
「知りたいです……」
凪ちゃんの小さな口が満を持してゆっくりと開く。
「アオ君と汐璃さんは先週の金曜日一緒に帰ったんです」
「一緒に帰っただと!?」
「はい」
「え?ちょっと待って」
「どうしました?」
「一緒に帰っただけ?」
「私が知っているのはそれだけです」
そうかーあの2人は一緒に帰ってたのか。
「ということはその2人きりのときに何かあったってことか……」
私は何気なく2人が資料を見せ合いながら話している姿をみてつぶやく。
「ねぇ凪ちゃんはどう思う?」
意見を求めようと隣を見ると凪ちゃんの視線は2人に釘付けだった。
その横顔はどこか寂しく、何かを悔いているようにも諦めているようにも見えた。
本当にこの後輩は……
心のなかで溜息をついて意識をこちらに戻そうと試みる。
「おーい凪ちゃーん。大丈夫?」
「っえ? あ、ごめんなさい。ぼーっとしてました」
そんな素直で少し引っ込み思案で優しい後輩を応援したくなる。
「え?鈴望さんどうしました?」
「んー?いやー、本当に凪ちゃんはアオイのことよく見てるなーって」
「どっっ」
一体どこからそんな声出たのかわからない声が突拍子もなく飛び出した。
「そ、そんなことありませんって!ただ私は生徒会の仕事について聞きたいことあってそれを聞くタイミングを伺ってただけで、アオ君と汐璃さんの関係が気になるとかそういうんじゃありませんからね!」
顔を真っ赤にして早口で捲し立てる。その
いや、脳震盪になっちゃうからもうちょっとゆっくり目で……
「最後のほう本音隠せてなかったよ」
私の肩から手を離し、そのままスカートを力強く握りしめ、俯く。
耳は髪の毛で隠れているが、真っ赤になっていることは容易に想像できる。
「アオ君にこのこと言わないでくださいね」
私は首を縦に力強く振る。
全くアオイも罪な男だ。
こんなに健気で良い子にここまで想いを寄せられているなんて。
変わってほしいくらいだ。
きっと凪ちゃんは
凪ちゃんはいつもアオイとみおみおのすぐ後ろをついていた印象がある。
決して自分からアオイの隣に行くことはなかった。
そのときから
みおみおが亡くなってからはアオイの隣に並ぶことが前よりも増えた気がする。
けど最近はまた遠慮しているように見える。
アオイのことを想う気持ち
そんな2つの感情に揺れ動いている。
私には少なくともそう見える。
どこまでも優しい子だ。
でも、凪ちゃんはそれでいいの?
「さぁ広報紙ちゃちゃっと終わらせちゃおー」
切り替えを促すように手を叩く。
「手伝ってくれるんですか?」
「それも総務の仕事だからねっ!」
ウインクをして頼れる先輩を発揮したところで作業に集中し始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます