第拾伍話 幼なじみは葛藤するもの哉

「それじゃあ俺から……」

「と私も一緒に発表しまーす!」

 突然鈴望れみが割り込んできた。

「え、鈴望先輩も一緒に発表するんですか?」

「本当に仲良いよね~」


 捺希なつきは少しうつむきがちである。何かあったのか?

「いやー実は一昨日ねー」

「あ、おいそれは言わないって約束じゃ――」

 捺希の制止ももろともせず鈴望は一昨日あったことを話し始める。


 **

 白菫しろすみれ鈴望れみ


 今日は日曜日。

 いつもだったら仙台駅周辺や仙台港や泉のアウトレット、利府のイオン、名取エアリなどなど宮城が誇るショッピングセンターに家族や友達、ナツと出かけるのだが、今日は違う。


 火曜日の会議に向けてあやめ祭りを盛り上げるための案を考えないといけない。


 あ、そこの君、今「え、鈴望がこんなに真面目に仕事に取り組むなんて!?」

 とか思ったでしょ!


 そりゃあ、私を誰だと思ってるの。

 多宰府たざいふ高校生徒会執行部総務の白菫鈴望ですよ~

 やることはしっかりやるのです。じゃなきゃアオイから任命されないって。


 私は多少おしゃべりなだけ、そう多少ね!

 お菓子食べ過ぎたり、おっぱいに飛びついたりしないんだからー


 まぁそんなことは置いといてあやめ祭りについて考えないとね。


 と学習机に向かい考え始め、いろいろ調べていると。


 ピンポーン


 インターホンが鳴る。


 階段を元へ急いで下り、画面を見るとそこには見慣れた顔があった。


「どうしたの?」

「あ、鈴望か?ちょっと今いいか?」

「え、うん。とりあえず入って!」

 そう言って、玄関のドアのカギを開け、自室へナツを入れる。

 ナツも私の家は幼稚園生の頃から来ているため第2の実家のようなものだ。

 躊躇することなく私の部屋へと向かう。


 ナツは私のベッドの上に、私は学習机に付随している椅子に座り、向かい合う。


「それで?どうして急に私の家来たの?」

「……」

 ナツは下を向き、カーペットを見ている。

「おーーい」

 答えない。

 え、何言いづらいやつですか、これ。

 何かあった……のかな……?


 するとナツはすぅぅと息を吸い込む。

 私はそれを聞き、聞く態勢を整える。

 そして、その重い口を開く――


 白藍捺希しらあいなつき


 今日は日曜日。いつもなら鈴望に無理やり仙台駅周辺やアウトレット、利府イオン、名取エアリなどなど東北の他県にマウントを取れるショッピングセンターに連れていかれるのだが、今週末はない。


 どうしてか。

 そう、火曜日に会議があやめ祭りに向けた会議があるから。


 そこで発表する案を鈴望も考えているのだろう。

 無論俺も考えているのである。


 ……

 うん、考えているだけ。

 何も思い浮かばない……


 俺は与えられた仕事をこなすことはきっと得意だと思う。

 けれど自分から創造するもの、0から1を創り出すことがとても苦手だ。


 そうして俺は向かいの家の玄関の前にいる。

 不本意ながら決して望んでないけど嫌々ながら幼なじみを頼ることにした……

 たまたま近くにいるやつが鈴望しかいないだけだ。


 ……


 うるせー誰がツンデレだっ!

 男のツンデレとか誰が得するんだよ。


 意を決して慣れた動作でインターホンを押す。

 インターホンを押した数は鈴望の家が1番だろうな。

 俺にとって自分ん家と同じくらい安心できる場所になっている。


 鈴望が出る。

 向こうも俺が突然やってきたからって慌てることはない。


 そのまま部屋に案内され、沈黙が続く。


 ここにきて鈴望に頼ることを渋っている俺がいる。


 俺から鈴望を頼ることなんてこれまであったか……?


 いつも鈴望が俺を頼ってきた。

 いや、


 それが嬉しかった。

 だったら。


 たまには俺が頼ってもいいよな……?


「あやめ祭りの件、一緒に考えてもいいか?」


 ほら、俺はツンデレなんかじゃないだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る