第拾参話 山吹色の生徒会哉

「はい、じゃあ気を取り直して会議始めるよ」

 とは言ったものの今の生徒会室にいるのは


 乳をこねくり回され、頬を赤らめているもの。

 お菓子・乳の恨みの恐怖を知ったもの。

 と俺とからももさんと紫水しすいがいる。


「まぁ、いいやみんなそのうち切り替えてくれるでしょう」

「そうね」


 笑い混じりに会議が始まる。

 そういった意味ではあのやり取りは意味があったのかもしれない。


「でも、その前にちょっといい?やけに視線を顔ではなく胸に感じるんだけど……気のせいじゃない……?」

「それは気のせいじゃない可能性が高いね……」

「しおりんも結構サイズあるよね……」


 その視線の主はやはり鈴望れみであった。

 両手で柔らかいものを揉む仕草をしながら。

「その2つの大きい乳を揉ませてもらってもいいかい?流石に執行部発足した瞬間は躊躇ったんだけど、今ならいいよね?ぐへへへへへへへ」

 最後に本音がただ漏れである。

 もはやどこぞのセクハラ親父と一緒だ……


「いやー……なぎさんのほうが大きいし、私のを触る意味はないんじゃないかな……」

 杏さんは完全に困っている。



 鈴望のねじはもう外れているため、今何を言っても通用しない。

「しおりんはわかってない!!おっぱいはいかなるものでも尊いものなんだ!この私のような貧乳と言うのもおこがましいつるぺったんまな板洗濯板ちっぱい……」


 政治家の演説が如く口が回っていたのに突然鈴望言葉が途切れる。


「そ、そこまで言わなくたっていいじゃん……」

「いや、自分で言ったんだけどねっ!!」


 思わずツッコんでしまった。

 自分で自分をけなしている……

 もう紫水は頭を抱えている。ここまできたら鈴望を止められないことを悟っているのだろう。


「でも、こんな私の本当に申し訳程度の大きさでもおっぱいはおっぱい。そして凪ちゃんの一度はまってしまったら抜けだせない中毒性のある包容力を誇るFカップも、しおりんの一見慎ましくみえるもののそれは私たちを騙す幻影。その布地の先にはドラクエの魔王さえもひれ伏す狂暴で悪魔的なおっぱいもすべて尊いのだ」

 まるで100m走ったかのような息切れと満足感が顔ににじみ出ている。


「それ私のこと褒めてる!?実は憎悪でいっぱいだったりしない!?」

「てことでしおりん一回だけでいいから触らせて?」


 目が据わっている……

 てか、それって絶対一回だけで終わらない人が使う常套句なんだけど!


 さすがに止めようとすると、俺よりもはやく動き出す影があった。


 そして手刀を鈴望の脳天にくらわす。


「いっっったーーーーーーーーーい」

「おい、いい加減にしろって」

「ナツーー……いつもより痛いんですけど……」

「そりゃあいつもより強くしたからな」


 鈴望はその場で膝を抱えてしゃがみ、捺希なつきを見上げる

「さっきまで死んでたくせにーーーー」

「誰のせいだと思ってんだ」


 捺希は鈴望の首ねっこを掴む。

 つかまれている鈴望はさながら猫のようである。

 なんかデジャヴだな。

なんで猫って首ねっこ掴まれるとおとなしくなるんだろう。


「幼なじみの暴走を止めるのは幼なじみってのが相場だからなって、そんなことより、ん」

 捺希は顎である方向を指す。

 その先には紫水がいた。


「あ」


「鈴望先輩」

「……」

「鈴望先輩」

「……はい」


 鈴望はこれから紫水に何を言われるか悟ったらしい。


「会議始めようってときに何をしているんですか?時間は限られているんですよ。僕はやるべきごとやったらなるべくはやく帰りたいんです。わかりますか?まず鈴望先輩はいつもいつも―――――――――」

「はい、ごめんなさい。はい、ごめんなさい。―――――――――」

 先ほどまでの威勢が嘘のように鈴望は紫水に平謝りしている。


「これじゃあ、どっちが先輩かわからないな」

「本当にね」


 杏さんは笑っている。

 思わずその笑顔を見惚れてしまった。


「ん?どうしたの?」

「ん、いや……」


 顔を反らしてしまう。

「なーにー?見惚れちゃった?」


 ごまかさないと……

 いや、俺はあの日からごまかさないで伝えるって決めただろ。


「いや、かわいいなと思って」


 だから伝えた。


「あ、そう。ありがとう」


 直球すぎたかな。

 でも

「汐璃さん?赤いですけど大丈夫ですか?」

 凪が不思議そうに尋ねる。




 今は杏さんを杏さんとして見ることができた気がした。

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