第拾弐話 食べ物と乳の恨み哉
土日月を挟んで火曜日
今日はそれぞれがあやめ祭りの運営にあたって考えてきたことを共有する日である。
「お疲れー」
授業が終わり生徒会室へ行くと、
「「お疲れー」」
鈴望は生徒会室にストックされているお菓子を食べている。
あれって鈴望の持ち込んだお菓子だっけ?
「あ!おいそれ俺が食べようと思ってたラス1……」
「えへへーー早いもの勝ちですーーーーー」
鈴望は勝ち誇ったかのようにそのお菓子を口に運ぶ。
「おい、そんなに食べていいのか」
「何よ」
「太るぞ」
「玲Tはデリカシーあるとか言ってたけどやっぱナツにはデリカシーデの字もない……こりゃ彼女ができないわけだー」
「うるせぇー、余計なお世話だ」
鈴望はお菓子を取る手を止めない。
「太るぞ」
「私はただこれからの会議のために栄養を蓄えてるだけですー」
「……」
「会議のためだけじゃないだろ?」
捺希はそういうとジッとある場所を見つめる。
「大豆製品食べたほうが手っ取り早――――ぐっふぉぉぉ……!!」
鈴望の見事なアッパーが捺希に炸裂した。
「な、何しやがる……」
「いやーナツが殺されたいようだったからさーつい手が」
顔は笑っているがそこには殺気が満ち溢れていて隠せていない。
「幼なじみのただの戯れだろ、今更胸の大きさなんて気にすんなよ……」
「殺すよ?」
鈴望が一歩一歩狩人のように捺希を追い詰めていると
がらがらと扉が開く。
「おつかれさまでー、ちょちょちょちょっ…と、鈴望さん何やって、ぅん……」
さっきまで捺希に殺気を持っていたのが嘘かのように凪が生徒会室に来た途端にその双丘に引き寄せられるがごとくすさまじいスピードで迫った。
「……やはりこのチチしか勝たん……」
「ちょ鈴望さんいきなりはやめてくださいってば……」
「だってーーーーーナツがまた私を馬鹿にするんだもーーーーーん、私を癒してくれるのは凪ちゃんしかいないよーーーーーーー」
鈴望は凪の胸をこねくりまわしたり、頬に擦り寄せたりして楽しんでいる。
この光景は中学から見慣れている。
鈴望はコンプレックスの裏返しなのか凪の胸を愛でている節がある。
鈴望が凪の胸と戯れているとまた1人生徒会室へ来る。
「お疲れさ……え、何やってるんですか……」
すぐ状況を整理する。
そして、盛大な溜息をこぼす。
「はーーーーーー、また鈴望先輩ですか」
「紫水くん!?」
「いやだって、捺希先輩が倒れていて、今だって凪さんにいかがわしいことしてるじゃないですか」
「いかがわしいとは失礼な!これは乙女同士の必要なスキンシップだとも。ねっ!凪ちゃん!」
「は、はぁ……?そうなんですかね……」
「捺希先輩のことは否定しないんですね。まぁなんでもいいですけど」
「ははーーーんさては紫水くん、私が羨ましいのかな?でも残念!!ここは私だけの聖域なのだ!ははっははっははっはは」
「いや、別にそんなことないですけど」
「即答!?」
紫水はそんなことも気に留めずに長机の自分の席に着く。
「第一にここでそんなこと答えたらセクハラでしょって、ん?これって……」
机のうえの鈴望の食べていたお菓子の包装紙を手にする。
「あ」
鈴望はばつが悪そうに両手で口をふさぐ。
紫水の体中から怒気があふれ始めている。
それは目に見えているのではと錯覚するほどの赤黒いオーラを感じる。
「これ、僕が食べないでくださいねって皆さんにくぎ刺しておいたやつですよね。しかも鈴望先輩には特に強く言ってあった気がしたんですけどね……」
それはまさに不動明王のごとく……
これが世に聞く食べ物の恨みは怖いということなのか。
俺は全身でその意味を把握できた。
俺たち執行部はいくつかのルールを設定した。
その1つに持ち込んだお菓子は基本的に勝手に食べていいが、本人が食べてはだめといったお菓子は本人の許可なしに食べていけない。
そして、紫水はとても甘党で鈴望と同じくらいお菓子を持ち込んでいるのである
もちろんそれをシェアしてくれることのほうが多い。
ただ、今回は違った。
「し、紫水君……」
ものすごい圧力を鈴望にかける。
紫水ってなんだかんだ鈴望に心を許している。
それは鈴望の人柄が大きいんだろうけど……
「うーーーーー……ごめんなさい……」
鈴望はすぐその場で土下座をする。
人にちょっかいをかけるのも早ければ、降参も早い。
凪もやっと鈴望から解放され、その場に膝をつく。
そして
がららららら。
また生徒会室の扉が開く。
これで全員がそろった。
「はぁはぁはぁ、ごめんなさい……、HRが長引いちゃって……って、何してるの……?」
俺は肩をすくめて頭をふる。
「にぎやかでいいわね」
「にぎやかすぎるけどね」
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