第拾話 通心哉
会議が終わり、解散後
俺は一人生徒会室で前生徒会までの資料を漁りながら、これからのことについて考えていた。
過去10年間見ても外部の団体から何かを依頼されて協力したっていうことは少なくとも生徒会室に残っている資料からは確認できない。
何かの参考になるかと思ってダメもとで探したけどまあ仕方ないか。
資料が綴じられているファイルを閉じて、パソコンを開く。
浅山市長が俺たちに何を求めているのか。あの人は賭けだといった。
確かにこんな高校生に協力を依頼するのは賭けだよな。
ただ俺たち執行部にとってこれは挑戦だ。
そして俺にとっては澪が叶えたかったことを叶える絶好のチャンスでもある。
調べてみるとわかったことがある。
あやめの名所は日本各地にあるということ。
だから観光客にわざわざ多賀城のあやめ園に来る理由を作る必要がある。
だったらまずやるべきは一択「多賀城の歴史」につなげることが自然なはず。
もともと南門復元工事完了の前にできるだけアピールをしておきたいって話だった。
あやめ園の近くにあるのは松尾芭蕉も訪れ「おくの細道」にも記された多賀城碑、そして奈良県の平城京跡、福岡県の大宰府跡と共に日本三大史跡であり、日本100名城である多賀城跡(政庁跡)。
改めて思うとこんなに歴史に溢れているのに奈良と大宰府に比べて圧倒的に知名度が低いし、観光客だって少ない。
てことはやっぱり歴史だけじゃいけないのか?
ならと大宰府は他にも名所があるしな。
だから歴史とこのあやめを結び付けることが絶対に糸口になるはず。
そんなことを考えていると生徒会室の扉が開く。
「やっぱりいたか」
扉の前には捺希が立っていた。
「今日は疲れたっていってお疲れさまって解散したじゃねーか。今日一番疲労してるやつがなんで残ってんだか」
盛大な溜息を勢いよく息を吐く
「手、出して」
「え」
そう言うと捺希は俺に向かって缶コーヒーを投げた。
「ナイスキャッチ」
「ありがと」
捺希は自分の分の微糖の缶コーヒーを開けながら席につく。
「めちゃくちゃ親友ムーブするじゃん」
「まあ親友だしな」
「そんなこと言うタイプじゃないでしょ」
「碧が最初に親友って言ったんだからいいだろ」
「てか、大量の資料持ち出して何してたの」
俺の横にある広辞苑くらい分厚いファイルを見て言う。
「過去に外部と協力して何かしたことあったら参考になるかなって思って調べてた。けど俺が見た感じなかったな。」
「もしかしてそれ全部見たのか……?」
「ほぼ流し見だけどね」
また捺希は溜息をつく
「碧また時間忘れて作業してたろ」
そういえば時計を見ていない。
生徒会室に来てからどれくらい経ったっけ?
「集中するのはいいけどさ……。無茶するなよって言ってもやるんだろうけど」
「さすがよくわかってんじゃん」
俺は考えるのが好きだ。考えてつなげていけば何かが浮かんでくる。
浮かんできたものに対してまたつなげていく。
これを繰り返すと勝手に集中してる。
没頭していれば他の何かを考えなくて済む。
俺は考えるのが好きなのか。いや違う。
考えていれば、何かに没頭していれば嫌なことが思い浮かんで、何もできなくなる。それが恐い。
ただそれだけだ。
「捺希こそなんで生徒会室に来たんだよ」
「何となく生徒会室の放課後の雰囲気好きだから。
そんなこと言ってるけど、生徒会室に来るタイミングを見計らってたんだろうな。
俺が生徒会室に来てから1時間以上経ってる。その間待っててくれたのか。
「捺希ってやっぱいいやつだな」
「いいやつなんかじゃない。俺は誰かが助けを求めたときだけその人を助ける。自分からは助けないようなやつだぞ?」
「じゃあなんで今俺を助けてくれてるんだよ」
「それは解釈の違いだな。俺は碧を助けたつもりはないからね。俺はただ差し入れをしにきただけ」
「照れなくて別にいいのに。まあこのコーヒーはありがたく頂戴するよ」
俺は捺希にニヤッと笑いかけてコーヒーを口に運ぶ。
苦味が頭を冴えさせてくれる。
「俺も最後まで残って考えるかな」
下校時刻までは40分程度
生徒会室は静寂に包まれている。たまにタイピングの音が聞こえる。
それが心地よい。
捺希とは無理に話そうとしなくていい。俺はそんな捺希との空間が好きだ。
「1つ聞いてもいいか?」
作業し始めてから30分経ったところで捺希が沈黙を破る
「さっきの会議で市長に俺たちに依頼した真意を聞いたのってあの市長ならこの反応してくるってわかってて言ったのか?」
捺希が言ってるのは俺が浅山市長に俺たちを政治的パフォーマンスに利用したいだけなのではと聞いたことだろう。
「じゃなかったらあんなことしないよ」
「だよな。でもあの発言さすがに他にも意図あるよな?碧が市長を試すようなことするためにあんな挑発的なこと言うわけない」
カタカタカタカタタタン カタカタカタタタン
タイピングの音だけが生徒会室に響く。
「おい」
「無視すんなって」
「言え」
捺希が問い詰めてくる。
「あーーーーもうわかったって」
俺は捺希の圧力に負けた。
というかもう腕を掴んでるから物理的な力も作用してるんだけど!?
力強すぎんだよな……さすが自衛隊志望
「てか、逆になんでそんな言いたくないんだよ」
「だってこういうのってあえて言わないのがカッコいいんだろ!?」
「え、俺って今逆ぎれされてんの……?」
「まあいいや。捺希にだけは言うよ」
「俺たちは依頼された側といったって所詮高校生。こっちの意見をどれくらい聞いてくれるかもわからないし、それこそ本当に形だけの参加になる可能性もあったんじゃないかなって思ってる。」
「市長をはじめとする役所の人たちは高校生に依頼したってことで責任がめちゃくちゃあるけど、俺たちもないわけではないけど責任はほぼないといってもいいしな」
そう捺希の言う通りである。
「まさにそれだよ。俺たちも責任を共有する必要がある。そうすれば高校生というよりは協力者として俺たちを見てくれるんじゃないかって考えた。けど俺たち高校生に責任を取る方法はなかなか考えつかないし、市役所側も高校生が責任を取ったってなるのは嫌だろうしね」
無責任の立場、責任がない立場からは何とでも言える。
なぜか。
そう責任がないから。
責任がない分その発言は軽いものになり、受け入れられることはない。
「その責任を負えないかわりに俺たちの覚悟というか真剣さを示すしかないかなって思った。」
「それがあの発言か」
「そう。最初は生意気に思われてもいい。これからの会議のなかで俺たちがなにか意見や考えを出したときにあれだけ強気な発言を初対面の市長にするくらいだし本気で取り組もうとしてくれているんだなって思ってもらえればいいかなって感じ。」
「あの発言は俺たち高校生が形での参加ではなく、あやめ祭りを一緒に運営する仲間として認められるようにする楔ってわけか」
「さすがに市長があれだけ好印象を持ってくれたのは予想外だったけど」
若者と討論する機会を定期的に作っているから若者からまっすぐにものを聞かれるのは好きだとは思ったけど、まさかあそこまで話してくれるとは。
「俺たちは責任を取れないから本当にするべきこと・したいことを言える。そして、それらを
「俺はただ人より考えてるだけ」
「またそれか、俺はそれもう聞き飽きたけど」
聞き飽きたも何も俺はそうなんだからこれしか言わない。
人より考えて行動する、そうしないと俺はだめになる。
「捺希が聞き飽きても俺はこれからも言うぞ」
「勝手にしろ」
話がひと段落したところで下校時刻を知らせる放送が始まった。
「もうこんな時間か、俺たちもぼちぼち帰りますか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます