第九話 真意を知るもの哉

多宰府たざいふ高校生徒会執行部に今回あやめ祭りの運営協力を依頼したのは政治的パフォーマンスの側面がないとは言えないな」


 それはある程度予想していたが、いざそういわれるとかなり心にくる……

 五人もできるだけ顔に出さないようにはしているが、落胆の表情が見える。

 浅山あさやま市長は続ける。


「ただ私は市長選挙の際に若い世代の力を最大限引き出し、活用していくという公約を掲げて当選させていただいた。政治家が公約を守るのは当たり前だろう?だからそういった意味での政治的パフォーマンスになるかな」


「……」

 その回答は誰も予想しておらず思わず固まってしまう。

 ま、まじか……この人俺たちがこういう反応をすることをわかっててあえてこの言い回しにしやがったな……


「からかってしまったことは謝るよ。ここからは私の考えをきちんと話そう」

 さっきまでの半分笑みを含んだ表情とは打って変わって真剣な面持ちになる。

 その変化にのけぞりそうになる。


「私は若い世代の力を信じている。私が言う若い世代というのは基本的には20代以下を指すと考えてくれ。この言葉に偽りはない。だが、この言葉の意味を深堀するならば、もっと若い世代も交じって討論や話し合いが行われるべきだと考える。現在行われている会議などはすべて40代から70代の年齢層で行われる。市議会はそれが顕著だ。そう言ったときに若い世代の意見や考えを求めたいと思うのは普通じゃないか?」


 まるで自分たちに問いかけるような口調。俺は今まで同年代の人たちとしかそういう話し合いをしたことがないからわからないが、多少似通った意見が出ることは多い。斬新さなどを求めたくなるのはわかる。


「けれどこういった私の考えは否定されることがほとんどだ。理由を聞いてみると経験が足りないというもの一点張りだ。確かに経験はとても大きな財産であり、強大な力となる。しかしそれは逆に経験という言葉で固められた安定を取ってしまう。安定を取るならそれでいいと私も思う。だが今回は違う」


 語尾を強めて浅山市長は否定する。ここからとても重要なことが語られることを何となく察知する。


「多賀城市はとても可能性のある街であると私は信じている。東北の地方中枢都市の仙台市の隣に位置し、市内には4つの鉄道の駅があり、年間440万人の人が利用する。交通に関しては恵まれている。また、多賀城市は歴史的建造物や史跡が豊富である。そして多賀城創建1300年の2024年に向けて現在多賀城南門の復元工事を行っており、観光都市として大いに可能性に溢れている。だからこそ今から他の面でアピールをしていき、さらなる多賀城の発展のための土台を作っていかなければならない」


 さっきまでよりも言葉に熱が籠っている。

 この人もしかして……


「そこで目を向けたのがあやめ祭りだ。あやめは多賀城の市花であり、あやめ園にアヤメや花菖蒲はなしょうぶが咲き誇る姿は圧巻である。例年通り行えば、例年通りの結果にしかならない。だから君たち多宰府生徒会執行部に声をかけさせてもらった。これは賭けなのかもしれない。それでも今年も例年通り終わるくらいなら賭けでもいいから挑戦してみたい。失敗してもそれでいいと思っている。この企画が本当に成功かどうかわかるのは来年・再来年だ」


「それは……どういうことですか?」


「あやめが見ごろを迎えるのはとても短い期間だ。それに6月中旬から下旬だということを考えると平日は多賀城市内や近隣の町に住んでいる人以外はなかなか来ることは難しいだろう。それに週末も2回か3回しかない。それらを考えると今年観光客数を増やそうとするなら、もっと早くに取り組むべきだと思わないかい?」

 そこは俺も疑問に思っていたところだ。なぜ開催の二か月前というタイミングで依頼を持ちかけたのか。


「今年新たなことに取り組もうとし、それらがうまくPRできれば、来年再来年行きたいと思ってくれる人はきっと増える。そして再来年には南門の復元工事が終わる。タイミングとしては今がベストだと判断した」


 浅山湊あさやまみなと、この人はただ心からこの「多賀城」という街を愛しているのである。でないとここまでの熱を帯びた言葉は決してでてこない。俺も多賀城という街が好きだ。そして、澪もそうであった。俺は改めて多賀城、浅山市長、そして澪のために全力を尽くしたいと思った。


「長々とすまない。だがこれが私の本心だ。君たちの青く発展途上だからこそある理想があるはずだ。それを怖がることなく、萎縮することなく出してほしい」


 俺以外の五人も浅山市長が心の奥底で持っている青く燃焼し続けている炎を感じ取っているみたいだ

「自分も多賀城が大好きですので自分が何か貢献できるなら嬉しいです。これは自分の本心です」

 俺の心の底からの想いを吐き出した。


「では、次の会議ではどんなあやめ祭りにしたいかを多宰府高校生徒会執行部に聞きたい。スケジュールがかなりおしているから少ないかもしれないが一週間でお願いしたい。」


 一週間。これは正直短い。だがスケジュールが押しているのは重々承知であり、そのなかで1週間なら十分時間は与えられている。

「いいね、君たちの眼が好きだし、とても頼もしいな。今日は本当にありがとう。久々にこんなに熱く語ってしまったよ。次もよろしくお願いしたい」

 そう言って、立ち上がり会議室を浅山市長は後にする。


「ふー」

 思わず体の奥底から息を吐きだす。

 知らず知らずのうちに体に力が入っていたようだ。

「終わったわね」

「なんかただ固まってただけだった気がする」

「そうですね……」


 女子3人はそんな感想をこぼす


「浅山市長の言葉って不思議と聞き取りやすくてすっと入ってきますよね。だからその内容が正しく理解できる気がします」


「若干40歳かつ歴代最年少で多賀城市長に当選した男は伊達じゃないってことだな。俺たちはこれから2か月近くあの人と一緒に色々活動していくんだもんなー先が思いやられるけど、面白そうだな」


 捺希の言う通りである。

 浅山市長と一緒に活動できることは必ず良い経験になる。

「ちなみにこれからのスケジュールはどうする?1週間後には浅山市長に私たちの考えを提出しなきゃいけないわけだよね。となると休日返上で考えないとかな」


「とりあえずは来週の火曜日に個人で考えたことを執行部で共有しよう。その後は詳細を詰めて金曜日に発表しよう。火曜日の時点でできるだけ実現可能性が高いものに絞ろう。」


「予算がどれだけ使えるかわからんし、まずはコストのことはあまり考えずでいいと思う。そういうのに囚われないほうがあの市長好きそうだし」

 さすが会計。さすが捺希。付け加え完璧。

「そういうことでお願いします。それじゃあ今日は疲れたと思うし、このまま解散!お疲れさまでしたー」


「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」

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