あやめ祭り準備
第七話 思わぬところから来る便り哉
放送で呼び出された翌日。
呼び出された際に伝えられたいまだに信じられない出来事を伝えるために生徒会室にいる。
「はい、全員そろったから始めるよ」
俺は声をかけ会議を始める
「まずは昨日放送で俺と
俺がそう伝えると昨日伝えられた杏さん以外の4人はその事実を咀嚼して受け入れようとしている。
「それってホント?」
「うん、ホント。」
「信じられない…」
「でも、どうして僕たちに運営協力なんて依頼するんでしょうかね?まだ発足したばっかで何もしてないのに」
「これは俺の予想だけど、今の多賀城市の市長は選挙のときに若者の力をフルに活用するっていう文言を色々なところで使ってた。実際に結構討論会とか行ってるらしい。」
「あーたしかにそんなこと言ってましたね」
まあ、それだけではないだろうけど。
「あの、あやめ祭りって何ですか?」
「私も昨日調べたんだけどよくわからなくて」
紫水と杏さんは多賀城市出身ではないため、知らないのも無理はない。
「碧、この依頼受けるんだろ?」
「今のところは断る理由もないから受けるつもりだよ」
「なら多賀城に長いこと住んでる俺たち四人もあやめ祭りについて再確認したほういいかもな」
捺希がそう言って、パソコンを開き、あやめ祭りについて調べ始める。
捺希を囲むようにパソコンの画面が見える位置に全員が移動する。
国の特別史跡「
「あやめは多賀城市の市花なんだよ。それもあってこうやって毎年開催されているんだ」
「紹介文には東北随一って書いてあったけど、私や紫水君はあまり知らなかったわね」
「おそらくそこが多賀城市が課題に感じているところなんだろうね。多賀城市は歴史の教科書にも出てくるほど歴史的には重要な拠点であったことがわかるし、様々な史跡が今も残っている。ただそれが活かしきれていない」
奈良時代、都である平城京を中心に、西には大宰府、東には多賀城が置かれた。
多賀城は古代東北の政治・文化・軍事の中心地として役割を果たした。
現代は奈良と
「それで俺たち地元の高校生に力を借りようってわけか。」
「まあいくら若者の力を活用するといっても期待はそこまでされてないだろうし、ダメもとでって感じだろうね」
「私は多賀城市に引っ越してきて、まだ1年しか経ってないけど、写真で見るあやめに圧倒された。なら実際にこの目で見たらもっと美しいに決まってるし、観光客が増える可能性は全然あると思うの。その手伝いができるならしたい」
杏さんはあやめに魅了されたらしい。
俺もあやめに魅了をされた一人だからこそ、この協力依頼は嬉しいし、精一杯応えたい。
「それじゃあ、多賀城市からのあやめ祭りへの協力依頼を受けるってことでいいかな」
全員が力強く頷く。
すると、生徒会室の扉が開く
「タイミングばっちしだったかな」
「玲先生!」
最近疲れが取れなくなってきていることから老いを感じている。
若いながら優秀な先生であり、出張なども多く疲労がたまっているためあまり生徒会室には顔を出さず、すぐに退勤してる。
基本的に俺たちに一任しており、最小限の働きのみ行っている。
「今日は退勤してなかったんですね」
「外部との共同活動、しかも多賀城市ときたら流石に寝てられないしね。ただこれまで通り基本的に君たちに任せるわ。何か私の了解が必要だったり、相談があれば遠慮なく申し出なさい。」
すぐに退勤してるばかりじゃなく、やはりやるときはやる先生である。
「それで本題ね。さっき多賀城市からまた連絡がきました。明日の放課後浅山市長が多宰府高校にいらっしゃるそうよ。今回一緒に仕事をしてくれる高校生の顔を直接見ながらこらからの方針を決めたいみたいね。」
「「「「「「明日!?」」」」」」
6人の声が響く。
「見事にハモったわねー、もうそんなに仲良くなったのね」
「急すぎませんか! それに市長が直接来るなんて……」
確かに今は4月下旬。あやめ祭りまで二か月あるかないか。
時間を目一杯使わないと企画の段階で全てが終わってしまう。
それにしても市長自ら来るとは全く頭になかった。
「急で申し訳ないんだけど、これはもう決定事項なのよね。こちらからはあやめ祭りに協力するという旨を伝えるだけでいいよ。本当に忙しくなるのは明日の会議後からだからね。そこは覚悟しておくように」
「玲先生、明日から定時で帰れなくなるんじゃないですか?」
「そんなこと私に言ってる場合じゃないぞ、捺希くん。君は会計だからひょっとすると一番忙しくなるんじゃないか?」
「そ、そんな冗談きついっすよ……今でさえ忙しいのに」
「でも私も婚活できる時間少なくなるなー」
「……」
「いや、ツッコんでくれよー!」
「本人に言われちゃうとツッコみにくいですよ。しかも婚活とかデリケートでしょ」
「デリカシーあるじゃないかー、感心感心」
(なんか玲先生いつもとテンション違いすぎないか?)
(そうですね。忙しくなるから開き直っちゃってるんじゃないですか)
そんなことを凪と耳打ちで話していると玲先生は息を勢いよく吸い込む。
「せっかく忙しい部活の顧問じゃなく、運動部に比較して忙しくないと噂の生徒会執行部の顧問になれたのに……なれたのに……」
「どーーーーうーーしてーー私が顧問になった途端こんな外部との活動増えるのよ! しかも相手は多賀城市! どうして地方自治体がいち高校の生徒会執行部に協力を依頼するのよ! 高校生に何かできるとでも思ってるの? 確かにこの子たちは優秀な生徒だけど、だからって依頼する普通!?」
「「「「「「……」」」」」」
(ええええーーーーーーー!?)
玲先生は一気に捲し《まく》上げたためぜえぜえと息を切らしている。
「(これが玲先生の本音か……)」
「(忙しくなるの確定しておかしくなっちゃってますよ!?)」
「玲先生俺たちのこと優秀だとおもってるんすね……」
「ええ、それはもちろん。だってあなたたちが優秀だからこちらが手をかけることも少ないから執行部の顧問は比較的忙しくないって思われているのよ。」
「なるほど……」
先生方の業務は本当に大変だからな……これ以上負担を増やすのも申し訳ない。
「玲先生、極力僕たちだけでなんとかやっていきますので……」
「何言ってるの?」
「え?」
「確かに忙しくなるのは嫌だけど、私だって教員。あなたたちにとってこれは成長するっ絶好のチャンスです。でも、外部との共同活動というのは何かと面倒なことが起きます。さらに今回は地方自治体との活動です。それであなたたちが萎縮してしまっては何も意味がありません。だから私が教員としてサポートするのは当たり前です。あなたちがこの活動を通してどれくらい成長をするのか、私はそれが楽しみなのよ。」
おお、おおおおおーーーー!!
すごい……玲先生が先生の鑑のように見える。
やはりこの人は生徒のことを考えてくれる優秀な先生。
いや、違うな。
魅力的な先生だ。
「玲Tーーーー!」
鈴望が玲先生に飛びつく。
「ちょ、鈴望さん、いきなり抱きつかないでよ、びっくりするでしょ」
「えへへ、いやーあんまりにも先生がかっこよかったんでつい」
やはり玲先生は先生なのである。
忙しくなるといっても俺たちのことを考えてくれている。
「あの本音暴露がなかったらもっとかっこよかったけどなー」
「あら、捺希くんはわかってないわねーあれがあったからここまで心を切り替えることができるのよ。それに本音を言わなきゃ想いはなかなか伝わらないのよ」
「玲先生もちゃんと先生なんすね」
「当たり前じゃない、私は結構優秀なのよ」
生徒会室の笑いが起こる。雰囲気・そして居心地が良い。
忙しくなる。ただ不思議と嫌じゃない。
それはこの雰囲気と居心地の良さが大きい。
忙しくてもこのメンバーで仕事をしていると自然と楽しくなってくる。
だから仕事は何をするかではなく、誰とするかが大事なんだと改めて思う。
そして、何かに集中すれば他の余計なことを考えなくて済む。
もう頭を悩ませたくない。
目の前にいるはずのない幻影が俺を惑わす。
澪が叶えたかった想いを叶えるために俺は考えて、行動する。
ただそれだけだ。
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