第四話 幼なじみは総べて知っているもの哉
生徒会執行部が始動してから一週間程経った。
私は今日も生徒会室で仕事を行っている。
私は書記であるため、主な仕事内容は執行部の定例会議の議事録作成と中央委員会の議事録作成である。
中央委員会は2か月に1度執行部・専門委員会委員長・各クラスの学級委員が集合して活動内容の報告などを行う会を指す。
そして、もう1つは総務の紫水君と二人で担当することになった生徒会広報の作成を任された。
今日はアオ君と
そのため、生徒会室にはその二人以外の四人がいる。
「
「ん? どうした?」
ナツさんは仕事ができる。
そう、仕事ができるのだ。これ以上に表現がし難い。
だから、一番仕事の量があり、かつ質が求められる会計に任命されたのだと私は思っている。
実際どうなのかはアオ君しかわからないけど。
会長・副会長が不在だと自然とナツさんを頼ってしまう。
「あーなるほど。ここはそういうことでしたか。ありがとうございます、捺希先輩」
「おう、またなんかあったら声かけてくれ」
ナツさんはまた自分の作業に戻る。ナツさんはどれだけ自分の仕事があったとしても声をかけられたらすぐに駆けつけてくれる。
「ナツー、ここってこうやるんだっけ?」
「あー、そうなんじゃない」
「雑!? すごい適当! 紫水君との扱いの差! まず私のパソコンみてないじゃん!」
そう1人を除いて。
「この前の頼れる先輩ってのはどこにいったんだよ。そして俺も自分の仕事あるのよ」
「今は頼れる先輩じゃなくて、か弱い幼なじみとして聞いてるの」
「ちょっと俺の聞き違いじゃなければか弱いってきこえたんだけど」
「聞き違いじゃないよ。だってか弱いじゃない」
「……」
ナツさんは
「無言やめて! しかも私の見間違いじゃなければ顔に「何言ってんのこいつ」って書いてあるんだけど!?」
「見間違いじゃないぞ。だって何言ってるかよくわからんし」
今日もこの二人はいつも通りである。
一旦会話に間ができるとナツさんは息をこぼしながら席を立つ。
「はーーーーーー」
「ここってどこのことなんだ?」
ナツさんは若干ぶっきらぼうに言葉を発したがそれには決して棘は感じられなかった。
「これこれ! ここのレイアウトが上手くいかないくてさー」
ナツさんは結局鈴望さんを助ける。鈴望さんもそれをわかってる。
「おーできたできた! これで大分進める! ナツ、ありがと! なんだかんだ言って助けてくれるんだからー」
「俺たちは「幼なじみ」なんだろ、それにか弱い幼なじみを助けるのは当たり前だろ、けど、少しは自分でできるようにしろよ」
「全部できるようになくなってもいいの?」
鈴望さんは上目遣いで聞くそれも若干の顔の紅潮。私にはわかる。
その意味が。
「全部できなくていいんだよ」
「ふーん、わかった。なるべく頑張る。」
鈴望さんは清々しい笑顔をナツさんに向ける。
素直にカワイイ。
私には最後の会話が何を意図するのはいまいちわからないけど、鈴望さんとナツさんは笑顔だった。
ナツさんはこれからも鈴望さんに手を貸すことことだけはわかる。
「よーし! とりあえずひと段落!」
20分ほど経ったときに鈴望さんが体を伸ばす。
鈴望さんはこの20分間ほとんど話していた。
この人は自分から話題を振ることもでき、他の人が話しているときは聞き役に徹し、そして話を広げることができる。
そうめちゃくちゃコミュニケーションが上手い。
そして鈴望さんは話をしながらも手を止めることはなかった。ずっと話をするのと並行してパソコンとにらめっこをしていたのだ。
この人も単純に仕事ができる。しかも鈴望さんが話を展開してくれることで程よくリラックスした雰囲気で仕事ができる。ありがたい……。
「凪ちゃん、紫水君何か飲む?」
鈴望さんは椅子から立ち上がり、まだ仕事が片付いていない私たちに飲み物を出してくれるみたいだ。
生徒会室にはインスタントのコーヒーや紅茶が置いてある。
また、全員で家から持ち寄ったお菓子もある。息抜きに関しても申し分ない。
後輩としてその役目を変わるほうがいいのかもしれないけど、鈴望さんの場合は素直にその親切を受け入れたほうがいい。
「ではお言葉に甘えて紅茶をお願いします。」
「砂糖とか入れる?」
「いえそのままで大丈夫です。」
「おっけー、紫水君は?」
「僕はコーヒーを頂いてもいいですか?」
「ミルクと砂糖はいる?」
「ブラックで大丈夫です。」
紫水君ブラック飲めるんだ
飲めそうな雰囲気は確かに感じるけど。
「りょうかーい、ブラックなんて大人だねー」
「いずれ、皆さんも飲めるようになりますから自慢にもなりませんよ」
紫水君は飄々としている。
こういうところが高校1年生とも思えない。
「そういう考えができるのがお姉さんは嬉しいよ…」
「急に姉ぶるのやめてください」
「そんなまじなトーンで言われるの怖い!?」
紫水君と鈴望さんはまだ出会って間もないのにやたら紫水君はばっさり鈴望さんに物を言うことができる。
これも鈴望さんの人柄が為せる業なのだろう。
「ナツは何飲む?」
「俺もいつものコーヒーで」
「はいはーい、それじゃちょいとお待ちを」
鈴望さんはポットでお湯を沸かし始める。
ん? 何か違和感がある。
鈴望さんは私に砂糖がいるかを聞いてくれた。紫水君にも同様に。
けれどナツさんには聞かなかった。
しかもナツさんはいつものって言った。
執行部が始動してからナツさんがコーヒー飲んでいるところはまだ見たことない。
聞く必要がないということなのだろうか。
聞かずともナツさんがいつも飲んでいるものがわかるということなのだろうか。
これが幼なじみの為せることなのだろうか。
だが、私はアオ君の好みの通りに何も聞かずに作れるだろうか。
幼なじみの為せることというよりこの二人だからこそ為せることなのだろう。
私がそんなことを考えていると
「捺希先輩には何も聞かないんですね」
紫水君それ聞いちゃうの!?
「「ぶっほっ!、ごほっごほっ!!」」
二人は口に運んだ飲み物を一斉に噴き出す。
「なんでそんなこと聞くのかなー?」
鈴望さんは懸命に動揺を隠そうとしているが、それが裏目にでてさらにわかりやすくなってしまっている。
「いや、単純に気になったので」
紫水君は鈴望さんとは対照的に顔色を変えずに答える。
「紫水、そんなの決まってるだろ。鈴望がコーヒーの好みのことを覚えているくらい俺のことを好きだからだろ」
ナツさんはここぞとばかりに鈴望さんを煽る。
これが吉とでるか凶とでるか
「ナツー、そんなこと言っていいんだ……」
これは……。
ナツさんにとっては明らかに凶と出ている……。
さっきまでの動揺だだ漏れの表情とは打って変わって不気味な笑みを浮かべている。
「あのことは秘密にしてあげようと思っていたのに、そんなこと言うってことは覚悟ができているってことかー」
鈴望さんはナツさんに覚悟を確かめたあと、自らも覚悟を決めたような様子で語り始める。
「紫水君、これは私とナツが小学校5年生の頃のことなんだけどね」
「ちょ、それは……」
ナツさんが口をはさむがそれを意に介さず鈴望さんは続ける。
「そのとき流行っていたドラマがあって、そのなかに出てくる俳優さんがブラックコーヒーを飲んでいるシーンがいっぱいあってさ、かっこいいなーって思ったんだよねー」
鈴望さん、すごいわかります。
俳優さんがやるとなんでも様になるし、かっこよく見えちゃいますよね。
「それで次の日に友達とそのドラマについて話しているときに私が「ブラックコーヒー飲んでる男の人ってかっこいいよね!」って友達に言ったらさ」
なんとなく話が読めた。
「その日の放課後にナツの家に行くといつもは炭酸飲んでるナツがブラックコーヒー飲もうとしてたんだけど、それが苦すぎてナツは吐いちゃったんだよ。それ以来トラウマできちゃってブラックコーヒーは飲めずにカフェオレで妥協してるんだよ。」
そんなことを嬉しそうに鈴望さんは話した。
今の話をまとめるとナツさんは鈴望さんのブラックコーヒー飲んでる人がかっこいいという発言を聞いて、無理してブラックコーヒーを飲んだら吐いてしまって、それがトラウマとなっているということ。
つまり小学5年生のナツさんは鈴望さんにかっこいいと思われたかったということかー。
意外とかわいいところがあるんだ。
そんなナツさんは机に顔をうずめて悶えている。
「もういっそのこと俺を殺してくれ……」
「捺希先輩、案外かわいいところもあるんですね」
紫水君、今のナツさんにその言葉は響くからやめてあげて……。
「今はこんな無愛想野郎も可愛かったものよー今じゃその面影は全くなくなっちゃった」
「誰が無愛想野郎だ……」
ナツさんのツッコミにキレがなくなった……。
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