第参話 染まり始める夕暮れ哉
2人はその後生徒会室から出ていった。
まあ少ししたら戻ってくるだろうしほっとくか。
「行っちゃいましたね……」
「そのうち戻ってくるでしょ」
「そうですね」
そうこうしていると、生徒会室前方の扉が音を立てる。
すらりとスカートから伸びた脚。その脚は黒色の布に包まれており、より一層美しさを引き立てる。髪は胸あたりまで伸びており、後ろで一部をまとめている。いわゆるハーフアップという髪型である。髪の艶は
生徒会副会長
「何やら楽しそうね」
「あ、汐璃さん、お疲れ様です」
「凪さん、お疲れ様。
「えーとですね……」
凪はさっきまで起きていたことを説明する。
「そう、やっぱり2人は仲が良いのね」
「「仲が……良いわけないでしょ……」」
ちょうど
捺希が鈴望の首根っこつかんでるし…
まるで猫だな
「楽しそうでなにより」
「ほんとそうですね」
2人で笑い合っている。
杏さんと凪が仲睦まじく話している姿をつい3年程前まで当たり前に見ていた光景と否が応にでも重なる。
あの二人の姿はまるで……。
「会長大丈夫ですか?」
紫水に声をかけられ、我に戻る。
「ああ、うん、大丈夫」
「そうですか、何かぼーっとしていた気がしますが」
「ちょっと考え事。それより全員そろったからそろそろ始めようか」
そういって机に座るように呼び掛ける。
後ろから杏さんがこちらを見ている気がした。
だって仕方がないじゃないか。
杏汐璃は
生徒会執行部全員がそろったところで初回の定例会議を始める。
会議といっても初回なので自己紹介と役職や大まかな活動内容の確認をする程度である。
「では、定例会議を始めます。まず、捺希、鈴望、凪、
多宰府高校の生徒会執行部役員の選出方法は会長・副会長は生徒会役員選挙で選出される。
今年度の会長の立候補は俺のみ、副会長の立候補も杏さんのみだったため、会長選・副会長選ともに信任投票が行われた。
俺は前年度も執行部に所属し、活動を行っていたこともあるのか、80%近くの信任をもらうことができた。杏さんもその美貌と優秀な成績は全校生徒に広まっており、認知度は高いし、普段の生活態度からも人望が厚いため、俺と同じくらいの信任をもらっていた。
その他の会計1名・書記1名・総務2名は会長自らが任命を行う。
だからすべて俺が個々の性格や能力その他諸々を鑑みて任命をさせてもらった。
「碧からの任命うんぬんってより、元々入りたかったしなー。この執行部でこれから活動するの楽しみだし、ワクワクしてる」
捺希の責任感や仕事への姿勢は執行部で活動していくなかでとても重要な要素になる
「そうだねー、私もめっっっっっちゃ楽しみ!!」
鈴望はその持ち前の明るさで執行部を照らしてくれるだろう。
「僕は僕にできることをやるだけです」
紫水は与えられた仕事を、そして執行部のためになる活動をきっちりこなして、執行部を縁の下から支えてくれるに違いない。
「もちろん精一杯頑張ります。でも正直私にうまくできるか心配です…」
凪は自信なそうにしている。凪は人並み以上にあらゆることができるが、姉の澪の陰に隠れがちであったためか、自分に自信が持てないでいる。
「凪は十分な能力を持っている。だからこそ俺は凪を書記に任命したんだ。無理に自信を持てとは言わない。だが、自分を高く評価してくれている人がいる。それだけはわかってほしい」
これは励ましではない。ただ事実を述べただけである。だが、人は単なる励ましよりも事実を淡々と話されたほうがすっとその言葉を受け入れることができる。
「皆さんの力になれるように、そして自分に自信がもてるようになります」
それは力強い宣誓だった。
「凪ちゃんなら大丈夫。何かあったらこの頼れる鈴望先輩に助けを遠慮なく求めていいからね!」
「その頼れる鈴望先輩ってのは一体どこにいるのかね」
「ここに「ここ」にいますー、後輩に頼られないからって私を僻まないの」
「いるとしてもこの世界戦の鈴望ではないな」
「なぜパラレルワールドを作る!?」
「紫水、俺とこの自称頼れる鈴望先輩どっちが頼れる?」
「まあ、捺希先輩ですかね」
「なっっっ……、そんな……」
鈴望はその場に突っ伏した。
「ということでその頼れる先輩という呼称は俺がいただこう」
「でも、基本的に頼れるのは捺希先輩だとは思いますが、捺希先輩って集中してると怖いっていうか話しかけづらいときも多々あるので、話しやすい・相談しやすい観点からだと鈴望先輩ってことになりますかね」
「な、なんだと……」
今度は捺希ががくりと肩を落とした。
「状況に合わせてお二人に頼らせてもらうのでそんあ落ち込まないでください」
「私もナツさんとレミさんお二人を頼らせていただきます!」
「ふふふ」
杏さんが笑い声を漏らす。
それによって5人の視線が杏さんへ移る。
「あ、ごめんなさい。まだ初日なのにみんな仲が良いんだなーと思って、なんだかうれしくなちゃって。あと、そんな一斉に見られると恥ずかしい……」
杏さんは整っている顔を赤らめた。
美人はその照れた顔も様になると他意はなく、全員が思っただろう。
俺を除いて。
その照れた顔もあの面影と重なってしまう。
重ねようとしなくても重なってしまうのだ。
それくらいどうしようのないほどそっくりなのだから。
血液が全身を勢いよく駆け巡り、一瞬跳ねるような感覚に襲われる。
杏さんと目が合った気がした。そう気がしただけ。
杏さんは続ける。
「私は楽しく、そしてメリハリを持ってこの執行部の活動をやっていきたいと思ってる。それはもちろん皆一緒だと思うんだけど、私のこの感覚は多くの人とずれてるみたいなの。だから今回はどうだろうと不安だった。でも、皆が和気あいあいと話している姿を見て、ここならやっていける、自分の力を100%以上発揮できるって直感的にそう思ったの。そう自分で思えたのが本当にうれしくてつい笑っちゃった」
そう笑った顔は西日に照らされたからなのか輝いて見えた。
「じゃあ最後は会長に締めてもらうか!」
5人の視線が俺に集まる
この目線に思わず圧倒されそうになるが、それと同時に自分がこの執行部の主宰であること、そしてそのことを5人が認めてくれていると感じることができる。
「学校を変えるとかそんな大層な目標は掲げない。まずはできるだけ多くの生徒が充実した学校生活を送ることができる体制をつくることが至上命題だと俺は思っている。そしてこれは学校内部での活動。執行部は学校内部だけでなく、外部と接触する機会も多くなる。この多宰府高校の代表としてね。ただやることは何も変わらない。自分にできることを精一杯やる。ただそれだけ。できないことは他のメンバーに助けを求めればいい」
素直に今心にあることを話す。
一度息を吸い、間を置く。
夕日がまぶしく後押しするかのように照らす。
「総務:
力強く一人ひとりの名前を呼ぶ。5人は自分の名前が呼ばれると各々返事をしてくれた。
「多宰府高校第40代生徒会執行部、本日から活動を開始する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます