最終話:彼女の生きた証

 アカリのために何を残したら良いのか。ルゥは毎日考えました。そしてある日、自分の部屋を掃除している時にごっそりと抜けた尻尾の毛を見て、あることを思いつきました。


「ルミナ、ぬいぐるみの作り方教えて」


「む。なんじゃ?その毛は」


「ワタシの尻尾の毛。ぬいぐるみの綿がわりに使う。ワタシの生きた証、作る。アカリに渡す」


「なるほど」


「ぬいぐるみ二体分。これで足りる?」


「サイズにもよるが……そうじゃのう。その量で二体作るなら……これくらいのサイズになりそうじゃの」


 そう言ってルミナが持ってきたのは手のひらサイズのぬいぐるみでした。


「むぅ……小さい。もうちょっと溜める」


 その日からルゥは、ルミナから貰った綿を使ってぬいぐるみ作りの練習をしながら、自分の抜け毛を溜め込みました。

 そして目標の量が溜まったところで、溜め込んだ毛を洗い、干し、それを綿がわりにして、アカリに渡すためのぬいぐるみを作り始めました。完成したのは約一年後。ルゥはそれを、アカリに誕生日プレゼントとして渡しました。


「これって……」


 赤いずきんを被った二体の女の子のぬいぐるみ。そう、ルゥが作っていたぬいぐるみのモチーフはアカリとルゥでした。


「こっちがルゥ、こっちがアカリ」


 ルゥ人形の背中からは、ふさふさの尻尾が生えていました。そして、ずきんを脱がせると、ぴょこんと狼の耳が顔を出します。


「すげぇ。尻尾の質感が本物みたい」


「みたいじゃない。本物」


「へ?」


「それ、本物のルゥの毛」


「あぁ、なるほど」


「比べるか? 同じだぞ」


 そう言ってルゥは、アカリに尻尾を向けます。アカリはルゥ人形とルゥの尻尾を触り比べますが、質感はほとんど変わりません。


「中身も同じ。ルゥの毛。そのぬいぐるみ、ルゥが生きた証」


「そっか。……ありがとう。大切にする」


「うん。……ところでアカリ、いつまで尻尾触ってる?」


「……もう少しだけモフモフさせて」


「……仕方ない。好きなだけモフるが良い」


「ふふ……ありがとう」


 アカリはルゥのふわふわの尻尾を愛おしそうに撫でます。その表情と手つきが、ルゥの胸を締め付けました。

 ふと顔上げたアカリは、ルゥの表情を見てニヤリと笑い、人形をテーブルに置き、手を尻尾の付け根の方へゆっくりと移動させていきます。


「……アカリ。触って良いの、尻尾だけ」


「尻尾しか触ってないよ」


「……嘘。尻触ってる」


「手が当たっただけだろ」


「……絶対わざと」


「何? ムラムラしてきた?」


「……アカリのせい」


「じゃあ、責任取らないとな」


 そう言ってアカリはルゥを立ち上がらせ、ベッドに押し倒してキスをしました。アカリに優しく触れられているうちに、ルゥは涙をこぼし始めます。それを見たアカリは手を止め、ルゥを心配しました。


「嫌なわけじゃない。幸せ。だから涙出る。アカリ、大好き」


「あたしも、大好きだよ。……これからも、よろしくね。ルゥ」


「よろしくされた」


「ふふ。長生きしろよ」


「頑張る」


「おう」


 それからルゥは毎年、アカリの誕生日にぬいぐるみを渡しました。アカリの部屋にはルゥ人形とアカリ人形、そしてそれより一回り小さな赤いずきんを被ったぬいぐるみ達が、アカリの誕生日になると毎年一体ずつ増えていきました。


 アカリはそのぬいぐるみ達を我が子のように大切に扱い、それ以上ぬいぐるみが増えなくなった後も、ぬいぐるみを見るたびにルゥを偲びました。

 結婚はせずに生涯独身を貫いたアカリでしたが、最期はルゥの残した子供ぬいぐるみ達と街の人達に看取られ、安らかに眠りにつきました。

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赤ずきんちゃんと人狼ちゃん 三郎 @sabu_saburou

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