第6話:長くは生きられないから
それから一年。ルゥは、ルゥのためにルミナが森の中に魔法で建ててくれた家に引っ越しました。アカリは変わらず家業を手伝うため実家暮らしでしたが、毎日のようにルゥの家に通いました。
ルゥは六歳。人間に換算すると三十歳ほど。見た目もすっかり大人のお姉さんです。アカリは「どんどん歳の差が開いていくな」と複雑そうに笑いましたが、今までと変わらずルゥを愛し続けました。ルゥも変わらず、アカリを愛していました。しかし、刻一刻と近づく別れを惜しまずにはいられません。
「……なぁ、ルミナ」
「なんじゃ?ルゥ」
「獣人が人間になる魔法、あるか?」
「あるにはあるが……一時的な効果しか保てんぞ」
「そう……か……じゃあ、若返る魔法」
「肉体の時を戻す魔法ならある。しかし、時を戻すわけじゃから、もちろん、今まで作ってきた思い出もなくなってしまう」
「……メス同士でも子供作れる魔法は?」
「それも無くは無いが……ルゥや、それはアカリが望んだことなのかね?」
「……ううん。ワタシが、アカリの子供がほしいだけ。アカリに、残してやりたい。寂しくないように」
「……なるほどのう……今の言葉、アカリが聞いたら怒るじゃろうなぁ。『子供は物じゃない』って。アカリが望んだのならともかく、ルゥが一方的に押し付けるのならそれはエゴじゃよ」
「エゴ?」
「自分勝手ということじゃ。アカリに対しても、生まれる子供に対しても、ありがた迷惑じゃよ」
「……そう……か……」
「どうしても子供をもうけたいのなら、アカリと相談なさい。2人で望んだことならわしも協力する。一人で決めてはいけないよ」
「……うん」
ルミナに言われた通り、ルゥはアカリを「大事な話がある」と家に呼び出して、子供がほしいと伝えました。するとアカリはため息を吐き、ルゥの頭を小突きました。そして、ルゥを抱きしめました。
「……馬鹿。んな重いもん貰えるかよ馬鹿」
「獣人の子は軽い」
「重量の話じゃねぇよ。気持ちの話。ルゥと一緒に子育て出来るなら、それは嬉しいよ。けど、ルゥは長く生きられない。子供だけ残されても、一人で育てられる自信なんてないし、その子供も短命なんだろ? 愛した人にまた置いていかれんのなんて、やだよ……」
「……ごめん。ワタシ、勝手だった。ごめんね」
「馬鹿……」
「ごめん」
「やだ」
「どうしたら許してくれる?」
ルゥが問うと、アカリはルゥを立ち上がらせ、ベッドに投げ倒し、上に乗り、何も言わずに唇を重ねました。そしてそのまま、ずきんを外し、ルゥの服に手をかけます。ルゥは抵抗せず、彼女に身を委ねました。
「ルゥ。好きだよ」
「ワタシも、アカリ、大好き。幸せ。けど、幸せすぎて、怖くなる。死ぬの、怖くなる」
「……今はあたしのことだけ考えて。先のことを考えたって不安になるだけだよ」
「じゃあ、頭の中、アカリでいっぱいにして。いっぱい、して」
「言ったな?途中で疲れて寝るんじゃねぇぞ」
「ワタシ、アカリより年寄り。だから手加減はしてほしい」
「はははっ。ごめん。加減すんの苦手なんだわ」
「んぅ……アカリ、意地悪……」
「今日は意地悪したい気分なの。あたし、怒ってるんだからね」
「ごめん……」
「やだ。今日はとことんいじめる」
その日、二人は時間を忘れて、いつか来る別れへの不安など忘れてしまうほどに激しく愛し合いました。
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