第1話

【神代の物語】


昔々あるところに、一匹の龍がいました。

龍には三つの首があり、他の龍たちにも恐れられ避けられてしまうほどに彼の龍は強かったのです。

しかしある時、神々しい光の力を持った者たちとの戦いで龍は必死に戦い続け、その戦いはとてもとても長い時間が経ってようやく終わりました。

その戦いは苛烈を極め、痛み分けとなった戦いの後、龍は倒れてしまいました。

しかし最後に龍は身体を三つに分け、再び復活するために眠りにつくことにしました。

長い、長い眠りの底に。

それは人類史が始まる前の神話の時代の話。

神代という時代に、あったかも知れない"もしも”の話。



~~~  時と異空の彼方から  ~~~


真っ暗な部屋に一つだけポツンと置かれたイス。

イスに腰掛けているのは人の形をした得体の知れない【何か】だった。

人の形をしているのに誰が見ても違和感だけは拭えない、そんな異様な何かが手に持つのは一冊の本だ。

絵本、日記、古文書、標本、魔導書、辞書、預言書などの現存する書物には分類されない一冊の本。

見る者が違えば、その本は古めかしいとも真新しいとも見える不思議な本。

内容さえも見る者が違えば、語り手が違うならば変わってしまう奇妙な本。

そんな不可思議な本を持つソレは、本を開くこともせずに真っ暗な暗闇を見るとうっすらと微笑み、口を開く。


『キミは世の中に奇妙な出会いがあるものだと思った事はあるだろうか? それを【運命】や【宿命】と定義する者もいるだろう。もしかしたら【誰かに仕組まれた】と定義する者もいるだろう』


それは恐らく顎……に手をやり、悩むような素振りをしながら答える。

間違ってはいない。だが合ってもいないのだ、と。


『出会いとは偶然であり、必然であり、当然であり、しかし全くもって自然なモノなのだ。好きなモノとの出会いも、嫌いなモノとの出会いも、全ては等価であるが故に、良くも悪くも本人の意思にかかわらず意味のある出会いとなるものなのだ』


それは何かを懐かしむような表情で本を見詰めた。

そして一分ほど目を瞑り、答えの無いものを例え話として答えを出す。


『人の子の言葉を借りるなら……そうさな、それは【恋】と似ているかもしれん。気に入るも、気に入らぬも全て千差万別。故に、この場にてこの【物語】を紐解く者が居るのならば、要らぬ世話かもしれぬが我から言葉を送ろう』


イスに座ったまま一度本を撫でてから、無造作に宙に放り投げた。

開かれた本から光が溢れるなか、何者かは語りかける。










『ようこそ。世界はキミを待っていた』




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