幕間

 少女がうずくまって泣いている。

 見慣れた光景とはいえ、男は少女を心配せずにはいられない。


「どうして泣いてるんだ?」


 少女の母は、必要以上に娘をしかり、追い詰める。

 また母──はつに怒鳴られたのだろうと、男は予想した。


 滅多に家に寄りつかない父でも、優しい父に、少女は懐いていた。


 心の底から娘を愛したかった。

 いつしか、言いなりになってくれる少女を、都合のいい娘としかとらえることしかできなくなり、自身の幸せのためには娘を捨てることさえいとわなかった。


 そんな父でも、少女にとってはたった一人の家族である。


(そうか、はつは出て行ったんだ……)


 ならば少女は、何故なぜ泣いているのか。

 男は少女が泣いていることを、本当に知らなかったのだろうか……?


 少女は泣きらした目で振り返った。


「おとっつあんが、私のこと捨てたから……」



「はっ…………!」


 男はそこで目が覚めた。


 夢の終わりは決まって、少女のつぶやきで幕を閉じる。


(また、この夢か……)


 最近になって頻繁ひんぱんに見るようになった夢にどんな意味があるのか。

 罪悪感か……少女の恨みが今になって届いているように男は思った。


 込み上げてくる辛いものに、男は咳き込んだ。

 朝日はもうすぐ射しこもうとしている。

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