幕間

 凍てつく寒さにも、空虚にも慣れていた。

 何もない世界こそ自分の世界で、すべては雪に覆われている。


 この手で捨てたものは多くて、そこには大切な存在もあったはずなのに、捨て去るときは一瞬だった。


 確かに彼女を求めていたはずだった。

 比翼連理ひよくれんりを願った、彼女を……


 夢の中にはもう、彼女は現れない。

 愛しい子どもの泣き声も聞こえない。


(今の俺には何もない。これからも……)


 だが、消し去ったはずの存在を覚えている。


 なめらかな柔肌も、息遣いも近くにあるような気がして、組み敷く女を愛でた。


——違う……

——雪じゃない……


 心の中で誰かがささやいた。


 嗚呼、どうかその名前を呼ばないでほしい。

 捨て去った存在を、求めてはいけないのだから。


「貴方は私と一緒。届かない存在を私に重ねている。それでもいい……私を抱いて」


 かそけき声は、幻のように聞こえた。

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