第二幕 白銀の世界
一
鉛色の空から小さい雪片が舞い落ちる。
その頼りない雪片は、いつまでも降りやむことがない。
大地に積もる雪がすべてを覆いつくし、果てしなく汚れのない景色が広がっていた。
ここは、故郷だっただろうか……
いや、違う。ここは自分の世界だ。
何もない、空っぽの世界。
けれど自分は誰かを探している。
歩き続けた先に、女が背を向けて立っていた。
そうだ。自分はこの人を、雪を求めていた。
共にいることを誓った、大切な人。
雪が振り返る。
駆け寄ろうとした
しかし、雪は振り返ったときには違う女へと変わっていた。
透き通るような白い肌は、その感触さえも
幼い顔は美しく、むしろ
過去と共に消し去ったはずの記憶は、身体のいたるところに染み付いて離れていなかった。
ふっと笑うその仕草は、嬉しそうで哀しい。
「さと」
昔愛した女の名前を呼んだ。
「…………!」
目に映るのは薄暗い天井、そこで夢から覚めたのだと自覚する。
(今頃、どうして……)
隣を見れば、静かに眠る雪がいる。
先ほどまで見ていた夢に、
夢に出てきた女に未練があり、忘れられずにいるような気分になる。
未練など、故郷を出るときに捨てたはずだ。
思い出すことはあっても、もう一度求めたいと思ったことはない。
それとも思い出すこと自体が未練だというのか。
辰巳は自身の
まだ夜が明けたばかりの刻限、人の気配はない。
雪と神田の長屋に住み始めてからおよそ二月が経とうとしていた。
世間でいうところの
再び家の中に戻って、雪が目覚めないように静かに戸を閉める。
辰巳は急いで雪の
「おとっつあん……」
夢の中で、待っていた人を求める、今にも泣きそうな雪の手を、辰巳はそっと
雪は時々、無意識に父を求めることがある。
その度に辰巳は雪の手を握って、
やがて、安心したように雪は夢を見る。
いつになれば、雪は孤独から
ぽつりぽつりと雪から
雪が自分に自信を持てずにいるのは、雪自身の過去が起因している。
辰巳は雪の過去を
江戸の空には、初雪が降り始めていた。
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