粗暴な問題児

 カレヴィ、名前だけは知っている。教室いや村一番の問題児だと。クロエも十分問題児だが彼は別次元に問題児だと聞いている。


 この村には境界が敷かれている。その境界の内側でしか村人は通常行動出来ない。王宮への出向、境界の拡張、特定職種の業務遂行以外は境界の外へ出てはならない。それは村の掟であり、王国が指定した法でもある。境界から一歩外へ出た時点で逃散と見なされ厳重な処罰を受ける。

 カレヴィは3度、逃散を計った。そしてスヴァインによって連れ戻された。理由は知らない、だがスヴァインはカレヴィを謹慎という比較的軽い罰のみを科しただけで、国へ報告することは無かった。

 カレヴィ、彼の父は居ない。私生児である。故に村人達はカレヴィはスヴァインの子では無いかという噂があがった事がある。ただ見る限りスヴァインの面影は無く、誠実な彼がその様な事はしていないと本気にする村人はいなかった。

 そんな問題児であるカレヴィに対し普通の村人達は異端し接したがらない。故に普通の村人の子等も伝播され現状に至る。


 そんな事同じく差別されているシモンにとってはどうでもいい事だった。それよりもクロエが何故彼を自身に紹介したか、その真意が知りたかった。それは異端である自身には異端である彼がお似合いだろうと思ったのかと邪推する程に。


 「おい」

 「なに? 」

 「そこ空いているか? 」


 偉く乱暴な言い方だ。シモンと反対の席を指差しながら、睨みつける様な目で言う。


 「うん、クロエは真ん中だからそこは空いてる」


 返事を聞くなり『そうか』と軽く言い、乱暴に椅子を下げ、脚を放り出し尊大に座る。


 「おい」

 「 ……なに?」

 「教材はどこにあるんだ? 」

 「教科書とかは前の教壇にあるよ。魔法のは知らない 」


 カレヴィはこれまた『そうか』と言い教壇へ向かい、教科書を物色する。道すがらの生徒が黙っていくのはちょっと面白かった。彼は教科書をシモンの背丈程も積んで席に座った。粗暴そうなのに意外と勉強は好きなのだろうか。


 「おい 」

 「 …… 」

 「おい 」

 「 …… 、その『おい』ってのやめてくれない? 」

 「…… あぁ、すまない 」


 案外素直で意外だった。ただ粗暴が悪いだけなのだろうか…… 。


 「 で、何? 」

 「 …… お前ランタンブーツってあだ名なんだろ? なんでだ? 」


 やっぱりこの人苦手だ。直球でえぐられる。何を考えているんだろう。


 「 …… 」

 「 そうか …… 悪い。嫌いなんだっけ? そう言われるの。 ついかっこいいなと思ってしまったんだ。」


 …… え? なんだろう。この人も馬鹿にしているのだろうか? 他の人達と言い方は違うけど…… 。

 問題児とはよく言う物だ。頭を掻きながら少し目を伏すこの人が本当に解らなくなった。


 クロエが漸く戻ってきた。ホッとした。早く間に入ってほしい。

 しかしシモンの願いは中々叶わなかった。クロエは二人の前に来たのに席に座らない。


 「先生が、二人も来なさいって 」


 先生が呼ぶとはなんなんだ。今日はなんなんだろう。今日本当来なければ良かった。


 後悔しながらシモンはクロエ、カレヴィと一緒に先生、スヴェインの許へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

持たざる者 グシャガジ @tacts

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ