【君と月夜は光り輝く】

みたらし団子

第1話少年と少女

この国は力が全て、力があるものは力のない物を蔑み侮辱する。

それは全てのことでも等しい理解がされている。

【共通認識】

その事は自由と希望に満ちた冒険者でも同じ事だった…

“冒険者”

今日から僕は冒険者になる、冒険者とは言葉の通りでこの世界を旅する自由と希望に満ちた、夢の職業多くの人が憧れる存在、そして僕は今日冒険者になるためこの冒険者ギルドに来た。

とても大きな建物だ、入り口を入ると、すぐに受付があり、奥には酒場や依頼表がある、確か、受付で冒険者に登録できた筈だ。

受付では多くの冒険者達と、受付の人が話していた。

(受付、空いてないな。)

受付は朝だからか、とても混んでいる

他の冒険者達が、色々な依頼を受けている、色々周りを見ていたら、一つ受付が空いた。

「あ…あの、すみません、冒険者登録がしたいのですが」

すぐさま僕は、受付へ行き、受付のお姉さんに話した

「はい冒険者登録ですね、ではこちらに氏名と年齢、使える魔法、スキルを書いて持ってきてください」

「はい」

やっとなれるのだ、冒険者に…


「書き終わりました」

「はいでは少々お待ちください」

そう言うと受付のお姉さんは、奥の方へ行った、少しして戻ってきた受付のお姉さんは手に小さな指輪のような物を持ってきた

「これは、冒険者の印です、これが有れば他の国でも、冒険者として活動できますが、無くされるともう一度発行する事は出来ず、また再登録してはじめのランクからとなりますのでお気をつけてください」

「はい」

この指輪は大切な物らしい、しっかりしまっておこう

「では、登録完了です。あなた様は、まだFランクなのでFランクの依頼しか受けられません」

「はい、あのFランクでは討伐依頼ってできますか?」

"ランク"それによって冒険者の受けられるクエストが変わるそうだ。

「討伐依頼等はチームで二人以上いるかDランクに、ならないといけません、すぐに討伐依頼を受けたい、となりますとですね、ドールというのはいかがでしょうか?」

「ドール…」

そうドール、この国ではドール(人形)というのは労働、戦闘などに、捨てられた、子供を教育して一つの職業として使われていることが多い、

この国ではよく見かける、僕もあまり抵抗がない、が

お金が足りるだろうか

「あなた様はFランクですのでこちらも依頼同様Fランクドールしか、無理ですが、安く提供できますよ」

「本当ですか!」

驚いた、冒険者はそんな特権もあるのだろうか。

「はい、よろしければ今からご覧になられますか?」

「は、はい!」

「どんなドールがいいでしょうか」

「どんなドール…」

全然考えていなかった、やはり前線で闘ってくれるのがいいだろうか、僕はあまり戦闘が、得意ではない、戦闘力の高いやつがいいな、

「前線で戦ってくれて、動きが早いのがいいですね」

「そうですか、でしたら、こちらとかはどうですか、動きが早く、獲物を逃しません、ですが、大きい敵などには、尻込みしてしまいますし、命令を聞きません、」

「そうですか、他のを見てもいいですか」

「他ですか、こちらはどうですか、動きは少々先程のものよりは遅くなりますが、パワーがすごいです、ただし、力がすごく扱いづらいです、たまに反抗して、こちらを攻撃したりしてきたりも」

やはり、Fランクでは、良い点があっても、悪いところが目立ってしまうな…

「他にはありますか?」

「他となりますとですね、少し傷物になりますがどうしますか」

傷物か、

「どんな傷が?」

「今紹介しようとしているのですがね、その前の人がひどい人でして、その彼女を無理矢理…」


なるほど、そういう傷物か。

「多分その時に、感情面が欠落してしまいまして、戦闘だけだと、Aランクにも負けないような強さですし、まだまだ成長が見られます、ですが…」

「見せてもらっても」

「え、いいのですか」

でも、そういうのは嫌だな、聞いているだけで胸糞が悪くなる。

「で、では、こちらです」

今までの、ドール達がいた部屋とは離れて、少し遠い場所に設置られた部屋に、その子はいた。

「あの子が」

「はい、とても男性を怖がっていて、それに私たちでも、まともに会話ができていなくてですね」

部屋に入るとそこにいるのは、もう死にそうな、自害でもしてしまいそうな顔を女の子だった。

「そうですか、この部屋は」

「はい、決壊品と、されるドールが入る、部屋です」

決壊品か、この子は、僕とあまり歳も変わらないほどの子だろうに、なのにどうしてこんなに、悲しそうな目をして、

「あの、少しいいですか?」

そう言って、僕が彼女に近づくと、彼女が、こちらに気づいたようで、目を開いた。

とても綺麗な瞳な筈だ、綺麗な銀色の髪の毛と、青く輝く瞳、誰もが見惚れるような容姿だ、なのに、こんなにも悲しそうになれるだろうか、だがこの瞳、どこかで…

あぁ、そうかとても似ているな…

「なぁ、死にたいか…」

「っ!な、何を急に」

「少し黙っててもらってもいいですか?」

「なぁ、死にたいか」

「…」

彼女は答えてくれない

「もう、嫌だろ、ドールとして、人形なんて、もうやだろ…俺が…俺が殺してやろうか…」

「…」

「ダメだな…」

この子は、希望はないのか…

「…だ…」

「?」

何か、言ったか…

「い…いやだ…死にたくない…」

「そうか、じゃあさ、僕のドールになってよ」

「やだ…男…怖い…」

「そうか…君と前に契約していた人は君のことを…その言い方悪いけど奴隷みたいに扱っていたんだよね?」

「…」

「じゃあさ、僕と契約を結んで欲しいんだ」

「………」

「君は僕のドールになるのだよ……でも形だけでいいよ、形だけ、そのあとは君の自由にするといい、その手伝いはなんでもする、だからその対価として君は僕の冒険の手助けをして欲しい、僕と対等な仲間として、僕の冒険の手助けをしてほしい…」

「………」

「だめかな?」

「お前…変な匂い…」

「え…ひどくない」

「わかったけいやく…する」

「!ほんと!よかった〜」

「なんかしたら…殺す…」

「わかったよろしくね」

「しね…」

「ゔぐ…ひ、ひどい…」

まぁ結果オーライ。

「お姉さん、これでいいですよね、これで討伐依頼できますよね!」

受付のお姉さんが、戸惑っている。

「まぁ、できますが、すごいですね、彼女を…」

「いや、昔こういう風になった人を知ってましてね」

よし、このまま討伐依頼へ、出発!

の前に、

「えっと名前なんて言うの?」

「ない…」

「ない?」

「ない…」

名前がないのか、じゃあつけてやらないとな

「どんな呼ばれ方したい?」

「なんでも…いい」

僕、名前をつけるの得意じゃないんだよな。

そうだな、彼女の髪…白に少し薄いピンク色…

白い花綺麗な花…

「セシリア…いや、セリア…どうかな?」

「…セリア…」

「気に入ったか。」

「…うん…」

心なしか少し笑ったように見えた。

「僕はアスク、よろしくね」

「うん…」

「そういや、セリア、何歳なん?」

「一五…」

「え、俺と一緒なん、」

「なんか…いや…」

「だからひどいんだよ…」

まぁ、こんな感じで新しい仲間ができた。


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「なぁ、セリアって武器何使うん?」

一応聞いておかないとな、何を使うかわからなければ戦い方を考えられない。

セリアは淡々と口を開いた。

「片手剣…大剣…」

片手剣と大剣か、2本使うのか、


「じゃあ、主に戦士だな、前線で闘うやつ」

「ん」

「どこかに、戦士用の装備一式売ってる場所あったな確かギルドの横にあった筈だな、行くか」

などと、装備屋に行こうとしていると、

セリアが、立ち止まり、ある方向を眺めていた。

その先には、

「あぁ、飯食ってなかったな」

「んん…大丈…夫……ぐぅぅ…」

「…そうか、まぁ僕が腹減ったから、ご飯行こうよ」

「…わかった」

なぜだろう、セリアはあまり自分の意見を言おうとしない、聞いてくれないと思っているのだろうか

僕とセリアはギルドの近くにある酒場に入った、中はとても繁盛していて、賑わっている、幸い席は空いていた。

「セリア何食べる?」

「…いい」

断られた、やはり意見を言わない、というか多分そういう風に育てられたのだろう。

「いいよ、食べたいの食べなよ、ていうか僕たち同い年でしょ、気を使ったりするのはそこまでいらないよ、口遣いはそのままでもいいけど、こういうわがままにもならない願いなら言ってよ」

「いい…の?」

セリアは少し困ったように言ってきた

「当たり前だ、食べたい物とかしたい事とか、そういうのは言ってくれればできるものはするから、僕たちの契約はあくまで対等にだからね、それにわがままぐらいだったら聞くよ」

「…わかった…じ…じゃあ」

そういうと、恐る恐るセリアはメニューを開いて、注文した

彼女は幼い頃からドールとして育てられていたらしい、故に子供の頃がないまま、十五という歳を迎えてしまったのだろう…

何故か異様に大人びていて…幼すぎる…本当ならまだ…


少し考え事をしていたらすぐに注文した料理が来た。

セリアはこの店いやこの国水の都名物とれたて日替わり海鮮定食を頼んでいた。

「お、美味しい…」

とても楽しそうに食事をしている、さっきまで固かった表情が少し和らいだ。

「お、なんだ、この間のドールじゃねえか」

どこからともなく、図太く大きな声が響いた。

そして僕らの方にその声の主と思われる男が

「なんだ、塞ぎ込んだって聞いたから心配したのによ元気そうじゃねえか」

誰だろう、セリアの知り合いか、

「セリア知り合い?」

「い……いぇ…」

セリアの声が先程より小さく震えていた。 

先程少し和らいだ笑顔は今まで以上に強ばり、口に運んでいた食事も、何もかも動きを止めた。

「おいおいなんだよ、一夜を共にした中だろ」

「あの、あなたは」

というか、一夜を共にしたってまさか…

「ん?あぁ俺はこのドールの元マスターだよハハ」

やはり、こいつが…

「なんだガキ、まさかお前こんなFランのドールやってんのか、バカかよ、www」

こいつが、セリアがあんなになった原因…

「もう冒険者ごっこは楽しんだか、なぁドール俺はよお前がいなくなったせいで、今ソロでやってんだわ、ちょっと付き合えよ」

そういうと男はセリアの腕を掴み、無理矢理連れて行こうとした。

アスクはとっさに手を伸ばし男の手を掴んだ

「あ、あの、彼女は僕のドールです、手を離してください」

「なんだよ、邪魔すんなどうせ最近冒険者になったばっかのひよっこだろ、手出すな、消えろ」

男は鋭い目でこちらを威嚇してきた

「だ…だとしても彼女は僕のドールです、離すことはできません」

男は苛立ちを見せながら、

「ウッゼェなこの世界は、力が全てなんだよ、テメェみたいなガキは、指咥えて見てればいいんだよ!」

そういうと、男は背中の大剣を思いっきり僕に向かって振り下ろした。

「!?」

死んだ…

と思った瞬間僕と男の間を断ち切るように、ある影が見えた。

「え、」

それは受付のお姉さんだった。

僕を庇うように、男の前に現れ、持っている片手剣で男の大剣を防いでいる。


「よかった、とっさのことで何が起こっているかよくわからなかったですが、この人そういうことですね」

「んだよ姉ちゃん邪魔すんな」

男はさらに苛立っていた。

「じゃあ、こうしましょう、今日の午後六時半、闘技場で、決闘をしてもらいます、この世界は力が全てです、なので『力』で、決めてもらいます」

「あ?なんでそんなこと」

「あなたは彼女が欲しいのでしょう、でしたら奪えばいいのでは?それとも今日冒険者になったばかりの彼に勝てる自信がないと…」

「わかったよ、やってやる、覚えておけよガキが」


そう言って男は酒場から出て行った。

「あ、ありがとうございます…どうして」

「あぁ大切なことを忘れていました、彼女の昔から付けている、装備一式を持ってきました、はい」

彼女の装備か、

「ありがとうございます、あの彼って」

なんなのだ、あの態度のでかい男は、

「彼ですか、彼はAランカーの、人でして、その彼女の元マスターです、とても怒りっぽく、女好きで」

なるほど、というか、セリアは、大丈夫なのか、

「セリア大丈夫か」

「ハァハァ……」

とても苦しそうにしている、本当に辛かったのだろう


「一回、宿に戻って、彼女を休ませます、確か六時半でしたよね、それは行くので安心してください」

「は、はい」


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「セリア、大丈夫?」

「…はい…」

どう見ても大丈夫じゃない、顔が少し青くなっていて汗もすごい、先程まで少し僕より冷たかった肌は、今では熱でも出したかのように熱くなり、体は震え、顔は絶望を表していた。

「少し寝ててね、僕はちょっと出かけているから、食べ物はしまってあるから、お腹が減っているなら、食べてね」

「…はい…」

指定されていれる時間まではまだあるが、僕はまだ武器すら持っていないのだ、買いに行かなくては…

「あ、あの…」

セリアに服を掴まれた

「あの…あの人と戦うの…?」

「まぁ、そうなるかな」

「やめといたほう…がいい…」

セリアは僕のことを心配してくれてるのだろうか、

「あの人、確かにクズ…でも腕は確か…マスターでは…」

「わかってるよ、でも何もしないで今持っているものを手放すより、出来るだけ足掻いていたほうがいいからさ」

まだ、出会って間もないけど、もう彼女はセリアは僕の仲間だ、その仲間に手を出す奴は、誰だろうと…

「わかった…でも…本当に危険だと思ったら…逃げて…」

「わかったよありがとう」

人の物に手を出した報いを受けさせてやる。

夕方六時半近くになり、この都市の中央にある闘技場…

「おぉ、逃げなかったんだな、ガキ、たくめんどくせぇ」

なんとしてでもこいつを…

「おいおい目が怖えぞハハ…まぁ、精々頑張れよ」

男は僕のことを嘲笑うように見下している、格下だと思われてるようだな、間違いじゃないけど

そろそろ始まる。


〈二人揃いましたので、決闘を開始します。勝ちによる賞品は、彼、アスクのドールです。では…スタート〉


始まった、出来るだけ足掻いてあいつを…殺す…

「おぉ、なかなか早いな」

僕は、全力で、舞台の周りを駆け回り、相手の背後から、背中を目掛け、持っている短剣を思いっきり振り下ろした。

「だが所詮ガキか…」

その振り下ろした剣は男の、腕を切った…

かに見えたが、次僕が見たものは、地面だった。

(なんで地面が)

そして僕は地面に叩きつけられた。

「はぁ、もう終わりでいいだろ、ギブアップしろ」

「嫌だ」

どうすれば良い…


その頃…


体が震えてうごない、怖い…怖い怖い…

私じゃ、あの男には勝てなかった、今から、マスターを助けに行こうとしたって、何もできたない

私を恐怖が襲う。

体を蝕むように、苦しくて、辛いものが頭の中を占領する。

あの時の、痛み…苦しみ…心が潰される…目の前が真っ暗になる。

あの後から何も感じなくなった、出てきたご飯を食べたって、何も感じない、人に傷つけられたって、苦しくも痛くもなかった、私の中で何かが吹っ切れたように、何も感じなくなった。

マスターが来た時だってそうだった、何も感じなかった…

どうせ冒険者なんて…

どうせ私なんて…

どうせあの人だって…

名前なんていらないのに…

記録に記憶に残るものなんて…

すぐに消えてしまえばいいのに…

どうせ最後は変わらないのだから…

人と話たくなかった…

会いたくなかった…

外は怖い…

苦しい…

辛い…

なのに、私は声を出せた…

ご飯がおいしいと思えた…

マスターは、私にわがままを少しぐらい言っても怒らないと言った…

そんな人そんな事初めてだった…

最初は怖かった…

怖いだけの人だった…


でも…今は…

初めて会った人だけど…だけど…

いやだから…まだ知りたいこと…話したいこと…やりたいこと…まだまだいっぱいあるから…

「マ…マスター…」

マスターのところに行かなくては…

何も出来ないけど…

何か、出来ることを…

私はそう思うと、無意識に剣を持って、外を駆けていた。


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「ハァハァ…」

くそ、全然攻撃ができない、届かない、全力で走ってもそれよりあの男の方が早くて追いつけない…

「がは⁉︎」

男が消えた、と思った瞬間、腹を蹴られ遠くまで飛ばされていた。

「そろそろギブアップしてくれよ、これ以上痛めつけても面白くない、というかどんだけやり合ってるんだよ、もう日が沈むぞ」

日が、もうそんな時間か…

「まだ、これからだよ」

「そうかよ、オラッ!」

また、思いっきり腹を蹴られ吹き飛ばされた。

くそ起き上がれない体が重い

(日が沈むまで後数分ってところか)


「マスター!」

「⁉︎っ」

この声は、セリア…起きたのか、

「…私…何も出来なかったけど…私…」

セリアは涙を堪えながら必死に言葉をつなげていた。


セリア…

ありがとう


「セリア、その持っているのは、剣?」

「ん…」

そうかよかった

「それをこっちに投げてくれないかな」

「え、わかった…」

セリアはそう言うと、舞台の方へ剣を投げ入れた

「ありがとう」

「へっ!今更何の意味があるんだ?たかが剣一本で」

アスクは剣を持つと、瞳を閉じ、動きを止めた。

「何やってんだ、ギブアップか」

「ふぅー」

アスクが動きを止めている間に太陽が完全に沈んだ。

太陽が沈み月が姿を見せた。

アスクが瞳を開くとその瞳は真紅に染まり、暗い夜の中、周りの街灯より、綺麗に強く輝いていた。

「なんだ、パワーアップってか、もういい、終わらせてやる」

そう言うと男は、剣を構えて、アスクに向かって、走り出した。

「いいや、これからだよ」


【我は、月夜に光り輝く。】


男は勢いをどんどん増していきアスクに到達する頃には、今までの攻撃の比にならないようなスピードで、アスクに切りかかった。

「死ねぇ」


その瞬間、何が起こったか、わかるものはこの場にはいなかった、男が繰り出した攻撃は、アスクに向かい貫いているはずだった。

男の攻撃により、砂埃が舞い視界が悪くなる、同時に無数の金属音…

正確には金属が砕かれる音だ…

そして砂埃が晴れ、民衆の前に現れた光景、本来倒れてると予想されたアスクは平然と立ち下を見下していた。

その目線の先には、先程まで優位であったはずの男であった。

男は気絶するかのように倒れ込んでおり、ピクリとも反応をしない。

「俺の勝ちだ…」


男は気絶し、アスクは立っていた。

アスクの勝利だ。 


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よかった勝てたみたいだ、

ギリギリ日が沈んでくれてよかった。

「マスター…」

セリアか、心配してきてくれたのだ、本当にありがたい…

「マスター…大丈夫?」

「あぁ、傷は治ってる、少し疲れたけど」

「そっか…」

「でも驚いたよ、あんなに大きな声を出せたなんて」

「マスターのおかげ…少し勇気出た…」

「そっかよかった」

僕のおかげかはわからないが、よかった、これで少しは気軽に接してくれるかな、

「おい」

セリアと話していると、先程の男がこちらにきた。

「なんだ…」

「最後のはよくわからなかったが、まぁ負けたのは事実だ、俺はそいつには手は出せない、あぁ…クソッ胸糞悪りぃ…テメェ…今度あったら殺す…」

「あぁ」

よかった、本当に、もう仲間を失わずに済んだ。

「セリア、ご飯食べよ」

「…はい」

本当に…よかった…


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今日はセリアと僕の防具を買いに来ている。

セリアの防具は昔から使っているやつがあるらしいが僕のはまだないのだ。

セリアの防具は、白をベースの色になっており、とても似合っている。

セリアの銀髪にもあっており、綺麗に整っている。

「似合ってるね、それ」

「え、あ…ありがとう…」

照れているのか、長い髪で隠しきれていないほど耳が赤くなっている、とてもかわいい

色々と防具を見回っていると、店員らしき人が話しかけてきた。

「どのようなものをお探しですか?」

迷っているように見えたのだろう、ここは専門家の声も聞くべきだろうか

「僕の防具なんですけど、出来るだけ軽く素早く動きやすいのってありますかね」

「軽くて動きやすいのですか、でしたらこちらのなどはどうでしょうか」

そう言って見せられたのは、黒をベースとして作られていて装飾の少ないやつだった

「こちら少々値が張るのですが、素材はとても良く、動きやすさもエンチャントで、軽量化と言うものがついていまして、とても動きやすいかと」

へぇ、えっといくらだ、

「一〇万…」

少し高いな、

「高いですね」

「まぁそれなりの素材を使ってますので、えっとお客様は、武器は?」

「ナイフです」

「でしたら今紹介したのが多分ですが一番いいやつですね、少し性能は落ちますが、少し下がったおねだのやつもありますよ」

「そっちも見せてもらってもいいですか」

「はい」

次に紹介されたものも黒をベースにしており、装飾が少なかった、あまり見た目に違いがなくあると言ったら、所々に赤い線があるぐらいだろうか

「性能はどのくらい落ちますか」

「先程のやつを一〇としますと八か七ぐらいになりますね」

「そのくらいなら、いくらですか?」

「えっとですねこちらは九〇〇〇ですね」

「結構安くなりますね」

対して性能が変わらないのにここまで金額が変わるものなのか?

「こちらはエンチャントがないタイプですので。」

「あぁ、なるほど」


エンチャント(付魔)

あまりできる人が少なく、一つでもついているだけでFランク級のものがCランクまで上がるほどと言われているものだ


「じゃあその安い方で」

「はいかしこまりました」

セリアは確か…

あ、いた、

「セリア、服いいのあった?」

「一応…あった」

セリアはというと、鎧は持っていたが、私服がひとつしかないというので、服を選んでいる。

「待ってて…着てくる」

「わかった」

すこしの間セリアのことを試着室の前で待っていると

「おっけ…できた」

ゆったりとした声が聞こえ、試着室のカーテンが開いた。

「ど…どう…?」

カーテンが開いた瞬間驚いた…声が出ないほど

目の前にいるセリアは、先程まで着ていた白い鎧とは正反対の黒いワンピースであった。

髪は一つに結んでおり、いつもよりよく顔が見える。

先程までの鎧は、しっかりとしていて清楚という感じが現れていたが、

今着ているワンピースはその清楚の中に少し大人っぽさが現れており先程までとは違う美しさがあった。

「あ…あの、なんか言って…」

は!見惚れて、何も言ってなかった。

「すごく似合ってると思うよ」

そう言うとセリアは少し照れたように顔を赤くして

「あ…ありがとう…」

「じゃあ、それでいい?」

「ん」

「おっけ買ってくるね」

「ありがとう…」

そのように感謝を口にした彼女の表情は昨日の初めて会った時よりも随分と柔らかい表情になっていた。

「じゃあ帰ろっか」

「はい」


翌日

「ねぇセリア」

「は、はい」

「そろそろさ」

「はい…?」

「クエスト、やってみようよ」

よくよく考えると冒険者になってから三日間いろいろあって冒険者っぽいことしてないんだよな。

「クエスト…行ってなかった…?」

「行ってないよ」

でも、セリアの能力とか聞いてないな、武器は聞いたけど。

能力によって戦い方を考えなきゃ。

「セリア、どんな能力あるの?」

「水…」

水、水を操る能力ということか?

「水で…斬撃…出す」

「水で斬撃…なるほど主に中距離の戦闘向きか」

「ん…あと身体強化…身体硬くなる」

硬質化か

「わかった、結構応用効くやつだね」

「マスターは?」

「僕は自分又は仲間への身体強化バフだね、あと武器はナイフとマスケット銃、主に外側から攻撃するよ、あと【千の鎖】って言う能力があるよ」

まぁ、まだあるけどこっちは言えないかな。

自分の能力を伝え終わるとセリアはとても不思議そうにこちらを見てきた。

「ん?どうした?」

「千の鎖…聞いたことない…」

「あぁ、それね今度戦ってる時に見せてあげるよ」

「ん…」

セリアは納得してくれたようだ。

だが今日は残念ながら雨が降っているため、あまり外には出ない方が良さそうだな。

「クエストは明日だね」

「ん…」


その日の夜

もうこんな時間か、そろそろ寝るか。

時間はすぐ過ぎていき普通ならもう眠っている時間になってしまっていた。

セリアも寝たか、

セリアは、流石に夜の男は怖いと思うので違う部屋で寝ている。

雨は昼間と同様にそれなりの雨が降っている。

「明日は晴れるといいんだけど」


「コンコンッ」

ドアを叩く音がした。

この部屋に来るのはセリアぐらいだがこんな時間にどうしたのだろう。

「はい!」

やはりドアが開き出てきたのはセリアだった。

「どうした?」

「雨…怖い…あいつが来る」

あいつとは誰なのだろう、

わからないが、雨の日を怖がっているのは間違いないな。

「一緒に…寝て…」

一人でいるのが怖いと言うことなのだろうか。

「大丈夫?僕は男だよ?」

雨が怖いのはわかったが、男も怖いはずだ。

それが僕にそんなことを頼むとは、よほど怖いのだろうか。

「うんん、大丈夫、マスター…におい変」

なぜ今バカにされたのだろう

「他のと違う…大丈夫」

そうか、心を開いてくれてはいるのか…?

僕に対して安心してくれているのか…

それはよかった。

「わかったよ、こっちおいで」

そうして、僕はセリアと一つのベットで二人で寝ることになった。

背中の方から少し暖かさがある、僕より少し小さい女の子なのに、普通じゃありえないような震え方をして、怯えている。

やはりまだ男に抵抗があるのではないか、僕はセリアの力になれているだろうか、彼女の恐怖が消えることはない、どんなに彼女が強くなっても、怖いものは怖いのだから。

「マスター…」

「ん?」

セリアが背中の方から話しかけてきた。

「私…マスター…結構好き…」

その言葉には、少し柔らかさがあった。

まるで子供が夢を語るような、儚さもあった。

「そうか、ありがとう」

「でもまだ…怖い…男の人も…あの日のような雨の日も…」

といいセリアは僕の背中に抱き付いた

背中から来る振動と鼻をすするような音

「雨の日…とても強くて…外を歩いている人なんて一人もいなかった…窓から…外を見ても…雨と雲だけだった…」

セリアはそう言って昔の雨の日の話を始めた。


まだ私が、お母さんといた時、その日は雨なのに、お母さんが仕事があるんだって言って外に出ていた。

いつも仕事から帰ってくる時はお母さん、笑って楽しそうにしてるから、

今日も笑って帰ってくると思ってた。

いつも通りのただの雨の日、

でも少し違ったんだ、

その日は警報が鳴ってたの、

でも私は外に出たことがなかったからなんなのかわからなかった。

それでドアがコンコンって音がしたからお母さんだと思ってドアを思いっきり開いたんだ、

でもそこには誰もいなかった。

お母さんも誰も。

何も、

いつもある廊下も、

階段も、

トイレの扉も、

なにもなかった、

あったのはただの真っ黒何もない黒だけがずっとあった。

でもお母さんが呼んでる声がしたの、だからその声に向かって走っていった、

思いっきり、

ずっと「お母さん、お母さん…」って、

でも何もなかった、

あったのはやっぱり黒だけだった、

だから部屋に戻ったんだ。

そしたらね、

お母さんがいたの、

いすにすわってたの、

でもその日だけとてもたのしそうじゃなかったの、

お母さんにどうしたの?

大丈夫?って聞いても返事しなかったの、

全然動きもしなかったの、

お母さんはね、

雨の中外にいたのに全然濡れてなかったの、

傘をさしても濡れるような雨だったのに…

まるでずっと室内にいたかのように…

まるでずっとそこにいたかのように…

そのあと初めて聞いたんだ、

人が亡くなったって、

お母さんが亡くなったって、

雨の日

またあの扉の先の黒い部屋がありそうで、

そこに行ったらまた誰かいなくなりそうで怖いんだ。

もう何も失いたくないのに。


「だから…雨の日は…日にちはわからないからお母さんが亡くなった日なんだ…だから怖くてさ…マスターは…いなくならないよね」

雨の日が怖い理由、雨の日に親が、唯一の家族が死んだから。

「大丈夫だよ、いなくならない」

「うん…ありがとう…」

泣き止んだのかセリアの鼻をすする音が聞こえなくなり、ゆっくりとした寝息が聞こえ始めた。

だが…彼女の言った言葉が頭に残る…

…あいつが来る…

「気のせい…だよな」


また翌日

今日は初めてクエストだ。

なんだか急に緊張してきた。

「セリア昨日は大丈夫だった?」

「ん、マスターの…おかげで」

「よかった」

なら何よりだ

昨日の話は少し心に残るが、今考えていても仕方ない。

「よしセリア、クエスト、行こっか」

「はい」


初クエスト、それは、スライム討伐だ。

スライムを倒した時に出る魔石を冒険者ギルドに換金すればクエスト終了だ。

はじめてのクエスト…

スライムまだ見たことないけど、小さい魔物だと聞いた、それなら

「マスター…目がキラキラしてる…」

おっと、たのしみなのがかおに出てしまった。

「もうすこし…スライムいる」

街からそれなりに離れた草原、建物は近くにはないし、人通りもない、

「よし、やるか」

腰の短剣に手をやり、構えを取った。

その瞬間、近くの茂みが揺れ、音を立てた。

「あそこだ」

咄嗟に足に力を込め、勢いよく走り出し、茂みに向かってナイフを突き立てた。

驚いたかのようにスライムが飛び出してきた。

だが、避けられるわけもなく、スライムは真上から降ってきたナイフによって串刺しになった。

ナイフに刺され、体が一蹴にして塵になり、消えていった。

「やった、ん、これが魔石か?」

先ほどまでスライムがいた場所には青く光る小さな宝石のようなものがあった。

はじめてみる小さな魔石に心を躍らせた。

「すごいな、僕冒険者になったんだな。」

「次…きた」

「え、もう」

スライムは次々に出てくる、一体倒してもまた一体と増えていき、十分後ぐらいにはもう五十体くらい倒していた。

「スライムってこんなに多いの?」

「いつもはもっと…」

「え、多いの⁉︎」

「いや…少ない」

なんだ、他の冒険者はこれ以上の苦労を初めの頃していたのかと思った。

「これぐらい…倒せばクエスト…大丈夫」

そうか、すこし疲れたな。

そういえばもう正午か、帰ったら昼だな。

「じゃあ一回帰ろ」

「ん…」

初めてのクエストで初めての報酬、昼を食べるくらいにはお金が入るといいんだけど…

ギルドに戻ってくると、いつも以上に賑やかだった。

「何かあるんですか?」

今話しているのはカーミーさん僕の担当さんらしい、最初ギルドに来た時に受付をしてくれた人だ。

「あれはですね、来週ある祭りで盛り上がってるんです、」

「祭りですか」

「はい、この国名物のケンカ祭りです」

ケンカ祭り、物騒な名前だな

「名前の通り武器を使用せず、拳で殴り合いをする祭りです、祭りは前夜祭、当日祭、後夜祭と三日間あり、当日祭がケンカの日となっております」

へぇ、初めて聞いたな、ん?

「前夜祭と後夜祭は何をするんですか?」

「前夜祭は街中に屋台を出したりして、参加者を盛り上げ応援する祭りです、後夜祭は優勝者、準優勝者、準々優勝者の表彰です、後夜祭は前夜祭とは違い、しっかりとドレスコードを着用することを義務付けられています。」

「そうなんですね、楽しそうです、」

前夜祭の屋台とか楽しそうだな、来週か、セリアそういうの大丈夫かな?

「セリアさんは前々回結構いいところまで行ってましたよね」

「え⁉︎」

「なんでそんな驚く?」

不思議そうに彼女がこちらを見つめてきた。

「いやあまりそういうのに出てる印象がなくてね」

「マスター…出る?」

どうするか、楽しそうではあるが、

「僕は、あまり力はないし、やめておくよ、セリアは出るの?」

「ううん…今回は出ない」

「そっか、じゃあ、前夜祭と後夜祭一緒にまわる?」

「うん…わかった」

よかったぁ断られなくて、

「マスター…ドレスコード持ってる?」

「ん?持ってないよ、セリアは?」

「ん…私も持ってない」

そっか、だが今回のためだけに買うのもなぁ、

「ドレスコードなら貸出してますよ」

「本当ですか、よかった」

じゃあ来週までにお金貯めなきゃな、クエストいっぱいやるか、

「よし、食べたらまたクエスト行こう」

「ん、」

「でしたら、今大量発生している陽狼、という魔物の討伐依頼があるのですが、どうですか?」

「陽浪ですか…」

陽狼、聞いた話によれば、素早く俊敏な動きと大きな口に備わった鋭い牙、あと鋭い爪で攻撃してくるらしい、対象ランクはD俺にはすこし早いがセリアがいるから大丈夫、だそうだ。

「確か、ここだったよな」

先ほど聞いた、発生地がこの森なのだ、良く言えば自然がそのまま生い茂り、綺麗な森だ、悪く言えば、木々の根などにより足場が悪く、戦闘には向かないような場所だ。

「マスター…この前言ってた…鎖見せて」

「あぁ、まだ見せてなかったね、ちょっと待って、」

そういうと、僕はしゃがみ込み地面に手を当て、目を閉じた。

【千の鎖】

そう呟くと、地面が僕が中心となった円状に光って行くそれなりの大きさまで広がると次にその光の中から無数の先が短いナイフのようになっている鎖が現れた、その鎖は生きているかのように動き、急に止まり、また動き出した。

「こんな感じかな?」

僕が地面から手を離すと、円状の光が消え、鎖がなくなって行く。

「僕が地面にあのように手を当てている間は鎖が現れ、手を離すとなくなる、鎖一本一本が僕の意思で動いている、ってところかな説明は」

ふと、セリアの方に目をやると、

「すごい…」

「お褒めに預かり光栄だよ」

「あれなら…クエスト…簡単」

そうか、鎖があんなにあるのだ、陽狼を倒すのも簡単かもしれないな。

「マスター…やってみて」

「わ、わかった」

今回はさっきよりも集中して…

【千の鎖】

円状の光から現れた、鎖が先ほどより早く、繊細に森の中を駆け巡る。

「見つけた!」

千の鎖を発動中は、鎖の周りのものが感じ取れるようになる、それにより見つけ出した、陽狼の群れ、数にして、十三ってところだな、

一気にいく、

鎖が、陽狼をとらえ、胴を貫いた。

かに見えた、なんでだ、攻撃した感覚がない、というかさっきまで鎖の近くにいた陽狼はどこだ、見当たらない。

それになんだ、前にある大きなかべのようなものは、いや、壁にしては柔らかすぎる、だがなんだこれ、陽狼でもない、他の魔物?この大きさ、他に感じられるものは、⁉︎

いやおかしい、こんなところにいるはずがない、いやでも、他にありえない、早くこの距離では、クソッ、

早く鎖を解かないと。

すぐに目を地面から離し顔を上げセリアに向かって

「今すぐ、逃げるぞ、後ろに走れ!」

「え…」

セリアは混乱しているようだ、無理もない急に叫ばれ、走らされているのだから、

「どうしたのですか、何かいたのですか?」

「ランクにしてAA級、オーガの上位種、鬼人、ニ体、俺らでは勝てな…」

セリアに見たものを説明しながら逃げていた、とはいえそれなりに逃げたはずなのに、なんで、

目の前には、太刀と思われる巨大な刀を携えた、鬼人が現れた。

次の瞬間、鬼人は拳を前に突き出すようにして、こちらに拳を突き出した…

反応できるはずもない、避ける隙もなく、僕は吹き飛ばされ後ろの木に背中を打った。

「ガッーーーーーーーーー」

そこからどのくらい気を失っていたかわからない、気づいた時にはセリアが僕を抱え、走っていた。

「セリ…ア?」

「マスター…気づいた」

「セリア、どのくらい経った」

「まだ…数秒…」

そうかよかった、何分とか経ってないだけマシだな、

鬼人はどこに行った、気配が強すぎてあまり感知しづらい、

「⁉︎ーーマスター…囲まれてる」

「⁉︎本当か、どこから」

「右前方、左後方…それぞれ…一体」

合計ニ体、逃げる事は…

無理か、

しょうがない、

「セリア」

「ん?」

「十五いや、十秒耐えてくれ」

「ん…」

鬼人はセリアが対応してくれてるとして、問題は魔力量だな、持って六いや五発だな、無駄撃ちはできない、考えろ、どうやってあの速さの鬼人に当てる…


セリアはアスクと一度分かれてから一番近くの右前方の一体に飛び込み、切りかかった、セリアの一撃は鬼人の胸にかすったが…

「致命傷…じゃない」

鬼人は怯むどころか先ほどよりも力強く腕を振り下ろした。

セリアは咄嗟に反応するが、反応が遅れたのか、左腕にかすった、

(かすっただけで…力入んない…)

鬼人の拳とセリアの剣が打ち合い、時間にしてほんの数秒だが、セリアにとっては何十分にも感じられた、鬼人が振り下ろす拳にセリアが瞬時に反応し弾く、弾いた側からまた拳が飛んでくる、それをまた弾く、二回か三回ほどの打ち合いだというのにセリアの腕や足、全身にわたって軋みはじめ、地面や木々は打ち合いの衝撃によりえぐれていた。

またセリアを目掛け鬼人の拳が降りかかってきた、

かろうじて避けることができたが木々の根や先ほどまでの先頭により足場が悪くなってたためか、セリアは足を持っていかれた。

その隙を鬼人が見逃す訳がなく次はセリアの脳天を目掛け拳が落ちて行き、

その瞬間

「セリアー動くな」

「ッーー」

アスクの声がした瞬間銃声らしい音が森の中に鳴り響き、

目の前の脳に降り注いでいたはずの鬼人の拳が肩の部分からなくなっていた。

「グァ〜〜〜〜〜」

鬼人の重低音の唸り声がなり、空から赤い雨が降り注いでいる。

「セリア!大丈夫?」

アスクがセリアの肩を掴みすぐさま鬼人と距離をとった。


「マスター…今のは」

腕の中にいるセリアは先ほどの血飛沫により白い服が赤く染まっている。

「ごめん、汚れちゃってって、どうしたのその腕」

「あぁ…さっき…すこしかすった…でも…大丈夫」

「…そっか、まぁ無事ならよかった、本当ごめんね、すこし待ってて…あいつら殺す」

すこし怖くこの前の決闘の時みたいな暗く恐怖を膨らませたような表情をしている。

マスターは無表情のまま突っ込んできた鬼人にマスケット銃の銃口を向け、脳天を吹き飛ばした。

「え…」

「後、一か…」

マスターはそういうと一体の鬼人に駆け寄り、持っているマスケット銃の銃口を脳天に向け、

「マスター…?」

瞬きの隙もなく銃声が耳まで届き、鬼人の頭がなくなっていた。

マスターが特段に俊敏になったわけではない、身のこなしが良くなったわけではない、決定的に違うのはあの武器だ。

あのマスケット銃、鬼人を一撃で…

「ふぅ…セリア、怪我大丈夫?帰ろっか」

いつもと同じ変わらない優しい顔のマスターがそこにいた。

「ん…」

マスターは、彼は何者なのだろう…


鬼人襲撃から数十分たち、街に戻ってきていた僕たちは鬼人から出てきた魔石やドロップ品をギルドへ換金しに行っていた。

「カ〜ミ〜さん〜」

僕が少し弱ったような声でカーミーさんを呼ぶとこちらを見て驚いたように向かってきた。

「ど、どうしたんですか⁉︎」

「その…実は」

一度席につき先ほど起こったことを話しはじめた。


「なるほど、鬼人…ですか。」

「はい、こんな街の近くに出るもんなんですか?」

「…いえ、この街は鬼人の生息地とはかけ離れてます、何日もかかりますが自力で来れないわけでないです、でも鬼人が自らの地から出るとは考えられません、あるいは…いいえ、今ここで考えても仕方ないです、後で上の方と話し合います。」

まぁ、よかった、ということかな、

(はぁ疲れた)

「それより!」

「⁉︎えっとどうしました?」

「どうやったんですか?鬼人はAA級に匹敵します、セリアさんでもまず勝てません、なのに二体もどうやって?」

あぁ、そのことか

「私も…聞きたい…あの武器何?」

「そうですよ、後あの決闘の時の力とか、教えてください」

セリアとカーミーさんが迫ってきた。

(美女二人に迫られていい気はするが)

「わ、わかりました説明しますから、落ち着いてください」

二人を落ち着かせ、僕はこの武器と、自分について話しはじめた。


「そうですね…少し昔話をしましょう。

「僕がまだ五歳の頃でしたかね、僕は孤児だったんです、親を早くに亡くし親戚もいなく、引き取ってくれる場所がありませんでした。

「ん?それが何か関係あるかって?まぁ焦らないでください、僕には一人、兄がいました、とても優しく僕が困ってたら真っ先に駆けつけて助けてくれるような大好きな兄が、兄は僕と六歳差があり、両親が亡くなった後僕を養うためにまだ十一歳でありながら朝から晩まで働き続けいつも疲れているようでした。

「そんなある日兄が突然休みになったから美味しいものを食べに行こうと言って僕を街中に連れ出したんです、急でしたが僕は大いに喜びました。

「その日はご飯を食べた後兄と久々に思いっきり遊びました。

「おもちゃ屋に行って今で買ったこともなかったような大きいおもちゃを買ったり、お菓子をいっぱい買ったり、兄とずっと二人で遊びました。

「その次の日も、また次の日も遊びました、三日間遊び続け、その日の夜兄は僕の頭に手をして

「楽しかったな…お前は、これよりも楽しいことをこれからいっぱいするんだぞ」

「と言って僕を抱きしめ、そのまま動かなくなりました。

「兄は病気だったそうです、僕は三日三晩泣き続けました、大好きだった兄が突然いなくなり、混乱して、

「一人になっていた僕を教会が引き取りました。

「教会の孤児の子供たちと遊んで、一緒にいたら少し気持ちが楽になりました。

「ですが、兄がもういないという事を少しづつ実感してきて、毎晩泣きじゃくりました、教会でできた友達と一緒に遊んでも、何か物足りない気がして全力で楽しめなかったんです。

「僕が教会に来てから二年ほど経ったある日、僕はある女性の養子となりました。その女性はとても綺麗で子供でありながら見惚れてしまうほどに

「その女性は僕に色々なことを教えてくれた、字の書き方や計算の仕方、魔法の使い方までも教えてくれた。

「まるで本当の母かのように、接してくれ、学校にも通わせてくれて、毎日美味しいご飯もくれた。

「その女性は僕の母でありながら、僕の師匠でもありました。

「彼女は冒険者だったそうです、毎日のようにどの国を冒険して、どんな魔物と戦って、どんな人たちにあったか、

「とても楽しそうに話してくれました、だから僕も冒険者に憧れました、

「御伽噺の勇者や英雄に憧れました、

「そしてある日、国を守る八人の英雄の話を聞きました。

「この大陸、【カラアボア】を守る八人、

民の近くにいて民を守る

【ホワイトシリーズ】

【聖人】

【刀鍛冶】

【白牧師】

【聖女】

王、いわゆるこの大陸の四つの国を治める四人の魔王を守る

【ブラックシリーズ】

【魔人】

【狂鍛治】

【黒牧師】

【魔女】

「この八人の英雄の話がとても好きでした。

「毎日のように話してもらいました。

「でもある日彼女はその話をしなくなりました。

「その時、彼女が教えてくれた、能力、英雄に近づくための、憧れに手を伸ばすための魔法それがあの能力

【我は月夜に光り輝く】

「です、一時的に、夜間だけ、力を増大させるというものです、

「それとあの銃、僕は、魔法の才能がありませんでした、スキルも【我は月夜に光り輝く】と【千の鎖】以外には使えませんでした、

「それをみかねて、彼女が作ってくれたのが、あの武器です、魔力を銃に込めて放つ、しかし使用時の魔力消費量が多すぎて、あまり連発できないですが


「これが、僕の過去と、能力についてです。」

「英雄に憧れた…」

「そう、英雄に憧れ、力が欲しくて、冒険者に」

英雄に憧れ、冒険者になりました、あなたは、どうしてしまったのですか………………………………………………………………魔王様…………








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【君と月夜は光り輝く】 みたらし団子 @Lggfdtffudogxhcjci

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