第46話 文化祭、そして紹介

 ――文化祭当日。


 俺たちのクラスは朝早くから学校に来て、最後の予行練習をしていた。

 お客さん役は俺の友人であり、クラス委員長の吉田祐介よしだゆうすけがいつも通りやり、最後の評価と皆がやる気を出せるような言葉を言うことになっている。


 ちなみに俺は外で案内をする役なため、別に気合いを入れたところで何も変わらない。

 ただ案内をするだけだし、いい感じに回るように考えればいいだけだ。


「うん、すごく良くなったね。皆今までよく頑張ってくれた。今日は精一杯お客さんに楽しんでもらえるように頑張ろう!」


「「「おーーー!!」」」



 文化祭が始まるのは午前九時半。


 俺のシフトは午前中だから、午後は色々なクラスを回って楽しむことが出来る。

 そして同じく午前中でシフトが終わる、好きな人である柊木瑞希ひいらぎみずきと幼馴染である桃井美羽ももいみはね、吉田の四人で午後は文化祭を楽しむことになっている。


 しかし、恋人がいる吉田に文化祭くらい彼女と楽しめと言ったのだが、大丈夫だと言われた。

 最近喧嘩でもしたのかと心配になったが、「喧嘩なんてした事ないから」らしい(それはそれですごいな……)。


 折角の文化祭なのに、彼女と回らないってのはどうかと思うが……

 咲華さいかさんはそれでいいのだろうか……



 何事もなく無事にシフトを終えて、俺たちは自由の身となった。

 あとの時間は、何も気にすることなく文化祭を楽しむことが出来る。

 すごく楽しみだ。


「ね〜ね〜! まずはどこ行く!?」


 お化け屋敷ではお化けとして活躍していた美羽が、テンションを上げて話しかけてくる。

 一緒にいる柊木さんと吉田も、美羽と同じくテンションが高い。


「そうね……ちょうどお昼だし、まずはお昼ご飯でもどうかしら!」


「賛成!」


「……えっと、その前にちょっといいかな?」


 美羽と柊木さんでどのクラスが何をやっているか書かれてあるマップを見ながら、どこに行くかを決めている最中、吉田が突然ストップをかけた。


「え? どうしたの?」


「皆に紹介したい人がいるんだ」


 誰? 誰? と、美羽と柊木さんは頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 しかし俺は吉田が紹介したい人が誰なのか、一瞬にして分かった。

 その人はきっと、吉田の彼女である咲華花恋さいかかれんだろう。


 どうして皆にこのタイミングで紹介するのかは分からない。

 元々付き合っていることを隠しているし、ずっと紹介しなくてもいいはずなのに。


「名前くらいは知ってると思うけど……こちら、僕の彼女の――」


「咲華花恋です。よろしくお願いします」


 文化祭で学校中が盛り上がっている中、俺たちは吉田に連れられて屋上に来ていた。

 屋上に着くと、案の定待っていたのは咲華さんだった。


「うわぁ〜! 実物だと写真より断然可愛いね〜! 私、桃井美羽! よろしくね!」


「柊木瑞希です。よろしく」


 咲華さんは背がとても小さく、美羽と比べても10cmくらいは小さい。

 そんな一目見て分かる可憐な姿に、女子ですら可愛いと思ってしまうのは無理もないだろう。


九条くじょうくんは一応既に知り合いだからいいんだけど、今日は花恋とも一緒に回りたいんだよね……いいかな?」


 なるほど、そういうことだったのか…………ん?

 なんかすごい視線を感じるんだが……?


はる……?」


「九条くん……?」


 恐る恐る視線を感じる方に目を向けると、美羽と柊木さんは目を細めて怒りを露にしている。

 いや、どうして二人とも俺のこと睨んでるの!?


 そして何故かその光景を見て、咲華さんはふふっと笑って悪い顔をしている。


「ふふっ……面白い」


「……そう?」


「うん。見ているだけですごく面白い」


「だよねー。めっちゃ分かる」


 おい、そこのバカップル!

 面白そうに見てないで助けてくれよ!

 なんかこの二人、すごく怖いんだけど!?



 結局、五人で文化祭を回ることに決まったのだが、全然楽しめなかった。

 その理由は、女子三人の間で不穏な空気が流れていたから……ではなく、


「ちょっとそこの可愛い女の子たち! そんな冴えない男たちなんてやめて、俺たちと遊ぼうよ!」


「キャーー!! すごいイケメン! 今日は私たちと楽しもうよ!」


 俺以外の四人へのナンパがしつこかったからである。

 二年生の中で最も人気を集めている人たちがここに集結しているのだから、それは無理もないとは思うが……


 人の多さが半端じゃない。

 この学校の在校生である男女と他の学校の男女、そして近くに住んでいる人たちが一斉に押してくるため、楽しむことなど絶対に出来るはずがないのだ。


「はぁ……疲れた」


「なんであんなに一斉に向かってくるのかな〜? こんなんじゃ折角の文化祭なのに、全然楽しめないよ〜!」


「そうよね。逃げられたから良かったけど……」


 結局俺たちはまた元いた屋上に戻ってきた。

 幸い誰にも見つからず屋上に辿り着くことが出来たため、追っ手は来ていないが、これでは文化祭を楽しむことなど不可能である。


「お前らが人気すぎなんだよ……」


 このままでは昼飯を買いに行くことも出来ない。

 それで昼飯を食べずにいると、空腹で死んじゃう。

 ……ということで、別に人気者でもない俺が五人分の昼飯をどこかで買ってこなければならなくなったのだった。


 ……くそう! なんか悔しい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る