第45話 文化祭準備

 俺たちのクラスは文化祭の出し物として、お化け屋敷をやることに決まった。


 クラスの皆はカップルを怖がらせてやると躍起になっているが、それはむしろカップルを楽しませることになる気がする(言わないでおこう)。

 彼氏を怖がらせて、彼女が「頼りない彼氏は嫌だ!」と言って破局させるのを狙っているらしいが、絶対そうはならないだろう。


九条くじょうくん、暇ならこっち手伝って!」


「……わかった」


 文化祭の準備と言っても、男子からは目の敵にされている俺が率先して取り組むことはできない。

 かといって女子を手伝おうとすると、幼馴染である桃井美羽ももいみはねが邪魔をしてくる。


 そのため、クラスの隅で皆が頑張っている姿を見ていると、突然段ボールで何か大きな物を作っている女子たちに遠くから話しかけられた。

 また美羽が邪魔してくるかと思って周りを探すが、美羽の姿はどこにもない。


「何を作ってるんだ?」


「通路に置く予定のトンネルだよー」


「そうなのか」


 このトンネルを作っている女子は合計四人。

 果たして、俺が手伝う必要なんてあるのだろうか。


「九条くん! 背筋伸ばしてここに立って!」


「は、はぁ……?」


 訳がわからないが、女子四人が立っている中心に来いと催促してくる。

 女子に囲まれるのは何か嫌な予感しかしないが、来いと言われている以上、行かなければならない。


「へー、九条くんって結構背高いんだ!」


「……そうかな?」


「うんうん!」


 猫背なせいで背が高いように見えないのは分かっていたが、そこまで驚かれるとは思わなかった。


「……で、俺は何をすればいいんだ?」


 女子四人に囲まれており、そのことに気づいた男子たちが俺のことを睨んでいるため、なるべく早く終わらせたいのだ。

 それにこの状況を美羽に見られると、また面倒くさいことになるだろうし。


「あ、ちょっと待ってね……」


 そう言って床に置いてあった段ボールを手に取り、俺の背中に立てかけた。

 恐らく、トンネルの高さをどれくらいにすればいいのか分からなくて、俺を呼んだのだろう。


「じゃあ次は中腰になって」


「はいはい」


 俺の身長と中腰になった時の高さは線で段ボールに記録され、「ありがとう!」の一言とともに役目は終わり、女子たちは他の男子のもとに走っていった。


 俺だけでなく、他の男子の中腰のデータも欲しいのだろう。

 クラスの男子の中腰の高さを平均して、トンネルの高さを決定するということなのだと思う。


 最後の最後まで美羽が教室に戻ってくることはなく、さっきの状況を見られずに済んだため、胸を撫で下ろした。



 ――約三週間後。


 俺たちのクラスがやるお化け屋敷は、あと少しで完成しようとしていた。

 俺が手伝ったトンネルも既に完成し、あとは暗さの調節や何度か予行練習をすれば、あとは本番まで待つのみとなる。


「暗さの調節終わったぞ! 吉田! 早く練習しようぜ!」


「そうだね……じゃあお客さんの役は僕がやるから、皆は定位置についてくれる?」


「「「了解!」」」


 ちなみに俺は外で案内をする役で、美羽と柊木ひいらぎさんはお化け役だ。

 中がどんな構造になっているのかはよく分からないが、お化け役の人たちの格好を見るからにかなり本格的になっていると思う。


「いやー、どんな出来になってるんだろう。緊張するな……」


「皆頑張ってたし、きっとよく出来てると思うぞ」


 皆が定位置についている間、外で待っている俺と吉田。

 最近四人で集まれていなかったからか、ちゃんと話すのは久しぶりな気がする。


「……そういえば、九条くんは花恋かれんと仲良くなったんだってね。嬉しいよ」


 ‴花恋‴とは、吉田の彼女である咲華花恋さいかかれんのことだろう。


「彼氏のくせに、彼女が他の男子と仲良くしてて嬉しいって思うか? 普通」


「思わないだろうね……でも九条くんは好きな人がいるし、花恋のことは好きにならないでしょ?」


「まぁ、そりゃあな」


「だったらいいんだよ。花恋は可愛いから、仲良くなればすぐ男子は虜になっちゃうだろうけど、絶対に花恋のことを好きにならない人なら、仲良くしてても僕は許せる」


 こいつまじか……

 普通の人だったら、彼氏彼女が他の異性と仲良くしていたら絶対に嫌なはずなのに。


 俺だって好きな人が他の男子と仲良くしていたら、絶対に嫌になる。

 それで束縛するのもどうかとは思うが、極力男子とは仲良くして欲しくないと思うのは確かだ。


 でも俺の好きな人は‴冷酷姫‴で有名な柊木さんだから、異性と仲良くすることなんてほとんどないだろうが。


「吉田くん! 準備出来たから入ってきていいよー」


「うん、わかった!」


 そうして、その後吉田は何も言わずに、お化け屋敷と化した教室に入っていった。


 十分もかからずに吉田は教室から出てきた。

 吉田が出てきてからすぐに、クラスメイトも続々と教室から出てくる。


 やがて皆が廊下に出て吉田に詰め寄っているが、俺は黙ってそれを遠くから見ていた。

 なぜかというと、絶対に巻き込まれたくないからである。


「なぁ! どうだった!?」


「上手く出来てたかな?」


「み、皆落ち着いて! ちゃんと感想言うから!」


 吉田の一言で、騒いでいた皆は静まり返る。

 そして記念すべき初めてのお化け屋敷の評価は……


「ふぅ……とりあえず簡潔にまとめると、怖かったし楽しかった。すごく良かったよ」


「「「やったぁぁぁあああ!!!」」」


 廊下にいる全員がガッツポーズをして喜んでいる。

 今まで皆で協力し、頑張って準備を進め、ようやく完成したのだから当然だろう。


「……でもまだ動きがぎこちなかったりで上手く回っていないところもあったから、そこはこれからの練習で慣れていこう」


「「「おう!」」」


 これから約一週間後には文化祭本番だ。

 それまで毎日、より良くなるように練習を重ね、待ちに待った文化祭当日となった――

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