第42話 幼馴染の気遣い

 夏祭りで起きた事件以来、電話やメールを使って話すことはあっても、会って遊ぶということは一度もしていない。


 それは俺と好きな人である柊木瑞希ひいらぎみずきの二人だけでなく、友人である吉田祐介よしだゆうすけも例外ではない。

 しかし、幼馴染である桃井美羽ももいみはねはほぼ毎日のように俺の家に遊びに来ている。


 夏休み前には、この四人で海や花火大会に行こうと話していたが、それは全て行かないことに決まった。


 俺と柊木さんが二人で夏祭りに行った日、柊木さんが男二人組にさらわれかけた。

 それが全ての原因である。


 このことはニュースにはならなくてあまり知られていないが、俺たち四人の間で秘密として情報を共有した。

 そして出した結果が、‴夏休みの間はこの四人でどこにも行かない‴だ。


 柊木さんは申し訳ないとか色々言っていたが、またこんな目に遭ったら立ち直れないだろうから、ということで、家で安静にしているようにと吉田に釘を刺されたのだった。


 今では心身の状態は安定しているが、あの夏祭りの日の後日なんかはかなり酷い状態だった。

 俺だけでは不安だったため、女子である美羽とともに柊木さんの家にお見舞いに行ったのだが、一人にして欲しいの一点張りで、目を見て話すことは出来なかった。


 その後も欠かさず毎日のように通い、なんとか今では会話をして楽しめるくらいまで回復した。

 カウンセリングなんかも定期的に行われていたらしく、時間はかかったものの元気になってくれて本当に良かったと思う。


 今日は八月二十五日。

 夏休みが終わるまで約一週間だが、実のところ一切宿題をやっていない。

 俺も俺で柊木さんが攫われかけた原因が自分にあると思ってたし、宿題をやる気が全く起きなかったのだ。


 美羽が家に来てくれていたのも、きっと俺を励ますためだったのだろう。


『大丈夫だよ。はるが思い詰める必要なんてない』


『元気出して。柊木さんだってきっと晴のせいなんかじゃないって思ってるから』


『大丈夫……大丈夫……』


 このように色々な言葉をかけてくれた。


 俺が柊木さんの家に行ってやった事といえば、ただ「ごめん……」と謝っていただけで、ほとんど何もしていない。

 柊木さんが更生したのも、ほとんどが美羽のお陰だと思う。


 美羽は柊木さんだけでなく、俺にも気遣ってくれていた。


 すごく大変だったと思う。

 あの夏祭りの日から約三週間、ずっと一人(たまに吉田もいたが)で二人を励ましていたのだから。


 皆と遊びたいと思う気持ちを押し殺して、俺たちを更生させるために尽力してくれた。

 皆でまた仲良くできるように。

 そして、他愛もない話で面白おかしく笑えるように。


 そんな美羽には感謝しかない。

 今度何かお礼しなきゃな……



「……美羽、何か欲しい物あるか?」


 頭の中でどんなことをすれば喜ばれるのか考えて結論を出してから、最近ではかなりの頻度で家にやって来る美羽に聞くと、意外な答えが返ってきた。


「う〜ん……特にないけど、どうしたの?」


「今回の件で色々とお世話になったし、何かお礼させて欲しいなって思ってさ」


「なるほどね〜」


 それからしばらく、悩んでいるのか手を顎に当てて「そうだな〜……」と呟いている。


「決めた! 晴! なんでもいいの?」


「あ、ああ……すごく高い物は無理だけど、ある程度のなら、な」


 さすがに超高額な物を強請ねだってくるとは思わないが、「なんでもいいの?」と聞かれて「うん」と答えてしまうと、本当に超高額な物だった場合に困る。

 そのためこういう時は、注意しなければならない。


「じゃあさ! 夏休み最終日、一緒にプール行こ! あ、もちろん二人で」


 予想外だった。

 答えてきたのは欲しい物ではなく、二人で一緒にどこかに行くということ。


 でも、さすがにそれは‴無理な‴お願いだった。


「ごめん……二人では無理かも」


 だって俺は…………


「大丈夫だよ。‴私は攫われたりなんてしないから‴」


「……え?」


「そもそもプールなら人目が多いだろうし、晴とずっと一緒にいれば問題ないでしょ?」


 柊木さんが攫われた時は俺がトイレに行っている時だ。さすがにトイレは……


「トイレも一緒に行けばいいしね」


「トイレは一人でさせてー!!」


 結局、その後美羽に押し切られ、夏休み最終日に二人でプールに行くことになった。


 そして久しぶりに家に帰ってきた父さんにそのことを話すと、「そうか。楽しんでこい」と言われた。

 また同じ目に遭ったらと考えるとやはり不安だが、また同じ目に遭わないためにも、美羽のことを注視しようと心に決めたのだった。

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