第41話 好きな人と夏祭り ②

 俺と好きな人である柊木瑞希ひいらぎみずきは今日、二人で一緒に夏祭りに来ていた。


 しかし、ほんの少しの間トイレに行って彼女を一人きりにしたせいで、事件が起こった。

 待っていると言っていた場所には彼女の姿はなく、彼女が身につけていた水色の髪飾りが地面に落ちていた。


 彼女はナンパされた男に付いて行ったのではなく、俺との夏祭りが楽しくなかったのでもない。

 ‴誰かに強引に連れて行かれた‴に違いない。



 そう思い、ある人物に電話をかけた。


「もしもし、晴也はるやだけど――――」



※※※



 誰かに連れて行かれたとしても、俺があの場所を離れていた時間は五分にも満たない。

 そのため、そう遠くまでは行っていないはずだ。


 とりあえず神社から出て、柊木さんを早く探さないと……!


 もし本当に誰かに連れて行かれたのだとしたら、少しの時間も無駄にできない。


「くっそ……! どうして気づけなかったんだ!!」


 あんな短時間で連れて行かれたということは、‴ずっと狙われていた‴ということだ。

 そのため‴ずっと尾行されていた‴ということになる。

 人で溢れている通路を強引に突破しながら、そんな自分に腹が立つ。


 どこだ……どこにいるんだ……!


「この周りで人気ひとけがない場所といえば……」


 夏祭りということもあって、今はどこも人がたくさんいるだろう。

 そのため、人気ひとけがない場所はかなり限られてくる。


……!」


 神社の裏の通りはいつも人気ひとけがない上に、家もほとんど立っていない。

 考えられるのはそこのみだ。


 走ることには少し自信がある俺は、今までで一番のスピードで神社の裏の通りまで走る。

 疲れても、絶対に足を止めるわけにはいかない。


 速く、速く、速く……! もっと速く……!



「はぁはぁはぁ……やっと見つけた」


「な……!? お前は……!」


 あれから何分経ったかは分からないが、案の定神社の裏の通りには、見知らぬ男二人と、目と口を塞がれて手も拘束されている柊木さんがいた。

 その見知らぬ男二人は、見るからにやばそうな奴らで、恐らく成人しているだろう。


 そして、ちょうど車に乗ろうとしていた時に見つけることが出来た。

 あと少しでも遅ければ、逃げられていたかもしれない……いや、どっちにしろ逃げられないか。


「おい! 早く逃げるぞ!」


「逃げても無駄だぞ」


「……は?」


 このガキ何言ってんだ? って顔で見てくるチンピラ二人。

 既に柊木さんは車に乗せられたが、問題はない。


 だって、もうこいつらは逃げることが出来ないのだから。


「逃げたければ逃げればいい。でも、今すぐその子をこっちに引き渡した方がいいと思うぞ? その方が身のためだ」


「早く車を出すぞ! あんなガキの言うことなんて聞くだけ無駄だ!」


「お、おう!」


 そう言って、車に乗り込む二人。

 そして猛スピードで逃げて行った。


 これであのチンピラ二人は今、さぞかし最高な気分だろう。

 ものすごく可愛い女の子を連れ去ることが出来て、この後はあんな事やこんな事ができると妄想しているに違いない。


 だが、相手が俺だったのが悪かったな。


 そして再び、ある人物に電話をかける。



「もしもし‴父さん‴。犯人の車、そっち行ったよ。黒のワゴン車でナンバーは隠れてた」


『分かった。あとは任せろ』


「うん、ありがとう」



 俺の父さん。仕事で家にはほとんどいないが、すごく優しくて頼りがいがあって、俺が今一番尊敬している人だ。


 父さんは、警察庁の長たる警察官で警察庁長官だ。

 そして、俺と義妹である琉那るなのことが大好きすぎて、いつまで経っても親バカのままである。


 その上、以前に『お前らの周りで何か事件が起こった場合はすぐに連絡しろ。父さんが犯人を必ず捕まえてやるからな』と格好つけて言っていた。


 格好つけて俺が無理に助けようとした方が逆効果だろうし、自分ではさすがにどうすることも出来ないため、その言葉に頼ってしまったというわけだ。


「そろそろ警察に行くか。柊木さんは相当怖い思いをしただろうし……謝らないと……」


 そう思い、警察に急ぎ足で向かった。



「やっと来たか」


「九条くん……!」


 そして警察に着くと、当然のように父さんがいる部屋に連れられた。

 ドアを開けるとそこには柊木さんもいて、ドアを開けたと同時に駆け寄ってくる。


「本当によかった……ごめん。俺が一人にしたせいで……」


「う、ううん……私の方こそごめんなさい。心配かけて……」


 相当怖かったのだろう。

 今も声だけでなく、体も震えている。


 ここで抱きしめてあげることができたら……と思うが、彼氏でもない俺がそんな事をしたら、余計に嫌な思いをさせるかもしれない。

 そのため抱きしめてあげたくても、体を動かすことが出来なかった。


「よかったな、晴也。それにしても、まさか晴也にこんなにも可愛い彼女がいたとは……」


「父さん……柊木さんは彼女じゃないけど、今回は本当にありがとう」


「構わん。息子が助けてと言うなら、私はどこにだって行くぞ。南極だろうが宇宙だろうがな」


 ガハハと豪快に笑う父さん。


 こうして見ると、本当に警察庁長官なのか怪しいところだが、親バカでもすごく頼りがいがある。

 そして今回は父さんがいなかったら本当にやばかったし、感謝しかない。


「でも気をつけるんだぞ。またそんな可愛い彼女が一人で歩いていたら、またさらおうとする奴らが現れるかもしれない。

今日はたまたま警備でパトロールをしていた警察官がいてすぐに包囲することが出来たが、いつもこのようにすぐ対応することが出来るわけではないからな」


「ごめんなさい……」


「まぁ、結果的には助けることが出来たし、今後は一人にさせないようにしなさい」


「分かった」


 そして少しの間事情聴取を受けてから、俺と柊木さんは念の為とパトカーで家まで送ってもらった。


 今日は父さんの力で助けることが出来たが、今後は父さんの力を借りないで助けることができるようになろうと、そう思った。

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