第38話 義妹とスイーツ巡り

 今日から待ちに待った夏休みに突入した。


 全高校生にとって、この休みの期間は至福であり、一年の中で最も楽しみがつまった期間である。

 そして今日、夏休みが始まって早速だが俺は義妹である九条琉那くじょうるなとスイーツ巡りをすることになっている。


 このスイーツ巡りは琉那が誘ってくれて、以前にあった夏服への衣替えの時に言っていた『罰として今度どこか美味しいスイーツ屋さんにでも連れていくこと!』は、俺から誘っていないため無効らしい。


 別にこの約束がなくたって、誘ってくれればいつでも一緒に行くのに、とは思う。

 だって俺たちはスイーツ好きの義兄妹だし、スイーツのことに関してここまで話せる相手は琉那しかいない。


 それなら琉那から誘ってもらうのではなく、俺から誘えばいい話だが、あまりスイーツ巡りをしたことがないため案内なんてものは出来やしない。

 美味しいお店を調べて行くのもありだが、初めての場所を紹介するというのは難易度が高い。


 だから琉那から誘ってくれた今日のスイーツ巡りは、この夏休みの中で一番楽しもうと決めている(まだ夏休み初日なんですけども!)。


「今日は和スイーツを中心に回ろ!」


「え、いいのか?」


「うん。だってお義兄ちゃん好きでしょ? 私も好きだしちょうどいいよ」


 琉那はそう言って、長くて綺麗な亜麻色の髪を揺らしてニコリと笑った。

 その姿はとても可愛らしく、まるで天使が舞い降りたかのように思えた。


「じゃあ、まずはここから行こ!」


 渡されたスマホの画面を見ると、美味しそうな抹茶和菓子と抹茶ドリンクが写った写真、そして店名と場所が記されてあった。


「抹茶だらけじゃないか……!」


「お義兄ちゃんは抹茶、本当に大好きだよねー」


 そう、俺は抹茶が大好きだ。

 そして和菓子も大好きだ。


 ということはつまり、抹茶と和菓子のコラボレーションは俺にとって至福なのである。


「さ、さあ! 早く行こう! 抹茶和菓子が俺を待っている!」


「お義兄ちゃんキモーイ」


 真顔でそう言われると結構傷つくが、仕方がないではないか。

 だって抹茶×和菓子以上に美味しい物なんて、この世に存在しないのだから(あくまで自論です)。



「美味い……! なんだこれ、美味すぎるぞ……!」


「本当に美味しいね! 特にこの抹茶のわらび餅!」


「やばい……感動」


 あまりの美味しさに感動して、思わず涙を流してしまいそうだ。

 抹茶×和菓子、恐るべし……



 次のお店にやって来た。

 このお店では、あんみつやぜんざいが主に売られているらしい。

 あんみつは今までで一度も食べたことがないため、すごく楽しみだ。


「店内おっ洒落しゃれー!」


 琉那の言う通り、店内はすごくお洒落だった。

 外装からも感じられたが、内装も『和』という感じがして、ずっとここに居たいと思わせられる。


 外装は和風! 内装も和風! そしてスイーツも和風!


 ここは天国ですか!?

 俺もうここに住んでいいですかね!?


「お義兄ちゃん……今ここに住みたいな、とか思ってるでしょ」


 琉那はまるで俺の心の声が聞こえていたかのように言った。


「な、なんでわかった!?」


「そんな顔してたから」


「まじか……」


 顔だけでどんな気持ちになっているかわかるこの義妹、もしかして天才ですかね?

 お義兄ちゃんは、この子が怖くて怖くて仕方がないんですけど。


「そんなことは置いといて、早く買いに行こ!」


「あ、ああ……」


 そして、俺は杏あんみつ、琉那はクリームあんみつをそれぞれ注文した。

 一口一口しっかりと味わって食べていったはずなのだが、あっという間に食べ終わってしまった。


 あんみつ……最高でした。


 しかし、スイーツ巡りと言ってもまだ二軒目。

 もっと多く和スイーツを食べられると思うと、想像するだけでワクワクしてくる。


 今までずっと一人でスイーツを食べてきたため、女子しかいないカフェには入れなかった。

 俺がスイーツ好きなことを知っていて、尚且なおかつスイーツ好きな琉那が義妹になってくれたお陰で、今こうしてスイーツ巡りが出来ている。


 この上ない多幸感で死んでしまいそうだ。



「……お義兄ちゃん」


 三軒目に向かっている最中、琉那が頬を赤く染めてうつむきながら俺のシャツの裾を引っ張ってきた。


「ん? どうした?」


「えっと……その……手、繋いでもいい?」


 そういえば、今まで琉那と手を繋いだことは一回もなかったな。

 一応琉那は義理でも俺の義妹だし、お義兄ちゃんと手を繋ぎたいと思うことはあるだろう。


「いいよ。ほら」


「……うん」


 こうして手を繋ぎながら三軒目に行った。

 そしてその三軒目のお店の店員さんに「素敵な彼女さんですね」と言われ、二人して「「彼女じゃないです!」」と叫んだのは言うまでもない。


 結局その後は恥ずかしくて、琉那と手を繋いだのは二軒目から三軒目までの移動中だけだったが、その時の琉那はとても楽しそうだった。



 今日行ったお店は合計七軒。

 抹茶だらけのお店とあんみつやぜんざいが中心に売られているお店だけでなく、どら焼き専門店やおはぎ専門店、団子専門店などにも行った。


 すごく充実した一日で、今までで一番楽しかったかもしれない。

 スイーツ巡りをしようと誘ってくれた琉那には感謝しかない。


 やっぱりスイーツは最高です……!

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