第39話 暑すぎて死んじゃう

「あーーー暑い……」


 今日は外に出歩いたら、間違いなく暑すぎて死ぬ。

 なぜなら、今日は異常気象で猛暑日だからだ。

 本当に最悪である。


 プールや海なんかに行くならまだしも、それ以外の用事だったら絶対に家から出たくない。

 家の中でゆったりと、エアコンをつけながらかき氷でも食べたい気分だ。


 と、思ったのだが……



「お、お義兄ちゃん……! 大変!」


 俺は自分の部屋にある本棚の前でリビングで読む用の本を決めていると、義妹である九条琉那くじょうるながノックもせずに突然部屋に入ってきた。


「ん? どうした?」


「エアコンが……リビングのの!!」


 ………………え?


「おいおい琉那、さすがにその冗談はよくないな。家の中でもこんなに暑いのに、エアコンが壊れたら死んじゃうじゃないか」


「じ、冗談じゃない……本当だもん」


 今の琉那は上はキャミソールを着ていて、下は短パンを穿いている。

 確かにエアコンをつけていてこの格好だと寒すぎるよな……


「まじかよ……」


 琉那の言った通り、リビングのエアコンを確認してみると見事に壊れていた。

 リモコンの電源ボタンを押したら動かず、リモコンの電池を交換してもダメだった。


 俺と琉那の部屋にそれぞれエアコンは設置されていない。

 エアコンが設置されている部屋は、リビングたった一部屋だけである。

 そして、リビングにある唯一のエアコンが壊れている。


「もうダメだ……俺たちは死ぬ、のか?」


「お義兄ちゃん……」


 両親は仕事で夜まで帰ってこない。

 そのため買い換えるとしても、早くて明日になってしまうだろう。


 エアコンが使えないなら、扇風機を使うしか……!


 ガタガタガタガタ……ガタ……


 ダメだ、扇風機ももう壊れかけてる!!

 てか、今壊れたし!!


「やっぱりもうここで死んじゃうんじゃ……」


 俺も琉那もタオルを首にかけているが、全身汗でびしょびしょだ。

 こまめに水分や塩分を摂取しているが、やはり室内が暑いとどうにもならない。


「どこか涼める場所……」


 暑くて頭が回らなくなってきているが、必死に考えを巡らせて一つの答えに辿り着いた。


「図書館だ……図書館に行こう!」


 図書館ならば家からも近いし、涼める場所として申し分ない場所だ。

 そしてずっと読書ができるという楽園でもある。


「図書館かー。私も読書は嫌いじゃないし、行こうかな。もうこんな暑い場所にいたくないし……」


 そうして、俺と琉那は颯爽と着替えを済ませ、図書館に向かったのだった。



「涼しい……! もうここに住みたい……」


「お義兄ちゃん、私今日家に帰らなくてもいい?」


「もちろんだとも。俺も帰りたくないし」


 無事に図書館に着き、家では体感することが出来なかった涼しさを前に変な会話を始める二人。

 はたから見たら、完全に変な奴らだろう。


 図書館に住みたいなど、もはや意味がわからない。


「お義兄ちゃん、おすすめの本教えて欲しいんだけど……」


「ああ、じゃあ琉那はどんな本が読みたいんだ?」


「恋愛小説がいい……」


「それなら――」


 俺が是非死ぬ前に一度だけでいいから読んで欲しい恋愛小説を、一冊ずつあらすじとともに紹介していく。

 それで俺の紹介で気になった本があったら、琉那が手に取っていく。


「結構取ったな……」


 俺が勧めた恋愛小説は七冊、琉那が手に取った恋愛小説は四冊だ。

 勧めた本に興味を持ってくれるのは素直に嬉しいが、あまり小説を読まない琉那が一日で読める量だとは思えない。


「大丈夫だよ。読めなかったのは借りるから」


「そうか……」


 そこまで興味を持ってくれるとは思わなかった。

 とりあえず暑さをしのぐために、避難しに図書館まで来たと思っていた。

 読書は嫌いではないと言っていたけど、それは読書が好きな俺に気を使っているのだと思ったし。


「じゃあ俺も読みたい本選んだし、どっかに座って読むか」


「うん!」


 それからはしばらく話さず読書にいそしみ、気づけば外はもう真っ暗になっていた。

 俺が今日この図書館で読んだ本は合計で三冊。

 ちなみにその三冊は、全部推理小説だ。


「ん〜〜〜〜〜〜〜! 久しぶりに長い時間読書したー!」


「お疲れ。それにしても琉那が泣いてるところ、初めて見たな……」


「もう! それは忘れてってば! 何度言ったらわかるの!?」


 今から三時間ほど前。

 本を読むために座ってから二時間ほどして、突然隣からズズっと鼻をすする音が聞こえてきた。

 そう、約一年前に出会ってから一度も泣いてるところを見せたことがない琉那が、感動して泣いていたのである。

 

 確かに俺が勧める恋愛小説としては、ほとんどがラストで泣かせにくる本ばかりだ。

 しかし、感動の意味でも泣いたことのない琉那が泣くのは予想外だった。

 前に「私、感動しても絶対泣かないから」とか自信満々に言ってたくせに。


「そもそもあれは、目にゴミが入ってたから泣いてただけだし? 別にあの本で感動したから泣いたわけじゃないもん!」


「へぇー? その割には号泣してたような気がするけどな……」


「もうやめ! この話やめ!!」


「はいはい」


 泣いたところを見られて恥ずかしいのか、必死に言い訳をしているところを見るのはすごく面白い。

 そしてそれをからかうのはもっと面白い。


「お義兄ちゃん! 早く帰るよ!」


「わかったから、少し待ってくれ」


 この話をもうされたくないらしく、逃げるように早歩きで家に向かう琉那。

 走って追いついてからもう一回からかってやろうかと思ったが、さすがにそれは可哀想なため自制する。


 現在早歩きをしている琉那は忘れているのかもしれないが、今の家には涼める場所など存在しない。

 果たして、あんな暑い場所で寝れるのだろうか。


 正直、家に帰りたくないな……

 やっぱり図書館で暮らしたい……(バカを言うんじゃない。さっさと帰れ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る