第31話 それぞれの思惑 ※視点変化あり

※※九条琉那くじょうるな視点※※



 私――九条琉那は、明日に控えたお義兄ちゃんである九条晴也くじょうはるやの誕生日プレゼントを選びに、ショッピングモールに一人で来ていた。


 本当は美羽みはねちゃんと選ぼうと思ってたんだけど、以前に『姑息な手を使わずに、正々堂々と勝負してお義兄ちゃんを惚れさせる』と言っていたから誘いづらかった。


 それに一緒に選びに行ったら、お義兄ちゃんの大好物がスイーツだということがバレてしまう。

 そう、私がお義兄ちゃんの誕生日に渡すプレゼントは、家族以外誰も知らないお義兄ちゃんの大好物、スイーツなのである。


 理由は単純明快。

 お義兄ちゃんの大好物だし、絶対に他の二人(美羽ちゃんと柊木ひいらぎさん)と被らないからだ。

 これで被ったら逆にすごいと思う。


「ケーキはもう買ってあるから……」


 お義兄ちゃんはスイーツと言っても、洋菓子より和菓子派だ。

 どっちみちお母さんがケーキを買っていたため、洋菓子ではなく和菓子を買うしか選択肢がないけど。


 そのため、和菓子コーナーを目掛けて、少しでも早く帰れるように小走りする。


 早く帰りたい理由はただ一つ。

 美羽ちゃんや柊木さんに見られないため。

 この二人に見られないように、わざわざ開店してすぐにこのショッピングモールにやって来たのだ。


「え……これすごくいいじゃん!」


 私が目をつけたのは、季節の高級上生菓子と書かれた和菓子。

 ちなみに上生菓子というのは、季節に相応しい趣を取り入れ、和菓子職人が伝承の技術を駆使して、一つ一つ丁寧に手作りで作り上げられた和菓子だ。


 中には、四葩よひらの花、初夏の果、石竹せきちく、蛍狩、蛇籠じゃかご香魚こうぎょと書かれてある可愛らしい和菓子が六つほど入っている。


 これなら私だって食べたいし、お義兄ちゃんは絶対喜ぶ。

 ……ひ、一つだけなら食べさせてくれるよね。


 もちろん私のためではなく、お義兄ちゃんのために購入して、颯爽と家路についた。



※※桃井美羽ももいみはね視点※※



 私――桃井美羽は、明日に控えた幼馴染である九条晴也の誕生日プレゼントを選びに、ショッピングモールに一人で来ていた。


 本当は琉那ちゃんを誘って一緒に選ぼうと思ってたんだけど、もう正々堂々と勝負すると決めたし、誘うわけにはいかなかった。

 正直、私以上に晴のことをわかっている人がいるとは思えないし、わざわざ‴敵‴と一緒に選ぶなんて愚行にも程があるしね。


 そうして結局、朝から選びに行こうと思っていたのに寝坊してしまい、昼からショッピングモールに来ていた。


「晴は私にすごくいい物をプレゼントしてくれた。私も晴に驚かれるくらいいい物をプレゼントしなきゃ!」


 そう思い、ショッピングモールにある色々なお店を回って、必死に考えて考えた結果。


「ダメだ〜! 全っ然いいのが見つからない〜!」


 晴の好きそうな財布、ネックレス、香水など色々考えたが、全くいい物が見つからなかった。


「どうしよう……もう今から違うところに行っても、どのお店も閉まる頃だし……」


 現在時刻は二十時。

 どのお店も二十一時には閉まってしまうため、今いるショッピングモールで選ぶ以外に選択肢がない。


 仕方がないけど、最終手段だ――――



※※柊木瑞希ひいらぎみずき視点※※



 私――柊木瑞希は、明日に控えた九条晴也の誕生日プレゼントを選びに、ショッピングモールに弟であるみなとと来ていた。


 決して私が男子へのプレゼントで、何を選べばいいのか分からないから付いてきてもらった、なんてことはない。

 本当にただ凑が「俺も行きたい。どうしても行きたい」って言っていたから、仕方がなく一緒に来ただけであって、私から頼んだりなんかしてるわけがない。


(本当は『いつも彼女役やってあげてるんだから、少しは私の協力もしなさい!』と言って、男の子への初のプレゼント選びを手伝ってもらうために、弟と来ているのである)


「ねぇ凑、あなたはどんな物を貰ったら喜ぶの?」


「そりゃあ好きな人から貰った物なら何でも」


 はい、こいつ役に立ちません。

 これだからチャラい男子は嫌いなんだ。


「姉ちゃん……? 俺何か変なこと言った……?」


「もう凑帰ってくれる? 用済みだから」


「ひ、酷い……! 折角付いてきてあげたのに!」


 こんな役立たずを付いてこさせたのは間違いだった。

 絶対に要らなかったでしょ、こいつ。

 折角いつも色々なプレゼントを女子から貰っている凑に、選ぶのを手伝ってもらおうと思っていたのに!


「わ、分かった! 俺もちゃんと手伝うからさ!」


「本当かしら? もし役に立たなかったら……」


 ……どうしてあげようかしら。

 凑が通っている中学校で、凑には彼女がいないってバラしてあげるのは悪くないわね。


「はい! 全力でサポートするので、それだけはご勘弁を!」


 どうやら言わずとも分かっているらしい。

 さすが何度もこのネタで脅してきただけある。



 それからしばらく凑に助言を貰いつつ、色々なお店を回っていい物を探したものの、結局何も見つからなかった。

 まぁ、凑が役に立たなかったということはなかったし、凑に彼女がいないことをバラすのはやめてあげよう。


 でも、どうしよう……明日は九条くんの誕生日なのに……

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