第32話 誕生日

 今日――六月十五日は俺、九条晴也くじょうはるやの誕生日だ。


 幼馴染である桃井美羽ももいみはねの誕生日の時とは違って、サプライズパーティーではなく、しっかりと予定を決めて俺の家でパーティーをすることになっている。


 このパーティーの参加者は、俺と美羽、好きな人である柊木瑞希ひいらぎみずき、義妹である琉那るな、友人である吉田祐介よしだゆうすけの五人だ。

 放課後に皆で俺の家に行き、すぐにパーティーを始めてすぐに解散の予定である。

 パーティーを開いてくれること自体は嬉しいのだが、皆がすぐに帰ってしまうのは少し悲しい。


 しかし、それは仕方がないことだ。

 今日は水曜日で、七時間授業の日であり、かなり遅い時間まで授業がある。

 皆家が近いとあまりそれは関係ないが、柊木さんと吉田が電車通学で家が遠いため、止むを得ないのだ。



「では、これから晴の誕生日パーティーを始めま〜す! せ〜のっ!」


 パンパン!!!! パンパン!!!!


「「「おめでとうー!」」」


「皆、ありがとう!」


 俺以外の四人全員がクラッカーを俺に向けて鳴らし、盛大な効果音とともに誕生日を祝ってくれた。

 一年前までは美羽と家族にしか祝ってもらえなかった誕生日だが、今年はすごく賑やかになった。


 あの時に泣いていた美羽の気持ちが、身に染みて分かるな。

 だって俺も、やばい……泣きそう。


「あれ〜? 晴もしかして泣いてるの〜?」


「な、泣いてるわけないだろ! お前と一緒にすんな!」


「意地張っちゃって〜」


 そう言って、クスクス笑いながら近づいてくる美羽。


 美羽はなんでそんなに勘が鋭いのかな!?

 涙目になってないし、バレるわけがない……


 ……あいつ、もしかして俺のこと揶揄からかってるのか!?

 誕生日なのに……なんてやつだ畜生!


「はい! 皆まだ渡しそうにないし、プレゼント!」


 近づいてきたのは、それが理由だったのかよ。

 美羽がくれたプレゼントは、ちょっと軽めで、大きくもなく小さくもない箱だった。


 なぜかその箱を凝視している人が二人ほどいるが、気づいていないフリをしよう。


「ありがとう。開けてもいいか?」


「もちろん!」


 そして開けると、中には思いも寄らない物が入っていた。

 美羽がくれたプレゼント、それは――


「待ってくれ。どうして……」


「「!?」」


 衝撃だった。

 中に入っていたのは、‴季節の高級上生菓子と書かれた和菓子‴だ。


 俺は美羽にスイーツが大好きなことを教えていないはずだ。

 それなのになぜ……


「どうしてって、晴が和菓子好きだからでしょ?」


「確かにそうだけど……なんで俺が和菓子好きだって知ってたんだ?」


「ごめんね……ずっと前から気づいてたの。さすがに何年も一緒にいたら気づくよ」


 俺は何がなんでも美羽にはバレたくないと思っていたから、徹底的に隠していたはずなのに。


 幼馴染、恐るべし……

 美羽、恐るべし……


 しかし、驚いているのは俺だけではなかった。

 春の高級上生菓子を指差しながら、「ああああああ」と口を開けている者が二名。


「どうして美羽ちゃんもそれを……!」


「桃井さん!? パクリは反則ですよ!」


「「…………え?」」


 最後にはお互い目を合わせ、更に驚いている二人。

 その二人とは、柊木さんと琉那である。


 どうやらこの三人は、‴全く同じ‴プレゼントを用意したらしい。

 それも完璧に偶然で。


 もはや意味がわからない……


「ハハッ! 面白い! 面白すぎるよ!(爆笑)」


 そして、ずっとこの展開を見ていた吉田は、俺の気も知らないで思いっきり爆笑していた。


 そんな中、美羽、柊木さん、琉那はまるで灰になったかのように真っ白になっている。

 俺はというと、嬉しいのと同時に、スイーツ好きであることが知られていた事実が発覚し、恥ずかしさのあまり死にそうである。


 この空間、あまりにも状況が酷すぎる。

 どう見ても、誕生日のパーティーをしているとは思えない。


「はー……笑った笑った。はい、九条くん。これは僕からのプレゼント」


「お、おう……ありがとう。開けてもいいか?」


「いいよ」


 吉田がくれたのは、無線のイヤホンだ。

 これはちょうど欲しいと思っていたから、すごく嬉しい。


「まじか……! ちょうど欲しかったやつだよ! ありがとうな!」


「喜んでもらえて何よりだよ」


 それから俺と吉田は、しばらく音楽の話題で盛り上がった。


 ちなみに未だ美羽、柊木さん、琉那の三人はまるで灰になったかのように真っ白になっているままである。


 でも、上生菓子六個入りが三つか……

 和菓子好きな俺にとっては、最高すぎるプレゼントだ。


「三人とも、本当にありがとう。プレゼントが一緒の物なのは仕方がないけど、俺はすごく嬉しいからそんなに落ち込むなって」


「「「そう? 良かった〜」」」


 灰になったかのように真っ白になっていた三人だが、俺のその言葉を聞いた瞬間に元に戻り、見事なシンクロを見せた。

 その光景を見て、吉田は再び大笑いしたのだった。

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