第29話 変化 ※桃井美羽視点

 私――桃井美羽ももいみはねに気持ちの変化が訪れた日。

 それは、私と柊木瑞希ひいらぎみずきが料理対決をした日まで遡る。


 私と柊木さんは使ったお皿を半分に分けて洗っていると、突然柊木さんが真剣な顔で話しかけてきた。


「桃井さん、この後時間あるかしら?」


「え……? うん、あるけど」


「だったら、このカフェで集合しましょう」


 そう言って、カフェの名前と場所が写っているスマホの画面を見せてきた。


 どうして私のことを呼び出したのかは分からない。

 もしかして、私と琉那るなちゃんが結託して、柊木さんの邪魔をしているのがバレた?

 でもそれなら、琉那ちゃんも一緒に呼び出すはず。


 まぁ、恐らくはるとのことで話があるんだろう。

 それ以外に考えられない。


「わかった」



 そして晴に家まで送ってもらったが、結局指定されたカフェの前で待っている私。

 しばらくして、晴に駅まで送ってもらったであろう柊木さんがカフェにやって来た。


「待たせてごめんなさい。さぁ、入りましょう?」


「全然大丈夫だよ〜。うん、入ろっか」


 私はカフェモカ、柊木さんはカフェオーレをそれぞれ頼み、向かい合って座った。


「……で、何か用?」


「ちょっと桃井さんと話そうと思って」


「それは、晴とのこと?」


「そう。九条くじょうくんのことで」


 やっぱりそうだ。

 私と柊木さんが話すことといえば、晴とのこと以外ないし。


「まずは私が九条くんと出会った時から話そうかな。あれは‴小学校低学年‴の時――」


「ちょ、ちょっと待って! 晴と出会ったのって高校の時じゃないの!?」


 晴は高校で出会って、一目惚れしたって言ってたような気がするんだけど……


「違うわよ。九条くんは覚えていないのかもしれないけどね」


「そうなの!?」


 いくら何でも衝撃すぎる。

 私が晴と出会ったのは小学三年生。

 晴が転校して来て、たまたま家が近くだったから仲良くなった。


「そんな……私より前に出会ってたなんて……」


「まぁ、でも私の場合は仲良くなったのに、すぐ九条くんが転校しちゃったから。覚えていなくても仕方がないわね。正直私も覚えていなかったし」


「そうなんだ……」


「でも、一緒に日直当番をやった時に思い出したの。私は小学校低学年の頃からずっと、九条くんを好きだった。もちろん今も。それだけは桃井さんに知ってて欲しい」


 どうしてそんなことを私に言うんだろう。

 別に教えなくたって良かったはずなのに。


「今一番九条くんと距離が近いのはあなたよ、桃井さん。だから、これは宣戦布告。私とあなたで真剣勝負よ」


 そう言いながら、私を指差す柊木さん。


 確かに私が一番晴と距離が近いかもしれない。

 でもそれは幼馴染だからであって、恋愛的に距離が近いというより、ただ仲がいいだけな気がする。


 柊木さんは私に何の姑息な手を使わずに正々堂々と真正面から戦いを申し込んできた。

 今までの私は、晴と柊木さんが両思いだと知ってから、琉那ちゃんと手を組んで、二人の邪魔をすることだけを考えていた。


 ――最低じゃん、私。


「……ごめんなさい!!」


 え、どうして謝るの? と言いたげな顔で見てくる柊木さん。

 でも、謝らなきゃ気が済まない。

 だって私は、今まで酷いことをしてきたから。


「私、今まで柊木さんと晴の関係を邪魔することだけを考えてたの! 本当にごめんなさい! でも、これからは正々堂々、真剣に勝負するから!」


「そう、なの……まぁ、いいわよ。別に今まで邪魔なんてされていないし」


 ……え? 邪魔していたよね? 私たち。

 明らかに以前デートで邪魔をしていた気がするけど……邪魔だと思われていなかったなら、いいのかな?


「あと、私と柊木さんだけの真剣勝負じゃないよ。琉那ちゃんも晴のこと好きだから」


「でもあの子って妹なんじゃ……?」


「琉那ちゃんは義理の妹だから」


「なるほど……心に留めておくわ。ありがとう」


「うん」


 そして私たちは握手をして、しばらく話し込んでからお互い家に帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る