第22話 お風呂にて

 ゴールデンウィーク最終日。


 この連休で俺は予定通り誰とも遊ばず、ずっと読書をしていた。

 今では図書館で借りた本はもう全て読み終わり、家にあった積み本を消化している。


 ちなみに、俺の好きな人である柊木瑞希ひいらぎみずきとの恋愛小説の語り合いはまだしていない。


 ゴールデンウィーク前の放課後で約束したのは夢かと何度も思ったが、どうやらこの連休は用事があったらしく、全然読書を出来ていない、と先日メールが送られてきた。

 しかし、今日は何の予定もないから、夜にでも時間を貰えないかしら、と追加でメールが送られてきていた。

 すごく楽しみである。



 そして、今日も今日とて朝からずっと読書をしていると、いつの間にか夜になっていた。


 小説を読んでいると、いつも気づいた時には夜になっている。

 少々時間がもったいないような気もするが、適当にテレビを見たりしてくつろいでいるよりかは、遥かにマシだろう。


「そろそろ風呂でも入るか……」


 いつも夜飯は二十一時からと決まっていて、今はちょうどその一時間前だ。


 お風呂に浸かってゆっくり体を休めよう。

 また明日から学校だしな。


 そう思い、自分の部屋を出てスタスタと歩いてお風呂場に向かった。


「そういえば、今日は父さんも義母さんも家にいないから、琉那るなと二人っきりだな」


 幼馴染である桃井美羽ももいみはねとの料理対決の時から、俺と琉那は両親が家を留守にする時は、当番制で夜飯を作るようになった。

 そして、夜飯当番は順番だと、今日は琉那だから別に問題はないだろう。


 あの時に食べた琉那が作った肉じゃが、もう一度食べたいなぁ……



 ガラガラガラ



 風呂場に繋がっているドアを開けると、そこには信じ難い光景が広がっていた。


 ドアを開けてすぐの場所に立っていたのは、今からお風呂に入ろうとしている背を向けた全裸の少女。

 間違いない、こいつは…………


「どうしてお義兄ちゃんが入ってくるの!? 早く閉めてよバカァァァァ!!!」


「ご、ごめん! 琉那が入ってるとは思ってなくて……」


「言い訳無用! いいからとりあえず閉めて!」


 本当にこれは不可抗力だ。

 琉那が入っていると知ってて開けたわけじゃないし、琉那と出会ってから一年経ったが、今までこんなシチュエーションがなかったから大丈夫だろうなと思ってたんだ!(言い訳)


「る、琉那……? 本当にごめん。何でも言う事聞くから許してくれないか?」


「何でも……?」


「ああ、とりあえず死ね以外だったら何でも」


 今まで琉那から死ねなんて一度も言われたことはないが、なんとなく今回ばかりは言われそうだと思った。

 本当に男として最低なことをしたからな……


「じゃあ…………私がいいって言ったら、お風呂に入ってきて」


「…………はい?」


「いいから! わかった!?」


「は、はい!」


 一体どういうつもりだ?


 まさか…………高校生の男女が一緒にお風呂に入るのか!?

 健全な男子高校生な俺が言うのもなんだけど、神展開すぎませんかね? (全く健全じゃない)



「お義兄ちゃん! 入ってきていいよ!」


「あ、ああ……」


 意を決して着ていた服を脱ぎ、タオルを下半身に巻き付けてお風呂に入ると、そこには白の半袖シャツを着て、デニムのショートパンツを履いた琉那が立っていた。


「さあ、お義兄ちゃん座って座って」


「え、さっきは全裸だったのに、どうして服着てるんだ?」


 純粋な疑問を琉那にぶつけてみると、琉那はまるで汚物を見ているかのような恐ろしい顔でこちらを見つめてきた。


「お義兄ちゃん……死ぬか、記憶を消されるか、どっちか選んで?」


「ご、ごめんなさい! それだけはご勘弁を……! どうかお許しください……! 琉那様……!」


 琉那ちゃん怒ると超怖い!

 冷酷姫モードの柊木さん並みに怖いよ!

 この子を怒らせるのダメ、絶対。


「わかったから、早く座って。背中流してあげる」


「え、いいのか?」


「もちろん。そのためのこの格好なんだから」


「そうか……ありがとう」



 ゴシゴシ……

 ゴシゴシ……

 ゴシゴシ……



 初めて背中を流してもらったが、すごく良かった。

 いつもは適当に強い力で背中を洗っていたが、琉那は優しく丁寧に背中を洗ってくれた。

 後ろを向くとたまにちらちら見えた琉那の胸元のせいで、理性を保つのに必死だったが、すごくいい気分だった。


「ありがとうな、琉那」


「うん、じゃあ私は夜ご飯作ってからお風呂入るから、ゆっくりしてていいよ」


 そう言ってお風呂場から去っていく琉那に再度お礼を言って、浴槽にたまっているお湯に浸かって息を吐いた。


 また明日から学校だと思うと憂鬱だが、お湯に浸かっているとそんな思いも、どんなに嫌なことも忘れることが出来る。


 今度、どっかの温泉で一日くつろぎたいな……



 それからしばらく経って、お風呂から上がり、琉那が作った夜飯を食べて、柊木さんと恋愛小説のことで盛り上がり、最高な形でゴールデンウィークが終わった。


 しかし、気がかりなのは、美羽がこの連休で一度も連絡をしてこなかったことだ。

 お出かけの誘いの連絡が一つか二つは来ると思ったが、一度たりとも来なかった。

 もしかしたらずっと家の用事だったのかもしれないが……まぁ、明日聞いてみればいいだろう。

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