第21話 連休の過ごし方

 今日の憂鬱な授業が全て終わり、明日になれば世の中はゴールデンウィークと呼ばれる連休に突入する。

 この貴重な連休を無駄にするわけにはいかない。


「絶対に! 何がなんでも! この連休は‴読書‴をするんだ!」


 そう、俺はこの連休ですることをずっと前から決めていた。

 それは、俺の唯一の趣味である読書だ。


 ここ最近は俺の幼馴染である桃井美羽ももいみはねや、義妹である九条琉那くじょうるな、好きな人である柊木瑞希ひいらぎみずきと遊んだりで、全然読書をできていなかった。

 だからこそ、この連休は誰とも遊ばず、読書だけをしようと心に決めていたのだ。


 もしかしたら美羽や琉那が邪魔をしに来るかもしれないが、今回ばかりは何を言われても、スイーツを使って連れ出そうとしても、俺は動くつもりはない(スイーツには目がないが、大丈夫だと思う……多分)。


 そして、今日の放課後は図書館に行って、連休中に家で読む本を借りに行く予定である。

 本当は家ではなく、誰にも邪魔をされない図書館で読書をしたいのだが、ゴールデンウィークは図書館が閉館しているため、今日だけで何冊もの本を借りなければならない。


 少々面倒くさいが、仕方がない。



 予定通り、放課後になって俺は行きつけの図書館にやって来た。

 ここの図書館は、家からも学校からも近いため、行きつけの場所となっている場所だ。


「さてさて……早めに目星をつけて、早く帰りますかー」


 よく読むジャンルとしては恋愛系なのだが、最近は推理系やホラー系の小説も読むようになった。

 そのため、今日借りる本は推理系やホラー系の本を五冊、恋愛系を五冊借りる予定である。


「これ面白そう! これも! あ、これも!――」


 面白そうな小説を片っ端から全て取っていくと、合計で二十冊になっていた。

 しかし、図書館では一度に十冊までしか借りることができないため、半分に絞らなければならない。


 館内に設置されている机の上に全て置くと、大きな音とともにたくさんの人から注目を浴びた。


「学校の時とは違う意味で死にたい……」


 しかし、その時に俺の方を見てきた人の中に、同じ学校の制服を着ていて、最近になってやっと仲良くなれた人が一人いた。


 それは――――


「え……九条くん!? どうしてここにいるの?」


 俺の好きな人、柊木さんだ。

 柊木さんは両手で分厚い本を三冊抱えている。


「俺はゴールデンウィーク中に読もうと思った本を借りに来たんだ。柊木さんも……?」


「ええ、私も同じよ」


「そうなんだ……」


 柊木さんが本を読むのは、かなり意外だった。

 しかも持っているのは、一冊で俺が持っている約三百ページの文庫本二冊分くらいのサイズだ。


「その本、かなり分厚いけど……どんな小説なんだ?」


「あー、これは全部推理小説全集よ。私最近はこういうのよく読むの」


 女子の場合は、恋愛系の本を読んでいる人はよく見かけるが、推理小説を読んでいる人は初めて見たな。


「すごいな……」


「九条くんが借りようと思ってるのは、どんな本なの?」


「俺は恋愛系とか推理、ホラー系を借りようと思ってる」


「結構幅広く読んでるのね……私、推理小説しか読んでないから、よかったら今度色々な本を紹介してくれないかしら」


「もちろんだよ!」



 それからは推理小説のことについて柊木さんと語ったり、読んでいるだけで胸がキュンとするオススメの恋愛小説を紹介していると、あっという間に閉館時間間近になっていた。


 柊木さんと推理小説のことについて語り合った影響か、俺が借りることに決めた本は推理系五冊、恋愛系三冊、ホラー系二冊だ。

 予定とは少々異なってしまったが、あまり問題はない。


 柊木さんは俺がオススメした恋愛小説を一冊試しに読んでみるということで、元々持っていた推理小説全集三冊に加えて、恋愛小説を一冊借りたのだった。



 柊木さんは電車を使って通学している。

 そのため、駅まで送り届けたところで、俺も帰ろうと思って家に向かって歩き出そうとすると、柊木さんが話しかけてきた。


「九条くん、今日はありがとう。色々と話せて楽しかったわ」


「うん、こちらこそありがとう。お陰で推理小説を読むのがすごく楽しみになった」


「ええ、それともし良かったらなんだけど……」


 足をもじもじさせながら、綺麗な白百合色の髪を揺らして、上目遣いでこちらを見ている柊木さん。

 その姿は言うまでもなく、とてつもなく可愛かった。


「この連休、九条くんがずっと読書をしているつもりなのはわかっているのだけど、少しだけでも時間を貰えないかしら」


「……え?」


「その……私が借りた恋愛小説を読み終わったら、語り合いたいな、と思って……ダメ、かしら?」


「全然! むしろこちらからお願いしたいくらいです! よろしくお願いします!」


 自分でもなぜかわからないが、敬語になってしまった。


「じゃあ、約束ね! 読み終わったら連絡するから!」


 そう言って、柊木さんは冷酷姫ではなく天使のような笑顔を見せながら、手を振って駅の改札を通っていった。



 この連休、楽しみが一つ増えたな。

 やっぱりゴールデンウィークは最高だな!!

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