第19話 幼馴染の誕生日 ②

 今日は俺の幼馴染である桃井美羽ももいみはねの誕生日である。

 俺と義妹である九条琉那くじょうるなは、昨日から密かにサプライズパーティーを計画していた(美羽の両親にも承諾を得ている)。


 しかし、飾り付けなどで手こずってしまい、結局徹夜することになったものの、まだ準備が終わっていない。

 だから今日は眠くて、授業中もずっと寝ていたのだ。


 そして、放課後に俺が美羽をどこかに連れている間、琉那に残りの飾り付けを任していた。

 美羽とケーキ屋に向かい、美羽がケーキに目を輝かせていると、琉那から一通のメールが送られてきた。


『飾り付け終わったから、もう来ても大丈夫だよ』


『ありがとう、お疲れ様』


『Good! (スタンプ)』



※※※



「え、ちょっ……!!」


 琉那からのメールを見た俺は、すぐに美羽を連れて自宅に向かった。

 そして、昨日練った作戦通り、美羽に目隠しをしてもらい、家の中に連れ込んだ(意味深)。


はる! どうしたの!? ねぇ!」


 そんな美羽の叫びを全て無視して、琉那と昨日からずっと準備している部屋へと連れていく。

 到着して、琉那が用意してくれたケーキや料理などが置かれてあるテーブルの前に美羽を座らせた。


「……え? ちょっと晴! どこ!? ねぇ!」


「美羽、目隠し取っていいよ」


「……え、あ、うん」


 パンパン!!!! パンパン!!!!


「「美羽(ちゃん)!! 誕生日おめでとう!」」


「え…………?」


 美羽が目隠しを取ってすぐにクラッカーを鳴らし、盛大に誕生日を祝ったつもりだが、美羽はなぜか目に涙を浮かべていた。


「え!?」


「おい美羽! どうしたんだ!?」


「え……う、嘘。なんで私、泣いてるの……」


「美羽ちゃん大丈夫!? あ、もしかしてお義兄ちゃん、帰ってくる時に何かしたの!?」


「おいおい俺は何もしてないぞ!?」


「……晴のせいじゃないよ。ただ誕生日をこんな風に、私の大好きな人たちから盛大に祝ってもらえたのが嬉しくって」


「美羽……」


 しかし、泣いてもらうにはまだ早い。

 なぜなら俺と琉那はまだプレゼントを渡していないからだ。


 特に俺のプレゼントは、いつもあげていたぬいぐるみとは一味違う。

 絶対(いや、多分)喜んでくれるだろう。


「これ、俺からのプレゼントだ。よかったら受け取ってくれ」


「…………え?」


 美羽は想像を絶したのか、泣き止んで俺が持っているプレゼントを呆然と見ている。


 まぁ、それも無理はないだろう。

 もう何年もずっとぬいぐるみをプレゼントしてきたのに、俺が手に持っているのは綺麗に包装された小さな紙袋だ。

 どう見てもぬいぐるみではない。


「……開けてもいい?」


「もちろん」


 俺が美羽に用意したプレゼント、それは――――


「すごく可愛い…………」


 天使の羽モチーフのシルバーリングだ。


 琉那とプレゼントを買いに行った時にこのシルバーリングを見て、美羽に渡すのはこれしかないと思った。

 すごく似合うだろうし、美羽らしい一品だと思う。


「晴……ありがとう!」


「おう」


 「なんかさー、お義兄ちゃんがそれを買った時からずっと思ってたんだけどー」と琉那がいたずらっぽい笑顔を浮かべながら言った。

 なんでだろう。ものすごく嫌な予感がする。


「それって指輪じゃん? もしかしてー、‴婚約‴指輪だったりしてー」


「ははははは晴!?!?」


「そんなわけないだろ! ただ美羽らしくて、すごく似合いそうだなって思っただけだ!」


 琉那のやつ、急に何を言い出すんだ!

 俺には好きな人がいるのに、好きな人じゃなくて幼馴染に婚約指輪なんて渡すわけがない。

 もちろん好きな人にもまだ渡すつもりはないが(当然である)。


「本当かなー?」


「本当だ!」


 全く……琉那ちゃんをこんな悪い子に育てたつもりはありませんけど!? (いや、誰目線やねん)


「まぁ、それは置いといて……はい! これは私からのプレゼント」


「わ〜! 琉那ちゃんもありがとう!」


「いえいえー! これは私も使ってる香水だけど、美羽ちゃんにも合いそうだなって思ったんだ。でも、もし気に入らなかったらまた今度別のあげるからね」


 琉那がプレゼントした物は、どうやらシトラスの香水らしい。

 美羽は柑橘系の香水をいつもつけているため、別に問題はないだろう。


「ううん、すごく気に入ったよ!」


「なら良かった……」



 二人とも美羽にプレゼントを渡し終え、三人で食卓を囲んで琉那が作った料理を食べながら、色々と話していた(特に美羽と琉那の二人で)。

 主には俺の小さい頃の話だ(……なんで?)。


 その話題になった時に「恥ずかしいからやめてくれ」と牽制したものの、俺の言葉を一切聞かずに美羽が語り始めたのだ。

 もう三十分も俺の小さい頃の話をしているため、そろそろ違う話題で話して欲しいな。


「……あ、そういえばお前らって、どうして急に仲良くなったんだ?」


 ここで咄嗟に思いついたずっと気になっていたことを聞いてみると、談笑していた二人はなぜか俺から目を逸らして背を向けた。


「ごにょごにょごにょ……」


「ごにょごにょ……」


 一体何の話をしているのだろうか。

 それになんで急に仲良くなったのかを聞いただけなんだが……


「晴……? ちょっと言ってる意味が分からないんだけど〜。ね? 琉那ちゃん」


「うんうん。私と美羽ちゃんは元からずっと仲良かったよー」


 こいつら、裏に何かありそうだな。

 なぜ仲良くなった理由を隠す必要があるんだ?

 別に隠す必要なんてどこにもないだろうに。


「まぁ、少し気になっただけだし、そこまで詮索する気はないよ。教えたくないなら言わなくてもいい」


「「じゃあ言わない!」」


 どんだけ言いたくないんだよ……

 本当はめっちゃ気になってるけど、言いたくないなら無理に聞いても無駄だよな。


「はぁ……分かったよ」


 それから俺たちは再びたわいもない話で盛り上がり、美羽へのサプライズパーティーは大成功に終わったのだった。

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