第16話 状況の悪化
えー、どうも。
以前、好きな人であり、学校中で人気の
その時はまだ、罵倒されたり、遠巻きにこそこそ話をされたりで済んでいたのですが、どうやら状況が悪化したみたいです。
「チッ……調子乗ってんじゃねーぞ」
「アイツさえいなければ、柊木さんや
「それにアイツ、柊木さんと桃井さん以外にも、もう一人可愛い子連れてたらしいぞ」
「それは確かな情報なのか!?」
「さすがに許すことはできねーな」
今となっては遠巻きにこそこそ話をされるだけでなく、殺意を向けられるようになったのです。
これから学校に通いづらくなるなー(泣)
その原因は、先日に、柊木さんと幼馴染である
俺がその時一緒にいた女子たちは、通っている高校の中でもトップクラスの美少女揃いだ。
柊木さんは、冷酷姫と呼ばれていて、容姿端麗、才色兼備で学校一の人気者。
美羽は、元気で明るく愛想がいい上に、守ってあげたくなるような可愛らしい顔をしているため、男女ともに好かれており、柊木さんに次いで学校中の人気者だ。
しかし、琉那はかなり顔立ちは整っている方だと思うが、あまり学校中で騒がれていない。
本人曰く、「一年生の中ではモテモテなんだからっ!」らしい。
この美少女三人を連れて歩いていただけで、弱みを握って、あんな事やこんな事をさせているのではないか、と噂をされているのが現状だ。
教室にいれば、遠巻きにこそこそと「キモイ」だの「最低男」だの色々言われるし。
「はぁ……もう帰りたいな。これからは学校休んで、家に引きこもろうか……」
いつも構ってくれる元気で明るい美羽が珍しく学校を休んでいるため、当然話し相手がいない。
風邪なら、放課後にお見舞いでも行こうかと思ったが、先生に尋ねたら家の用事で休んでいる、と言われた。
どうして今日に限って学校来ないんだよー!
話せる人が一人もいないじゃねーか!
「ねぇ、桃井さんが休んでいる理由って、もしかして……」
「アイツに何かされたのか……」
先生の話ちゃんと聞いてた!?
家の用事で休みって、言ってたじゃないか!
俺は美羽に何もしてないぞ! 冤罪だ!
「あなたたち、そろそろ見苦しいですよ。どんな噂かは知りませんが、所詮噂は噂。真偽はどうか分からないでしょう?」
もう諦めかけて、机に突っ伏していた俺に救いの手を差し伸べてくれたのは、柊木さんだった。
「で、でも……その言葉だって、アイツに指示されて話しているんだったら、僕が柊木さんを――」
「あなた、一体何を言っているのかしら」
「……え?」
「これは私の意思で発言しています。でも、あなたは私が九条くんのために嘘をついている、そう言いたいのですね?」
「いや、そういう訳では……」
今教室にいる人は皆、柊木さんと名も知らぬクラスメイト男Aの会話を静かに聞いている。
会話というよりは、柊木さんの一方的な発言の方が正しい気はするが。
しかし俺は、机に突っ伏したまま柊木さんの発言に耳を傾けていた。
面と向かって聞いていたら、恥ずかしくて死にたくなるに違いないと思ったからだ。
好きな子が自分のために頑張ってくれているのに、何様だと思う人もいるだろう。
でも、こうでもしなきゃ嬉しさと恥ずかしさで、変な顔をしてしまうに違いない。
「で、あなたたちは九条くんのどんな噂を耳にしたのかしら?」
「九条が柊木さんや桃井さん、それに加えてもう一人の可愛い女の子の弱みを握って、あんな事やこんな事をさせているのではないか、っていう噂だけど……」
「全く……どうしてそんな噂を信じるのかしら。彼はそんなことをする人ではないし、優しい人よ。彼の本当の姿をろくに知らないくせに、よくそんなことを言えたものね」
名も知らぬクラスメイト男Aは、柊木さんの話をぽかんと口を開けて黙って聞いている。
周りにいたクラスメイトも、あっけらかんとして黙っている。
この教室にいる皆は、全員同じことを思っているだろう。
あの男子に対して冷酷な言葉を浴びせるお姫様、通称冷酷姫が男子を庇っているなんて、一体彼女はどうしてしまったのかと。
そんな皆の思いに気づくことなく、柊木さんは淡々と続けた。
「私、そうやって証拠もない
そして、柊木さんは自身と名も知らぬクラスメイト男Aを、囲むようにして静かに見ている群衆を指さして、冷酷姫の時に見せる顔で言った。
「黙って聞いているあなたたちも、分かったかしら?」
「「「は、はい……」」」
「次またこんな状況を見た時には、容赦しないから」
柊木さんが発した言葉の重みを分からなかった人は、この場にはいないだろう。
正直、俺も最後の言葉を聞いて、背筋が凍った。
想像しただけで、死にたくなりそうだ。
そして、この場にいた全員も俺と同じことを想像していた。
自分が柊木さんに罵倒されている様子を。
「「「もう絶対にしません……」」」
「よろしい」
そうして、何事もなかったかのように、授業が始まった。
放課後になり、俺は柊木さんのもとに一目散に向かった。
このまま何も知らないふりをしてお礼を言わないのは、頑張ってくれた柊木さんに無礼だと思ったからだ。
「柊木さん! その……ありがとう!」
「当然のことをしただけよ。お礼を言われるほどではないわ」
柊木さんはそう言いながら、頬を赤らめ、綺麗な白百合色の髪を触って、視線を逸らしていた。
もしかして、照れているのだろうか。
その姿は、絵になるほどに美しくて、可愛かった(写真に残したい……!)。
「そんなことないよ。本当にありがとう」
「……え、ええ。じゃあ、また明日ね。九条くん」
「おう、また明日」
俺の言葉を聞いて、柊木さんは逃げるように走って教室を出ていった。
柊木さんのおかげで、明日からは気分よく学校に来れそうだ。
感謝しなきゃな……
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