第4話 好きな人と日直 ①
今日は、待ちに待った日直当番の日。
日直当番は、一日ずつの交代制で、男女一人ずつが、一日先生の言いなりにならなければならない。
そして今日は、俺と一年生の頃から思いを寄せている
「日直なら話す機会が多いはずだし、いい感じになれたらいいな……」
いつもより早めに学校に向かうため、準備を終えた俺は、こんな感じの妄想にふけりながら、早歩きで学校に向かって歩いていた。
日直の仕事は、主に先生の手伝いや授業後の黒板消し、学級日誌の記述だ。
そして、担任の先生は、あれこれと日直への頼み事が多いため、二人一緒に呼び出されることが多い。
つまり、男女が簡単に仲良くなれるイベントが多い、ということだ。
「まずは仲良くなれるように頑張ろう!」
学校に着くと、クラスにはもう既に大半の生徒がいた。
中には、勉強をしている人もいれば、友達と喋っている人もいたり、机に突っ伏して寝ている人もいる。
もちろんその中には柊木さんの姿もあり、必死に勉強をしていた。
朝っぱらから勉強をしていて、すごいなと感心しつつも、自席に座って机に突っ伏した。
今日が楽しみすぎて、早く起きてしまって寝不足なのは、言うまでもない。
しばらく机に突っ伏していると、誰かに肩を掴まれて優しく揺さぶられた。
「あ、あの……」
聞こえてきたのは可愛らしい女の子の声で、視界がぼやけながらも必死にその姿を確認すると、さらさらとした白百合色のストレートヘアーが見えた。
「え……? 柊木、さん……?」
「先生が頼みたいことがあるって言ってたので、一緒に来てくれませんか?」
今の柊木さんの雰囲気は、噂に聞く冷酷姫ではなく、どこにでもいる女の子だった。
男子には誰にでも冷酷な反応を見せるという情報もあったが、それはとんだデマだったのかもしれない。
「あ……うん。わかった」
職員室に向かうため、前を歩く柊木さんの後を追っていく。
一歩歩くごとに、前でゆらりと揺れる長い髪からシャンプーのいい香りがして、ドキドキが止まらない。
「朝っぱらから頼み事で悪いんだが、この山を教室に持って行ってくれると助かる」
そう言って先生が指を差した方向には、付箋で進路と書かれた一部三十ページはありそうな教科書の山。
それがクラスの人数分、すなわち四十部近くをたった二人で持たなければならないのだ。
「先生……さすがにこの量を二人で持つのは……」
「なんだ
「いや、別にそういうわけでは……」
「ならさっさと持っていけ。俺は俺でまだやることがあるんだよ」
「わかりました……」
この山を持っていく役目が、男二人だったら文句は言わない。しかし、もう一人は女子で、必然的に俺の持つ部数が多くなる。
男らしさをアピールするチャンスなのかもしれないが、俺はお世辞にも力持ちだとは言えない。
「……じゃあ、俺が少し多めで持つよ」
「いいえ! 均等に持つべきです!」
そう言った柊木さんは、進路の教科書を綺麗に半分に分け、俺の手元に半分の二十部が置かれた。
「え、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫です……! 多分」
「きつくなったら遠慮なく言えよ? それで怪我をされたら困る」
「あ、もしかして九条くんって……」
「え? なんか言った?」
「ううん、何でもない」
そんな意味深なやり取りが終わって、二人で並んで歩き出した。
しかし、教室に向かっている途中、どうしても上らなければならない階段に差し掛かり、事件は起きた。
俺たちは、あのやり取りが終わってから一言も喋らずに階段を上っていた。
そして、柊木さんは階段で足を踏み外して転落したのだ。
幸い柊木さんは何の外傷もなかったのだが。
「怪我をしなくて本当に良かったよ」
「それは…………」
そう、柊木さんが怪我をしなかったのは、俺が身代わりになったからだ。
まあ、身代わりというのは建前で、階段で足を踏み外し、後ろに落ちそうになった柊木さんを体で受け止めようとしたが、耐えきれずに俺も落ちた、という感じだ。
「ごめんなさい。私のせいで……」
「だからもういいって。目立った怪我はしてないんだし」
「でも……」
「元々俺が均等に持たせなければ、こんなことにはならなかった。だから全部俺が悪い」
「そんなわけない。私が頑固だから……」
「じゃあ、二人のせいってことでどうかな? だからお互い様だ」
うん、と不服そうに頷く柊木さんを見て、廊下に散らばった教科書を拾う。
次は均等ではなく、俺が二十五部、柊木さんが十五部だ。
二十五部はそこまで重くなく、最初からこうしておけばよかった、と二人で後悔しながら苦笑した。
柊木さんと少しだけ仲良くなれて幸福感で満たされて、もう死んでもいい気分だ。
教室に着くと、泣きそうな顔をしている幼馴染の
「
「そもそも、俺がお前を起こしに行く前提がおかしい」
「でも、昨日は来てくれたじゃんか〜!」
「昨日は昨日、今日は今日だ」
ひっど〜い! と頬を膨らませて怒る美羽は、言うまでもなく、とても可愛かった。
「明日は絶対起こしに来てよ〜! もう!」
本当に、なぜ俺が美羽を起こしに行く前提があるのか、皆目見当がつかない。
そして、明日も起こしに行かないからね、とは言わないでおこう(でも、またあの可愛い顔を見たい)。
今日は、朝から柊木さんと仲良くなれた(?)し、美羽の可愛い顔を見れて、すごくいい気分だ。
こんな一日が、これからも、この先もずっと続くといいな。
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