第3話 義妹と幼馴染

「お、おい……さすがにくっつきすぎじゃないか……?」


「え〜? 幼馴染なんだから、これくらい普通だよ〜」


 幼馴染である桃井美羽ももいみはねを久しぶりに家まで迎えに行き、一緒に登校している途中、美羽が急に腕を組んできた。


 故意か偶然か、俺の腕には美羽の豊満な胸があたっている。

 その柔らかさは、まるでマシュマロみたいで、軽くつつけば強い力で押し返される弾力を持っていた(一体何カップあるんだ!?)。


「……普通の幼馴染はこんなことしないと思うけど」


「す・る・の!」


 詰め寄ってくる美羽の威圧感に対抗することができず、結局腕を組んだまま登校することになった。


 でも、やっぱり腕を組むのは幼馴染ではなくて、恋人がやるスキンシップではないか、と思う。

 どうして急に腕を組んできたのかはわからないが、いい思いをできたし、良しとしよう。


(こんなことを柊木ひいらぎさんとできたら、どれだけ幸せだろうか……)


 まあ、未だに話したことすらない俺には、いつまで経ってもその日が訪れることはないんだろうけどな。

 でもいつか、そんな日が訪れるといいな。



※※※



 義妹である九条琉那くじょうるなを含めた新一年生が入学式に出席している間、俺たち二年生と三年生は、聞いても眠くなるだけの授業を受けなければならなかった。

 昨日始業式をしたばかりなのに、なんと今日の日課は六限までみっちりと授業で、勉強嫌いな俺と美羽は苦渋を味わっていた。


「あー! なんで昨日の今日でいきなりつまらない授業を受けなきゃいけないんだー!」


 昼休みになって、勉強のストレスが溜まりつつも持参したお弁当を開けると、その音とともに美羽が席を隣にぴったりとくっつけてきた。


「ほんとだよね〜! 早く帰ってやりたいことがあるのに〜!」


「やりたいこと?」


「うん! まぁ、はるには教えないけど」


「教えろとは一言も言ってないぞ」


「本当は何か気になるくせに〜?」


 俺を揶揄からかって、楽しそうにニヤニヤした美羽は、俺の脇腹を肘でつついてきた。

 正直、気にならないと否定するつもりはないが、どうせ少女漫画を読むとか、女子で定番の友達と長電話でもするとか、その辺だろう。


「否定はしないが、なんとなく答えは分かるから、別に言わなくてもいいよ」


「……ほほう? 私は晴には‴絶対に‴当てられないと思うんだけど」


 俺には絶対に当てられない……?


「なんでだ?」


「なんとなく、ね。どうせ私のことだから友達と電話、とか思ってるんでしょ」


 どうして考えていたことが分かったんだ!?

 テレパスなのか!?


「……でも、残念。全然違うよ」


「じゃあ、一体何なんだ?」


「さぁね〜」


 そんなこと言われたら、めっちゃ気になるじゃないか……



 昼休みが終わり、五限、六限とつまらない授業を受けている最中、俺はずっと昼休みに美羽が言っていた、やりたいことについて考えていた。

 俺が思っていたこととは全然違うらしいし、それ以外に皆目見当がつかない。


「なぁ美羽、昼休みに言ってたお前のやりたいことって結局何なんだ?」


「何度言ったらわかるの? 教えないって言ったじゃん」


 このようなやり取りを、あの後からもう数え切れないほど繰り返している。


「くっそ……! めっちゃ気になる……!」


 教えるつもりはないと何度も言われているし、何度聞いても無駄なのだろう。


「もう今日は諦めて、琉那を迎えに行くか……」


 琉那は入学式が終わった後、友達と一緒にファミレスでお喋りをしているらしい。

 だからファミレスに迎えに来て、とメールが届いていた。


「晴〜! 一緒に帰ろ〜」


 帰る準備を終えて席から立ち上がると、美羽が後ろから話しかけてきた。


「琉那も一緒なんだが……いいか?」


「琉那ちゃん? もう入学式は結構前に終わってるから、家に居るんじゃないの?」


「どうやら俺と一緒に帰りたいらしくて、友達とファミレスで話し込んでるらしい」


 美羽は、ふ〜ん? と少し怒り気味な声で言った。


「じゃあ、私も一緒に帰っていい? 琉那ちゃんと絶対に二人きりで帰らせない」


 最後の方は小さな声で言っていたため、なんて言っているのか分からなかったが、すごく怖いことを言っていた気がした。



「な、なんで美羽さんがここに!」


 琉那が待っていると言っていたファミレスに着くと、琉那は怒り気味に大きな声でそう言った。


「あらあら琉那ちゃん。私は晴と一緒に帰っているのだけど、何か?」


 先に言っておこう。

 美羽と琉那はすごく仲が悪い。いや、お互い敵対視していると言った方が正しいのかもしれない。

 初めて二人を会わせた時は、美羽は「私にも妹ができたみたい!」と喜んでいたが、俺が放った一言によって、二人の関係は変わってしまったのだ。


『好きな人ができた』


 そう伝えるまでは、二人は仲が良かった。

 しかし、そう伝えてからはなぜか俺を取り合うようになり、お互い敵視するようになってしまったのだ(いや、なんで?)。

 正直、俺に好きな人ができたことを二人に言わなければよかった、と今では後悔している。


「ねぇ、お義兄ちゃん! どうして美羽さんを連れてきたの!?」


「いや、だって……」


「私が一緒に帰りたい、と言ったの。ど〜〜しても晴と帰りたくって」


 ぐぬぬ、と歯を食いしばっている琉那。

 それに対して、美羽はニヤけながらどこか勝ち誇っているように見えた。


「おい二人とも、今日はいい加減その辺にしとけ。そろそろ暗くなってくるだろうし、早く帰るぞ」


「「ごめんなさい……」」


 取り敢えず三人で並んで歩く時は俺が間に入ろう、そう心に誓って歩き出した。



※※※



 美羽を家まで送り、自分の家に帰った俺は一人で反省会をしていた。

 反省内容は‴柊木さん‴についてだ。


 同じクラスになったものの、喋りかける勇気が出なくて、まだ一度も喋っていない。

 単に、恥ずかしくて勇気が出ないってのもあるが、それだけではない。


 俺が好きになった柊木瑞希ひいらぎみずきは、冷酷姫とあだ名が付くほど冷酷無常で、自分に対して冷酷な対応をされたらと思うと、喋りかけに行くことが出来ないのだ。


 だが、明日の日直は、幸か不幸か俺と柊木さんだ。

 このチャンスを、逃すわけにはいかない。


 明日で絶対に仲良くなってやる……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る