第2話 幼馴染の難癖
「はーくん! こっちこっち〜!」
「ま、待ってよ〜」
え……誰?
これは幼い頃の俺と……
「遅いよ〜! 早くしないと置いてっちゃうよ〜」
目の前に映るシルエットの声は、間違いなく幼馴染である
小学三年生になってからは、ずっと美羽と一緒にいたから、これは小学三年生より前の俺だろう。
でも、このシルエットの声に全く聞き覚えはない。
一体誰なんだ。お前は……
※※※
「……ちゃん! お義兄ちゃん!」
「………………ん?」
「やっと起きた。早く準備しないと、学校間に合わないよ」
「そうか……ありがとう。
俺をいい夢(?)から覚めさせたのは、義理の妹である
彼女とは一年前に突然義理の兄妹になったが、何とか今では仲良くやっている。
「そういえば、今日入学式だったな。たくさん友達作れるといいな」
「うん!」
琉那は、今日から俺と同じ高校に通う新入生だ。
入学式まで時間はあるが、琉那は長くて綺麗な亜麻色の髪をもう既に整えていた。
「あっ、お義兄ちゃん。私、もう家を出るけど、今日は一緒に帰ろうね!」
「え……もう行くのか?」
現在時刻は七時半。
入学式は九時から始まる予定だから、今家を出てもただ待つ時間が長くなるだけだ。
「うん。友達と早く行こうって約束してるから」
「なるほど……行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
黄色いたんぽぽみたいな笑顔で手を振る琉那は、とても可愛かった。
いつもの如く可愛い琉那で目の保養を終え、顔を洗いに洗面所に向かい、ぴょんとはねた寝癖を直して、ぼんやりとした顔を洗う。
この一連は、琉那と仲良くなった今では習慣となりつつあった。
「行ってきまーす」
昨日のうちに用意しておいた荷物と、ジャムがのったパンを片手に家を出て、通学路を歩いていると、ふと昨日の美羽の言葉を思い出す。
『いつも晴が起こしに来てくれないからいけないんです〜』
「あんな事を言われたし、今日だけは迎えに行ってやるか……」
美羽の家に行くには、学校に向かう最短ルートを少し遠回りしなければならない。
少しだけ遠回りになるだけで、学校までかかる時間は大して変わらないが、それはそこまで問題ではない。
一番の問題は、起きてすぐの美羽の行動だ。
寝ぼけている美羽は、一言で表すと、甘えん坊の子犬だ。
私が起こしに行っても起きないから、と美羽のお母さんに頼まれて、前に何度か美羽を起こしに行ったことがある。
渋々美羽を起こしに行くと、揺さぶって起こそうとした手を掴んで、自分の頬にすりすりと擦り付けてきたのだ。
それに加えて、強引にベッドに引っ張ってくることもある。
俺は性欲を抑えるだけで精一杯になり、それ以降美羽を起こしに行くことはなくなった。
「今日もあんな事をしてきたら、もう何を言われても起こしに来ないからな」
持っていたジャムがのったパンを頬張りながら歩いていると、美羽の家が見えてきた。
「ふぅ〜〜〜」
美羽の家に着き、一度深呼吸をした。
そして、美羽を起こす時のシミュレーションを始める。
まず、揺さぶって起こそうとする手を掴んで、自分の頬に擦りつけてくるのは間違いない。
掴んでくる手を払って、強引に掛け布団をはぐ。
これなら朝は冷え込んでいるし、寒くて起きるだろう。
「よし……! 完璧だ!」
完璧なシミュレーションを終えて、インターホンを鳴らすと、美羽のお母さんが扉を開けて出てきた。
「あら、
「まあ、一応……」
「ありがとう! でも、まだあの子起きていないの……私が起こしに行くより晴也くんが起こしに行った方がすぐ起きるだろうから、代わりに起こしに行ってくれないかしら」
「わかりました。任せてください」
正直、可愛らしい美羽の寝顔を見たいと思っている気持ちもあるが……
(いや、美羽を起こしに行くのは、ほとんどそれ目当てなのかもしれない)
美羽の家に入ると、爽やかで甘いローマンカモミールの華やかな香りが鼻孔をくすぐった。
いい匂いに心満たされながらも、美羽が寝ている部屋に着き、もう一度深呼吸をした。
「今日は絶対に、何もされずに起こしてやるからな!」
覚悟を決めて美羽の部屋に入ると、スースーと寝息をたてながら、ベッドで寝ている美羽の姿があった。
やはり美羽の寝顔は、起こすのが勿体ないくらい可愛い。
「……おい、美羽。起きろ。もう朝だぞ」
「んん…………」
ガサガサ……ガシッ。
予想通り、揺さぶって起こそうとした手を掴まれた。
しかしその手を振り払い、強引に掛け布団を引き剥がす。
よし! シミュレーション通りにいった!
「…………って、あ!?!?」
シミュレーション通り、掴まれた手を振り払って、強引に掛け布団を引き剥がした。ここまではいい。
だが、全く予想だにしていなかった出来事が、今まさに目の前で起こっている。
「お前! その格好……!」
なんと、美羽のパジャマが
幸か不幸か胸はしっかり隠れている。
「え……? あ、晴じゃん。おはよ〜」
「おはよ〜、じゃねぇ! 早く見えてる肌を隠せー!」
「ん〜、別に晴になら見られてもいいよ〜。だって……見慣れてるでしょ?」
頬を赤く染めながら、上目遣いで見てくる美羽。
「ご、誤解を招くことを言うな! それは小さい頃によく見ていたからだろうが!」
「否定、しないんだ……」
「し……しょうがないだろ。事実なんだから」
や、やばい!
学校に行く前なのに、恥ずかしすぎて死にそう!
「と、とにかく! 学校行くから早く準備しろ」
「う、うん……わかった……」
そうして、美羽の準備が終わるまで、美羽のお母さんと久しぶりに雑談をして時間を潰して、準備を終えた美羽と俺は、学校に向かった。
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