第12話 秘密の作戦会議

 放課後、とある喫茶店では秘密の作戦会議が行われようとしていた。

 その喫茶店の中には、他の客は一人もおらず、店内の空気は静まり返っている。

 秘密の作戦会議をするには、打って付けの場所と言っていいだろう。


 ちなみに作戦会議に参加するメンバーは、晴也はるやの幼馴染である桃井美羽ももいみはねと、晴也の義妹である九条琉那くしょうるなの二人である。


「琉那ちゃん、今日は私の呼びかけに応じてくれて、ありがとう」


「いや……応じたも何も美羽さんが強制的に、私をここまで連れ出したんじゃないですか」


「え〜? ちょっと何言ってるかよく分からな〜い」


 美羽と琉那は恋の好敵手ライバルとして、お互い敵対視している。

 そのことを理解している上で、美羽は琉那を作戦会議に誘ったのだ。


「……で? 一体何の作戦会議をするんですか?」


 琉那はまだ、この作戦会議がどんな意味を持って行われているのか、知らされていない。


 「作戦会議をするから、とりあえず付いてきて」としか言われていなかったのだ。

 琉那は最初は面倒くさいという理由で断ったのだが、美羽があまりにもしつこく突っかかってきたため、やむを得ず承諾し、ここまで付いてきたのである。


「突然だけど、琉那ちゃんって晴の事好きだよね?」


「本っ当に突然ですね!? ……まあ、はい。好きですけど」


「私も晴の事は好き、いや大好きかな。もう結婚したいくらい。琉那ちゃんもそうでしょ?」


 この二人が晴也に抱いている感情は、ライクではなくラブの方の好きである。

 そんなのは、もちろん二人とも元から知っている。

 そのせいで、今は恋の好敵手ライバルとして、お互い敵対視しているわけだし。


「え、ええ……まあ」


「でも、晴には好きな人がいる」


 そう、美羽と琉那の思い人である晴也には、既に好きな人がいる。

 その名前は、柊木瑞希ひいらぎみずき

 周りからは冷酷姫と呼ばれている、学校一の人気者だ。


 一部の女子には気に入らないと言われているが、恐らく学校の男子のほとんどは、彼女に惚れているだろう。

 中には、冷酷な言葉を浴びせられるのがご褒美だと言っている人もいるらしい。


「実は昨日ね――――」


 美羽は琉那に、昨日あったことや今日あったことを包み隠さず全て話した。

 美羽とのデート中に晴也がとった行動や、あの写真のこと、そして今日気づいてしまったことも。


「美羽さんって、本当に大胆ですよね。あとでお義兄ちゃんにはその写真を消してもらわないと……」


「琉那ちゃんは逆にもっと大胆にならないと、晴は振り向いてくれないかもよ?」


「私にアドバイスですか、随分と余裕ですね。今の話だと、お義兄ちゃんは‴両思い‴かもしれないんですよ?」


 美羽はもちろん全然余裕などではなかった。

 むしろ逆で、かなり焦りを感じている。


 両思い――すなわち、どちらかが告白してしまえば、二人は結ばれてしまう。

 それだけは美羽、そして琉那も避けなければならない。


「そう、だから今日は‴作戦会議‴というより‴提案‴をしようと思って、琉那ちゃんを呼んだの」


「提案……?」


「うん。私たちはこれまでずっとお互い敵対視してきたでしょ? でも新たに強敵、いや、ラスボスと言っても過言ではない相手が出てきてしまった。だから、琉那ちゃんとは一時休戦して、私と協力関係になってもらいたい」


 この提案は、琉那にとって悪い提案ではなかった。

 それに、美羽相手でも厳しい今の状況で、さらに強敵が現れたとなると、琉那にはもう勝ち目がないため、この提案を断る理由はどこにもない。


「その協力関係っていうのは、‴二人の邪魔をする‴のに協力して欲しいってことですか?」


「うん、まぁそんな感じかな。理解が早くて助かるよ」


「分かりました。でも、本当にいいんですか? てっきり美羽さんは、私の事が嫌いだと思ってたんですけど」


「私から誘ってるんだから、いいに決まってるじゃん! でも安心した〜! 私の事が嫌いだからって理由で、断られる可能性も視野に入れてたから」


 確かに琉那の言う通り、美羽は琉那の事が大嫌いである。

 但し、大嫌いなのは琉那の人間性ではなく、晴也を取り合う相手としてだ。


 そして、琉那も美羽の事が大嫌いである。

 美羽と同じ理由で、というのは言わなくても分かるだろう。


「利害は一致しているし、断る理由なんてどこにもありませんよ」


「確かにそうだけど……あ!! 琉那ちゃん琉那ちゃん! 連絡先交換しよ〜!」


 二人はずっと前から知り合いだったものの、連絡先を交換していなかった。

 その理由としては、敵対している相手の連絡先を持っていても、連絡は一切しないだろうし、何か用事があったとしても、晴也を通して伝えればいいと思っていたからだ。


「いいですけど……」


 二人は同時にメッセージアプリを起動し、連絡先が交換されたことを確認する。


「私は晴の家での行動とか分からないから、不審な行動を見せたらすぐ連絡して〜! 何の用事もなくて暇だったら、すぐ家に向かうから!」


「了解です。家での事は任せてください!」


「……あ〜、それと出来れば敬語はやめて欲しいな。これからは対等な立場で、仲間なわけだし」


「美羽さん……それはさすがに……」


「さん付けも禁止!!」


「えぇ……」


 だって、仲間なのに敬語なんて変じゃん! と言って、赤く染めた頬を膨らませる美羽。


「じゃあ……美羽、ちゃん……?」


「それならお〜け〜!」


「は、はぁ……」


 琉那は美羽に少し呆れつつも、ふと外を見ると、既に日は沈み、真っ暗になっていた。

 現在時刻は午後七時半過ぎ。

 この喫茶店に来てから、約二時間半が経過している。


「そろそろ帰らないと……」


「そうだね〜。じゃあ、作戦会議はこれで終了!」


「……あ、美羽ちゃん。分かってると思うけど、今日のことは誰にも知られちゃいけないからね? 特にお義兄ちゃんと柊木先輩には」


「分かってるから大丈夫だよ〜」


「本当かなぁ……」


「え、私そんなに信用されてないの!?」


「…………」


「酷い!」


 斯くして、美羽と琉那の間には協力関係が築かれ、秘密の作戦会議は終了した。

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