第13話 身の回りの異変
最近になって、俺の身の回りでは一つ変わったことがある。
元々は目立たず、注目を浴びる存在ではなかったが、昨日の出来事によって、全て変わってしまった。
幼馴染である
あの一悶着さえなければ、俺は今も平穏な日々を送っていたはずなのに……
「おい、まさかあいつの事か?」
「なんであんな冴えない男なんだよ!」
「めっちゃイケメンだったら諦めてたけど、あれなら大丈夫そうだな!」
今日は学校に来てからずっと、休み時間になれば学校中の男子から罵声を浴びせられている。
酷いよ。俺、君たちに何かしたっけ……?
もうやめて! 僕のライフはとっくにゼロよ!
……ぐすん。
そして、本日五回目となる罵声を浴びせられる時間、昼休みに突入した。
四回も同じことをされれば、少しは慣れてくると思ったが、全然慣れなかった。
そんなわけで、昼休みになった瞬間、教室から逃走した。
「これからどこで昼飯食べようかな……あ痛っ!」
ぶらぶらと歩いていると、突然頭に何かが当たった。
「紙飛行機……?」
俺の頭に当たったのは、綺麗に折られた紙飛行機。だが、この紙飛行機を投げたであろう人物は、周りを見回しても見当たらない。
廊下を歩いているだけで紙飛行機をぶつけられるって、もういじめやん……ぐすん。
床に落ちている紙飛行機を拾って捨てようと思い、両膝を曲げて腰を下ろすと、ある事に気づいた。
「あれ……? 何か書いてあるな」
綺麗に折られた紙飛行機には、女子が書いたであろう可愛い文字で『中を見てください』と書かれてある。
恐る恐る開いてみると、それは予想外の人物からの手紙だった。
『
屋上に来てください。 柊木瑞希』
おいおいマジかよ。
こんなの行く以外の選択肢ないじゃん。
この手紙はもしかしたら、俺に恨みがある奴の仕業かもしれない。その確率は無きにしも非ずだ。
でも、もし仮に本人からの手紙だった場合、指示に従わずに、屋上に行かなかったら間違いなく嫌われる。
それなら、どう考えても屋上に行った方がいいに決まっている。
「まあ、もしもの時にはすぐに逃げればいいしな」
屋上に向かっている最中、俺は浴びたくもない注目を浴びていた。
今まで一度も話したことがないのに話しかけてくる男子は多いし、ただ廊下を歩いているだけなのに、めっちゃ見られるし。
もうこの上なく最悪である。
こんなことを今までずっとされてきた柊木さんは、もう慣れているのかもしれない。本当にすごいと思う。
俺だったら、間違いなく学校に来るのが嫌になってしまうだろうな。
この現状について色々と考えていると、いつの間にか目的地である屋上に行くための階段に着いていた。
「ちょっとドキドキしてきたな……」
目の前にある階段を上れば、そこには柊木さんが待っている。
そう信じて、コツコツと階段を上っていく。
「あ、九条くん!」
階段の上で声を上げた主は、階段に腰掛けている柊木さん本人だった。
よかった……俺に恨みがある奴の仕業じゃなくて。
「遅れてごめん。待った?」
「全然待ってないわよ。ちょうど今来たところだから」
「そうなんだ、それなら良かったよ」
「まあ、とりあえず座って」と、自身の隣に腰掛けるよう催促する柊木さん。
隣に座れること自体は嬉しいし、むしろこちらからお願いしたいくらいだが、距離が近すぎて妙に鼓動が高鳴っているのがバレないか心配だ。
「ああ、うん」
座らないと座らないで不審がられる可能性もあるため、結局柊木さんから少し距離を置いた場所に腰を下ろした。
「えっと……まずはその、九条くんに謝りたくて……」
「え、どうして?」
俺は柊木さんに、謝られるようなことをされた覚えはない。
それに、男子に対して冷酷な言葉を浴びせるあの冷酷姫が、男子に謝る姿を誰が想像できただろうか。
「だって……今色々と罵声を浴びてるのって、私のせいなんでしょ?」
「いやいや、柊木さんのせいじゃないよ。だからそこまで気にしなくて大丈夫だよ」
ならよかった、とほっとしたのか、柊木さんは胸に手を当てている。
「あ、そうだ! 今日はこんな暗い話をするんじゃなくて、今度の休みの予定を立てようと思って呼んだの」
「なるほど……」
元々は先週の日曜日に遊ぶ約束をしていたのだが、来週に延期して欲しいという柊木さんの要望により、延期されてしまった。
それは、今度の日曜日である。
「私は九条くんの家に行ってみたいのだけど」
「…………はい?」
「だーかーらー! 九条くんの家に行ってみたいと言ってるの!」
「いや、聞こえてますけども……」
なんで柊木さんが俺の家に……?
幼馴染である美羽は別として、柊木さんを家に上げるのはさすがにやばい。
義妹である
「いいの!? ダメなの!?」
「いや、ダメだけど!?」
舌打ちをしてから「けち!」と小声で言う柊木さん。
最近、柊木さんのこともよく分からなくなってきている。
学校中で冷酷姫と呼ばれている柊木さんだが、俺はまだ一度も冷酷な言葉を浴びせられていない。
やっぱり、日直の時に助けたことがきっかけなのだろうか。いや、それ以外に考えられない。
柊木さんのことが好きな俺にとっては、そんなことで仲良くなれたのは好都合でしかないけど。
「まあ、まずは映画とかが無難だと思うよ」
「そうね。じゃあ、日曜日に!」
「ああ、分かった」
今度の日曜日は、親睦を深めるのが目的らしいし、そこまで緊張する必要はない。
好きな人と遊ぶのを、ただ楽しめばいいのだ。
「じゃあ、そろそろ教室に戻ろうか。俺はここで少し待ってから行くから、柊木さんは先に行ってくれ」
「分かったわ。確かに二人で教室に戻ったら、また色々と言われるもんね。じゃあ、また後で」
「ああ」
教室に向かって歩きながら手を振ってくる柊木さんに手を振り返し、五分ほど待ってから俺も教室に向かった。
しかし、その時の俺は気づかなかった。
今までの俺と柊木さんの言動を、壁から覗き見ていた一つの影に。
そして、その影は‴協力者‴と記された連絡先にメールを送信した。
『今日の夜、少し時間を貰えるかな?』
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