第8話 幼馴染と過ごす一日 ①

はる〜、今日は楽しみだね〜!」


「ああ、そうだな」


 俺と幼馴染である桃井美羽ももいみはねは今、電車に揺られている。


 今日は美羽と過ごす一日で、改装して開店したばかりのショッピングモールに行く予定だ。

 色々な店に連れ回されるのは分かっていたが、今日は服をメインに買いたいらしい。


 俺はその荷物持ちとして来ている、というのは建前で、美羽の色々な服を着た姿を見たいだけだ。


 何度か美羽のファッションショーに付き合わされたことがあるが、美羽はどんな服でも似合ってしまうため、見ていて飽きないし、こちらとしても目の保養になる。


 しかし、結構前にファッションショーに付き合わされた時に「晴に選んで欲しい」と言われた。

 そのため、俺が選んだ服を試着することが何度かある。


 俺、ファッションセンス皆無なのに……


 美羽は明るい性格だから、男女ともに友達は多い。

 だから女子同士で服を選んだ方がいいのではないか、と思ったのだが、「晴がいいの!」らしい。

 どうしてそこまで俺に固執するのかは分からないが、美羽の色々な姿を見れて、俺としてはかなり得をしている。


「うわ……すごいな」


「中どうなってるんだろ。テンション上がってくるね〜!」


 ほどなくして目的地に着き、二人して改装したばかりのショッピングモールに感嘆の声をあげた。

 改装したとは聞いていたが、前まであったショッピングモールとは何もかもが変わっていたのだ。


 元々あったショッピングモールは古すぎて、最近となっては若者は消え、老人しか利用しない場所と化していた。

 しかしその姿はどこにもなく、古さは消え、開店前から外には子供連れの家族やカップル、中高生等の大行列ができていた。


「……これより開店しま〜す!!」


 ちょうど長蛇の列の最後尾に並ぶと、女性店員さんの透き通った声が聞こえてきた。

 その声と同時に、長蛇の列はどんどん店内へと入っていき、俺と美羽もすぐに店内に入ることができた。


「すごい! 全然違う!」


「ああ……中にあった店も結構変わってるな」


「だよねだよね! 早く回ろ!」


「おう」


 午前はどこに何があるかの把握、午後は目星をつけたお店に行く。

 このような感じで一日を過ごすことに決めた俺たちは、早速一階から順に店内を見て回り、いくつかのお店に目星をつけていった。


 ちなみに、美羽が目星をつけたお店は服専門店が多く、俺が目星をつけたお店は本屋だけだ。

 一通りショッピングモール内を見て回ると、いつの間にか昼過ぎになっていた。


「お昼はここで軽く済ませよ!」


 美羽が選んだのは、一階のフードコート内にあるハンバーガーショップ。

 昼過ぎということもあり、フードコートはかなり繁盛していたが、なんとか一席確保することができた。


「私はチーズバーガーのセットにするけど、晴はどうする?」


「んー、どうしよ」


「お腹すいたから早く決めてよ〜」


 悩みに悩んだ末、結局俺は美羽と同じチーズバーガーのセットを頼み、美羽と向かい合って席に座った。


 それからは食べながら今後の予定を立て、食べ終わったらまず最初に、美羽のファッションショーをやることに決まった。

 ちなみに、俺が行きたいと思った本屋は最後だ。


「とりあえず二階に行こ! 服屋は二階に集まってるみたいだし」


 食べ終わって、二階に向けて歩き出すと、美羽が「早く!」と催促しながら俺の手を引いた。

 リードするのは男子の役目なはずなのに、女子にリードされるって……男として恥ずかしい。


 そのまま美羽にリードされながら歩いていると、五分ほどで最初の目的地である服屋に着いた。


「晴は試着室の前で待ってて! 私はとりあえず気になる服を何着か選ぶから!」


 一緒に見て選んだ方がいいと思うのだが、美羽曰いわく、「着てみてからのお・た・の・し・み」ということらしい。

 当の本人は、楽しそうにフンフンと鼻歌を歌いながら服を選んでいる。


「あいつ、服選ぶ時はいつもすごく楽しそうだよな。一体何を考えてんだか……」


「……晴! とりあえず、二着いいのあったから試着するね!」


「お、おう」


 試着室の前で待つこと数分、美羽が入っている試着室のカーテンが開いた。


「…………破壊力やば」


 試着室の中にいた美羽は、白色のシャツの上にベージュ色でチェック柄のテーラードジャケット。ジャケットの色に合わせた膝上丈スカートを見事に着こなしていた。

 特にベージュ色でチェック柄のテーラードジャケットは、肩まで伸びた綺麗なダークブラウンの髪によく似合っている。


 元々着ていた白色のシャツに黒色のデニムスカート。その上に白色のキャップをかぶっているだけでもすごく可愛かったのに、今の美羽の服装はそれを遥かに凌駕する可愛さがあった。


「えへへ……実は私、こういう服持ってないんだよね〜」


「すごく似合ってるぞ。そしてめっちゃ可愛い」


「ありがと……次のはもっとすごいから期待しててね」


 今の姿よりもすごくなることなんてあるのか!?

 え、めっちゃ期待してます! ありがとうございます(なんでやねん)!


 美羽は悪戯いたずらっぽい表情を浮かべながらそう言って、試着室のカーテンを閉めた。

 今の姿がもう見れないとなると、少し悲しい気もするが……


「どんな服なんだろうな……」


 悲しさよりも、次の服装への期待の方が強い。

 美羽は清楚系な服装を好むから、次もその線が濃厚だ。

 やばい……考えるだけで頭が沸騰しそうだ。


「晴〜、準備はい〜い?」


「お、おう……!」


 先程のお披露目の時のカーテンが開くスピードよりも、若干遅いスピードでカーテンが開いた。


「どう、かな?」


 試着室から出てきたのは、水色のオフショルダーに白色の短パンを着ながら、頬を赤く染めた少女。

 谷間がちらりと見えていて、綺麗な真っ白な太ももが見えている。


 今気づいたけど、美羽って結構胸大きいのか!?

 カップサイズについてはあまり詳しくはないから分からないが、かなり大きい方だというのは、見て分かる。


「お、お前……その格好は……」


「えっと……変、かな?」


 頬を赤く染めて、人差し指で髪を弄びながら聞いてくる美羽。


「変じゃないけど……」


「じゃあ、何?」


「その格好は心臓に悪いし……それに、お前だって肌の露出はあまりしたくないって言ってただろ」


 そう、それは去年、夏用の服を買いに行った時に言っていたことだ。

 外で色々な人に自分の肌を見られたくないから、ということらしい。

 まあ、大体の女の人はそうかもしれないが。


「でも今は晴しか見てないでしょ? あと、この格好をしたのは今日付き合ってくれたご褒美。一枚だけなら写真、撮ってもいいよ?」


 上目遣いで見てくる美羽は、胸も見えているからかすごく可愛かった。

 それはもう、写真に収めたいくらいに。


「本当にいいのか……?」


「え、う……うん」


 パシャリ。


 俺のスマホの画面に映った美羽の姿。

 それはもう……


(何これ、めっちゃ可愛いじゃん。一生の宝物にしよっと)


 絶対に義妹である九条琉那くじょうるなに見つからないように。そして、何があってもこの写真を守ると、心に決めたのだった(我ながらめっちゃキモイな)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る