抗えない血筋

バブみ道日丿宮組

お題:漆黒の闇に包まれし潮風 制限時間:15分

抗えない血筋

「なぁどうしてお前に風の名前がついてると思う」

 その声に少女は振り向きざまに蹴りを、

「そんなのあんたの勝手に決まってるでしょ」

 片手で封じる。

 戦闘訓練をさせたがここまできちんと身にしみてるとは血筋とは凄いものだ。

「まぁそんな野暮にすんなよ、育ての親であり、名付け親でもあるんだぞ」

「……あとあたしを社会に戻せなくもした」

 昔のことだ。

 こいつの友だちが誘拐されて、暴走して殺戮色に染まった存在を漆黒に隠すには闇に染めるしかなかった。

 こうならないでくれと、生みの親には頼まれたんだけどな。

「あたしは助けなんていらなかった。友だちはもう……あたしを誰だかわからなくなってた」

 俺が駆けつけた時、こいつはもう誘拐犯を全員倒し終えて友だちを救えてた。ただ、心だけは取り戻すことはできなかった。

 今もまだ病院のベッドの上で記憶障害が続いてるとの話だ。

 裏の裏に手を回し、こいつに害が及ばないように医者には交通事故にあったと救急車に運ばせ、死体も処理させた。

 そうしてる間にこいつは他のグループも破壊しに行ってたんだから、驚きだ。

「潮風のように元気な娘になって欲しい。僕たちが兵士として戦った汚い大人の世界に入ってこれないようになるように」

 そういって笑った二人は戦争に行って帰ってこなかった。

 戦死とは言われてない。

 今もどこかで戦い続けてる。俺はそう思ってる。

 それぐらいに二人が異常だった。

 だからこそ、二人は娘が自分と同じような異常にならないように裏でもまだ軽い俺を頼った。

 ……はずだったんだがな。

「わかってる。でも、もう戻れない」

「まだ、転校してやり直すことはできるんだぞ?」

 拳が今度は飛んできた。

「あたしのせいで友だちを1人失った。大好きだったあの環境はもう戻ってこない」

「だがやった奴らもいなくなった。違うか」

「違くない。あたしは母さんたちがいってたこには今更なれない」

 受け止めた拳を引き戻すと彼女は自分の手を見つめた。

「手の感触はまだ消えないし、おじさんの手伝いを続ける以上どんどん慣れてく」

 感情の制御だけはまだ怪しいところはあるが……あの二人以上の怖さを戦場で見せる。そして危うさも。

「わかった。俺もこれ以上は言わない。だから、違う風になれ」

「違う風?」

 少女は虚ろな目をこちらに向け、首を傾げる。

「潮風というのは、本来はいいものだ。お前が目指すような漆黒の闇じゃない。それはお前のお父さんもお母さんも望んじゃいない。いや、今は俺はお義父さんではあるか」

 まぁいいか。

「光を忘れるな。人を引き込める潮を作れる風になれ」

「なに? 遺言?」

 葵色の瞳がきらりと光る。

「おじさんまでどこかにいかないでよ」

「……わかってる」

 抱きしめてきた彼女の身体は震えてた。


 たったさっきまで、ここで10人もの人を亡き者にしたのだからーー当然だ。


 未熟さがあるうちはまだ変われる。

 それが人だと俺は思ってる。

「……ふぅ」

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抗えない血筋 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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