【戯曲】夢想前景

四景

四景

星夜

波の音

マミミ泣いている

カムパネルラやってくる

カムパネルラは視覚を失っている

カムパネルラ　潮の匂い。永遠の孤独と引き換えに得た柔和な抱擁。僕はよかった。涙の声。誰か泣いているのかい。

マミミ　貴方は誰？

カムパネルラ　名前は忘れてしまった。僕のことはなんとでも呼べばいいよ。

マミミ　かわいそう。名前がないなんて。そんなの幸せじゃない。

カムパネルラ　そんなのかな。僕は今幸せだよ。

マミミ　私は辛いよ。

カムパネルラ　何があったんだい。

マミミ　何処を探してもカムパネルラがいない。

カムパネルラ　カムパネルラ？　それは僕の親友だ。

マミミ　本当？　何処にいるの彼は。

カムパネルラ　彼は死んだ。

マミミ　死んでない。生きてるよ。

カムパネルラ　確かに死んだ。この目で見た。

マミミ　貴方、目が見えないのね。

カムパネルラ　今の方が随分見える。君がとても美しいこともわかる。

マミミ　私ブスだよ。

カムパネルラ　美しいよ。

マミミ　ブス。

カムパネルラ　カムパネルラ。

マミミ　見つからないのよ。

カムパネルラ　僕も一緒に探そう。

マミミ　目がみえないのに？

カムパネルラ　見えないからこそさ。

マミミ　意味わかんない。

電車の汽笛

マミミ　銀河鉄道。

カムパネルラ　銀河鉄道だって。それは愉快だ。

マミミ　私、あれに乗って此処に来ました。

カムパネルラ　僕もさ。懐かしいなぁ。綺麗だなぁ。

カムパネルラ涙を流す

マミミ　悲しいんですね。

カムパネルラ　歓喜だよ。

マミミ　よくわかんないけれど。

カムパネルラ　こうしてはおられない。早く探しましょう。カムパネルラさんは何処かにいる。ならば探さないと。

マミミ　ありがとう。

二人手を繋いで退場

ザネリとジョパンニそれぞれ反対方向からやってくる

ザネリ　ジョパンニ。ジョパンニよね。どうしてそっぽむくの。こっち向いてよ。

ジョパンニ　やあ。

ザネリ　そっけないのね。あんたって人は。

ジョパンニ　人違い、だ。

ザネリ　欺けるなんて幼いわ。貴方はジョパンニよ。

ジョパンニ　あぁ。なぜ君が。

ザネリ　貴方こそどうして。これじゃ私が馬鹿みたいじゃない。

ジョパンニ　どうして。

ザネリ　詮索しないで。ばか。

ジョパンニ　ごめん。

ザネリ　なんで謝るの。

ジョパンニ　なんとなく。

ザネリ　ばか。貴方って人は変わらないのね。

ジョパンニ　はい。

ザネリ　ちょっとそっけなさすぎよ。

ジョパンニ　カムパネルラを知らないかい。

ザネリ　貴方も探しに来たのね。

ジョパンニ　女の子と逢ったのか。

ザネリ　貴方の彼女？　えらく若い女の子引っ掛けてどうするつもりなの。

ジョパンニ　そんなんじゃないよ。

ザネリ　なに？　若い女の子の尻追っかけてようやく重い尻をあげたのこのむっつりスケベ。

ジョパンニ　うーん。

ザネリ　哀しい。

ジョパンニ　ごめん。

ザネリ　謝らないで。

ジョパンニ　ごめん。

ザネリ、ジョパンニに近づいて顔を撫でる

ザネリ　変わらないのね。貴方は。

ジョパンニ　変えられなかった。笑ってくれ。

ザネリ　誰が笑うものか。笑わせるものか。

ザネリ離れる

ザネリ　貴方はそのままでよかった。何故、こっちへ来たの。どうして。

ジョパンニ　人は変わる生物だからさ。

ザネリ　貴方は貴方でよかったのよ。なぜ。

ジョパンニ　みんな変わっていく。でも変わらないモノもある。だからいきていられるんだ。

ザネリ　そんなこと知らないわ。これから貴方は変わっていく。そんなとき、私はどうしたらいいのよ。

ジョパンニ　笑えば、いいと思う。

ザネリ　そんなの戯言。

ザネリ、ジョパンニが来た方向へ退場

ジョパンニ　カムパネルラ。

カムパネルラやってくる

ジョパンニ　カムパネルラなのか。

カムパネルラ　カムパネルラ。カムパネルラがいたのか。やった。お嬢さん、カムパネルラだよ。よかったね。

ジョパンニ　僕はジョパンニ。

カムパネルラ　君はジョパンニ。じゃあ誰がカムパネルラ？

ジョパンニ　君だ。

カムパネルラ　僕だって？　そんなまさか。

ジョパンニ　でも君は確かにカムパネルラだ。

マミミやってくる

マミミ　あら。ジョパンニさん。お久しぶり。

ジョパンニ　やぁ。君はカムパネルラと出逢ったんだね。みつけたんだね。

マミミ　どういうこと？

ジョパンニ　カムパネルラじゃないか。

マミミ　うそ。このおじさんが。

カムパネルラ　みんな冗談はやめてよ。カムパネルラが僕だなんて。そんなの嘘さ。ごめんさ。

ジョパンニ　カムパネルラ。辛いことがたくさんあったんだね。

ジョパンニ近づいて手を握る

ジョパンニ　君は頑張りすぎだよ。時には立ち止まって空でも眺めて、あぁ星は綺麗だってときめくことも必要さ。

カムパネルラ　僕が、僕が。

マミミ　あぁ悲しいよ。どうして。何故。

ジョパンニ　カムパネルラ。これからはずっと一緒だ。君の苦しみは僕は引き受けるよ。君はこれ以上苦しまなくていい。僕が代わりに苦しんでやる。君にはいつまでも輝いて欲しいんだ。ずっと。ずっと。

マミミ　ジョパンニさん、貴方はどうすんですか。

ジョパンニ　僕はいいんだ。

ザネリやってくる

ザネリ　カムパネルラ。

マミミ　ザネリさん。

ザネリ　貴方は私から何もかも根こそぎ取るつもり？

ジョパンニ　ザネリ、一体どうしたんだ。

ザネリ　ジョパンニ、貴方は首を突っ込まないで。

マミミ　みんなで手を繋ぎましょう。それが一番。

ザネリ　嫌だ。

ジョパンニ　もう何も悪いことはないんだ。ザネリ。どうしたんだ。

ザネリ　私のことは放っておいて。

カムパネルラ　ザネリ。

ザネリ　カムパネルラ。

カムパネルラ　君は悪くないよ。独りで苦しまないで。

マミミ　そうだよ。みんな。自分で自分を苦しめないでよ。ハッピーエンドはみんなで手を繋ぐこと。

ザネリ　私そんなのできないよ。

ジョパンニ、ザネリに近づき手を繋ぐ

ザネリ　ジョパンニ。

ジョパンニ　これからはみんなで過ごそう。帰ろう。僕たちの街へ。幸せになろうよ。

暗転

幕