『ふだらく移住計画』

やましん(テンパー)

『ふだらく移住計画』


 『これは、あくまで、フィクションです。』



        


 27世紀の世界は、内海世界と、外海世界に分割されていた。


 これは、便宜上の言い方で、さほど深い意味はない。


 太平洋を中心とする世界は、内海世界。


 大西洋を中心とする世界は、外海世界。


 というわけで、圧倒的に優位にあった内海世界側が、勝手に言い出しただけである。


 内海世界は、はるかな深宇宙からやってきて、長きにわたった、宇宙ごきによる地球支配を打ち破り、地球を解放したとされる、英雄であるところの、地球名、ピース連星神聖宙人、の協力による統治が行われていた。


 彼らは、真の姿を見せることはないが、この宇宙を作る、『あらゆる力』を統制できる技術を持つ。


 ブラックホールさえ、自由に活用しているらしい。


 ブラックホール内には、かれらの高級別荘が沢山あるのだとも言われる。


 地球人類は、見ることさえも、できないのだが。


 つまり、彼らは、事実上、神様に近い。


 実際に、内海世界は、彼らを神様として、うまやっている。


 その代償として、内海世界人は、すべての病気を克服し、老化を極限まで遅らせて、長く幸せな人生を送るのだという。


 一方、外海世界人のぼくたちは、旧態依然とした、地球文明の流れを辿っている。


 破れた宇宙ごきは、かなりの昔に、すでに去っていったが、彼らは、時の皇帝の性格にもよって、振幅はあったが、比較的、地球文明を破壊しない方針だったようだ。


 だから、いまの、ぼくらの生活があるわけだが。


 ぼくらの人生は、いまだに、平均120年ほどである。


 ある日、ぼくは、大学の直接の上司に当たる、ワン・ランメン副教授に呼ばれた。


 音楽学者でありながら、地球歴史学者でもある、多才な人だ。


 『きみ、《ふだらく移住計画》の話しは、知ってるかね。』


 『内海人たちが、計画している、宇宙移住計画ですか。外海政府の、『内海情報』に載ってましたが。』


 『ああ、そうなんだ。ところが、内海政府は、外海人の参加も呼び掛けるつもりらしい。ある、信頼できる政府筋から聴いたんだが。』


 信頼できる政府筋というのは、奥さんのことらしい。


 外海政府の、かなりな、高官であるが、進歩派に属している。


 『行かないでしょう、だれも。そんなの。』


 『うん。しかし、外海政府は、内海政府に頭が上がらないからね。ある意味、強制的に、ただし、表向きは、出願制で、一定数を選出することになりそうなんだ。でも。』


 『でも?』


 『こいつは、アヤシイとみた。君は、ニホン地域の前古代から、古代、つまり、江戸時代と呼ばれる時期まで、補陀落渡海という、一種の宗教行事があったことは、知ってるかい?』


 『ぼくは、先生と違って、異分野はわからないです。まして、そんな大昔は。ぼくの専門は、あくまで、古代音楽ですから。』


 『まあ、学者の中でも、あまり知られてはいないらしいがね。つまり、情報が隠されているから、だから、なのだが。』


 『やはり、いつものように、内海の仕業ですか。』


 『たぶんね。彼らは、宗教的なことには、外海世界人は関わらせない。外海人が、内海人以上の存在を認識しないためにね。そのくせ、内海政府は、さかんに、国民の、パート星人に対する信仰心を煽っているが。』


 『パートじゃなくて、ピースです。』


 『似たようなもんだ。』


 『はい、まあ。で、それは、なんですか?』


 『一般的には、当時のニホン地区の太平洋 岸から、舟を出すんだ。南方にあると信じられた浄土にむけて舟を送り出す。民衆を、浄土に送るための先導者として。だから、帰ってこられては、困る。』


 『ふうん。生け贄みたいな?』


 『趣旨は違うみたいだがね。まあ、結果的には、似たようなもんだな。江戸時代に、政府は禁令を出したらしいがね。最後は、1722年だったという。


 船出するときは、ちゃんと、水先案内の舟を付けて、沖合いまで間違いなく送り届けて、海流に乗せたらしい。


 まれに、琉球国に流れ着いて、生き残った例もあるという。


 その舟は、まあ、外洋に出るような舟ではなく、乗る人は、自発的に参加したというが、舟の上に建てられた小屋に閉じ込められる形になるらしい。自発的にといっても、人間のすることだからね、そりゃあ、厳しいだろう。20世紀には、小説化されたり、漫画にもなったらしいがね。いまは、外海政府資料館には、データが、あるらしいが、一般の閲覧はできないみたいだ。内海政府に統制されてるんだろう。問題は、移住計画の名称だ。『ふだらく移住』というのは、どうも、だから、怪しい。知ってる人は、今時、すくないがね。』


 『まあ、いかにも、内海政府らしいですが。』


 『うむ。まあ、宇宙移住だから、帰って来ないことが前提になるのは、解らぬでもないがね。移住先は、連中の聖地のひとつ、惑星『がら・くたー』なんだが。それが、なんだか、変だ。』


 『なぜですか?』


 『その惑星はね、聖地の中でも、特に、食事会を中心に行う場所なんだ。まあ、住んでるのも居るみたいだが、大体は、調理や、サービス関係者みたいだな。連中は、食事も、重要な宗教行事だと言うらしいが、ものすごく、はでに、飲み食いをするらしい。でも、密かに行ったぼくの調査では、連中は、人類も盛んに食べていると、思われる。毎年、全地球では、幅が広いが、10万から、100万人の範囲で、食糧にされてると、思われる。内海では、秘中の秘とされる宗教行事があるんだが、ぼくが見るところ、人類が共食いさせられてると疑うべき兆候さえある。まあ。そんなこと、公に言ったら、すぐ、クビだがね。クビですめば、ラッキーだな。たぶん、まもなく、政府が、別件で人集めを始めるだろうから、君には、良く気をつけてほしいんだ。目をつけられたら、はるか、むかしの、あかがみ、みたいにやっかいだから。』



 それから、しばらくして、確かに政府から手紙が届いた。


 『あなたを、新宇宙留学生として、派遣したく思います。これは、内海政府と、協力して実施する、画期的な留学制度です。なお、正当な理由で、辞退したい場合は、申し出てください。申し出がなく、出頭も連絡もない場合は、強制収容する可能性があります。詳しくは、『新宇宙留学課』にお尋ねください。回答期限は、2週間以内で、参加には、同封した書類に記入、返送してください。あなたには、新しい未来がまっているのです!』

 



 それから、ある深夜、ぼくは、副教授が用意した、小型宇宙挺に乗り、密かに、宇宙に脱出した。


 行先は、まあ、極楽浄土ならよいがなあ。


 実際は、大分昔に地球から出発した、古い移住船を、探そうと思う。


 まだ、近い宇宙を、さ迷ってるだろう。


 宇宙挺のスピードだけは、すごく、速くなったから。



        🚀


 

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『ふだらく移住計画』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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