テル

@yuuki_ya

テル

私はLINEに返信をするという行為が苦手だ。いや、LINEだけでは無い。TwitterもFacebookも、とにかく目の前に居ない人間に対して自分の気持ちを文字として伝えることがなんだか業務のように感じて好きではないし、なにより文面だけでは相手の本当の気持ちが読み取れない。

そんなことを考えていると竹内先輩から一通のLINEが入る。

「お前今何してる?」

とりあえずすぐに返信をせずに時間を置く。竹内先輩は高校の頃に濃密な時間を共にすごした先輩である。(こんな書き方をすると誤解されそうだがただの部活の先輩ってだけ)竹内先輩という人物は口が悪い上に暴力も振るう、それに加え自分勝手自己中心的で、何度も喧嘩をして心の広い私でさえ初めて殺意を覚えたほどだが、何やかんやで気が会うのでこうして今でも連絡を取っている。

LINEが届いて20分、私の返事が無いことをもどかしく思ったのか電話が掛かってきた。私はすぐに電話に出る。

「もしもし。」

電話は好きだ。相手の声色がリアルタイムで伝わってくる。目の前に居ない人間とリアルタイムで声色を通して時間を共有し話題を提供できるのだからエジソン様様である。より良い方法は常に存在している。私はLINEなんか要らなくって、電話で充分に満足している。

「お前さ、いつ暇?」

「今週の金曜日は暇ですよ」

「あ〜じゃあ無理だ。半年後に試験控えてるから毎日大学あるんだよな、お前みたいに暇じゃないからさコチトラ」

なら聞くなよ。しかしここで心の声を漏らしてはいけない。過去に自分の気持ちを素直に伝えて竹内先輩と大大大喧嘩したのをトラウマに持っている。あくまでも「寂しいです」って(上辺かもしれない)気持ちを相手に0.01mmでも伝える事がコミュニケーションを円滑に進めるポイントだ。

「寂しいです。モデルとして私の作品に登場して欲しかったので、写真も撮りたかったのですが…」

寂しいまではちっと盛り過ぎたが後半は本当に素直な要件を伝えることが出来た。すると竹内先輩は情けなく「えっ」と言った後に「お前の作品なんかに登場されてたまるか」とやけに嬉しそうに乱暴な言葉を吐いた。

勝ったな、と小さく思った。他人と駆け引きでコミュニケーションをしている訳では無いが、素直に相手に気持ちを伝えることが苦手な人物にはコチラが適度に甘えるとことで相手が本当にしたい行動を引き出す事ができる。

声が聞きたかったのなら「声が聞きたかったから我慢できずに電話を掛けた」とか「会いたいからコチラは暇じゃないけど予定合わせて会ってくれ」だとか言ってくれれば楽なのだが、勿論そんな訳にはいかないのでやはり感情表現が不器用な人間はめんどうで面白い。

「眠くなったから寝る。また予定は分かり次第れんらくする。」

そう残して竹内先輩はぶつりと電話を切った。LINEの文面だけではここまで竹内先輩の心情を読み取ることが出来ないだろう。エジソン、恐るべし。私たちの関係はエジソンが時代を超えて取り繋いでくれている。次会ったらノーベル賞を直接渡そう。

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