第24話

 大阪の山奥。夜になると猛獣が餌を求めて徘徊しそうなほど不気味な空気が漂う場所にポツリ、丈夫な木で出来た大きな宿にぼぉっと明かりが灯っていた。

 フクロウがその建物を睨みつけている。中からおぞましい気配を感じているようだ。


「そんなことでホーホー鳴くな。何もしていないだろ?」


 中に居た男が外に居たフクロウに対してパチンと指を鳴らす。すると睨みつけ王はスポンっと鎮痙な音を立てて羽根が宙を舞った。これで男の邪魔をする騒音は無い。ただ、森の木々が風に揺れる音だけがそこら中で輪唱していた。


 黒く長いフードマントを身に着けた男の顔は上手く見られない。ただ分かるのはニヤァっと口角を上げたとき、いかにも悪いことを考えていますと見受けられる。


「次のターゲットは……。そうだな。こいつに行こう」


「ラギュアル様、次はガブリエルですか? ですがそれは海の底にあるはずでは……」


「バリ、黙れ。敵がどう動こうが私の方が強い。……ソルの元に再び相棒が出来る前にすべてを終わらせなければ」


 男=ラギュアルはマントのフードを外す。月に照らされる黒の長い髪、顔の右側には火傷の跡のような傷がブクブクと出ていた。その後ろについてくる人間=バリは執拗にラギュアルに意見を投げる。それがあまりにも煩いと感じたラギュアルはバリの額に左人差し指を当てて「黙れ」と怒鳴った。


「サリィ……。お前が何を考えているのかは知れんが、その少年では破滅を導くぞ」


・・・


「……⁉」


 ベッドで眠っていた涙は、何らかの気配を感じてグワっと布団を剥いで飛び起きた。その横では人間体になっているサリエルが椅子に座り机に向かって頬杖をついていた。


「どうした」


「いや、なんか嫌な気配を感じたんだ。すごく黒くて、吸い込まれたら帰って来れなさそうな気配が」


「そうか」


「君はどうしてそこに?」


「私は夜に活動する種の神だ。日の出が来るまではこうしていたい」


「そう……。眠れないや。夢にあの気配が出てきそう」


 サリエルは怖がる涙のそばに寄った。そっと両手で頭を撫でる。


「思ったより温かいね。君の手」


「この温もりはソルと君から貰ったものだ」


「ソル……?」


「旧友だ。今はどこにいるのかも分からない」


「君の太陽か。……僕と陽みたいだ。名前も似てるし」


「そうだな」


 涙は少し憂いの混ざっているサリエルの瞳を見る。どこか寂しさがある。涙は自然とサリエルの手を握っていた。


 俺がここに居る。二人で一緒に歩こう。歩いて、彼を探そうよ。


 意識上で涙が投げた言葉。たった一言。サリエルは静かな声で「あぁ」と返した。

 デジタル時計がピーっと音を出す。二人で見るとそれは【3:00】を記していた。


「明日の準備してなかったかも。あと陽にも連絡入れてないや。夜中だけど入れてから寝るよ」


「分かった」


 涙はそういって布団から出る。そして淡々とスクールバッグに教材を詰めていく。それが終わるとスマホのチャットアプリで陽に短い文章を送る。


『急ですが寮に住むことになりました。明日から迎えは要らないです。また学校で会おう。』


『君は君のしたいことをして。僕のことを気にしていたら、君は前に進めないから。』


 月は太陽無くしては輝けない。涙はその概念を全壊させる存在。

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三日月の園 菜凪亥 @nanai_meru16

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