第4話 スーさんは厳しい
「やめたほうがいいでしょう。」
殺し屋兄弟の末妹が一般人と恋愛する件についての議題である。ルークより2時間ほど遅れて帰宅したスーさんは、さも当たり前のように切り捨てる。
長身細身のスーさんは、ガッチリとした体型のルークと並ぶとより細く見え、マッチ棒のような印象をうける。
「それよりルーク、もう少し綺麗に処理してください。片付ける私の立場にもなってください。散らばると大変になるって言ってるじゃないですか。」
「ちょ、ちょっとまって!」
その議題はもう終わり、とばかりにルークへの説教をはじめたスーさんをチェリーが止める。すでに熱は引いたようだ。
「スーさん、恋愛するのは良いこともあると思うの!」
「ほう。それは興味深い。」
興味なさそうな目でスーさんはチェリーを見る。
「だって、これまで家族以外とコミュニケーションとった経験が少ないでしょ…。だから、他人の気持ちをわかるようになると作戦を立てる時に深みがでると思うの。」
「ふむ。他にはありますか。」
チェリーはぐぅ、と唾を飲み込んでから言葉を選ぶ。冷静沈着、兄弟の参謀役のスーさんの意見を変えるのは容易ではない。
「私ももうすぐ成人でしょ…。恋愛をしてる様子もなく閉じこもってるのは世間的に目立ちすぎる。けけ、結婚だって意識して…。」
「結婚ははやすぎる!!」
「ルーク兄さんは横槍しないで!女性が未婚のままで働きにも出てないと警察にも目をつけられやすいって噂になってるし。」
「たしかに。」
スーさんはトムによって隣室に引きずられていくルークを横目に腕を組み直し、細い顎に手をそえつつ、チェリーの考察の一部を肯定する。
「外聞を調整するというのは良い案ですね。しかしそれは一般人である必要はありません。同業で良い方がいるか検索してみましょう。」
「そういう意味じゃ…!」
「リスクをおかす理由には弱すぎますね。まずその相手の男性の裏はとってますか?」
「そ、それは、お知り合いになって、仲を深めてからなんじゃないの…?」
「チェリー。あなた、人付き合いを甘く考えてはいけません。そこまで相手に熱をあげていては仕事に支障がでるのでは?」
「失礼ね!」
チェリーは憤慨した様子で立ち上がる。しかし、スーさんが言ってることがもっともであることも理解していたため、それ以上言い返すこともできずにただ睨みつけるしかできなかった。
「あなたは兄弟の大切な一員です。よくお考えになって。」
「…わかった。」
チェリーはそのままスーさんに背中を向ける。世間で恐れられるチャールストン兄弟の末妹は、表情だけ見ればただの兄に怒られて傷付いた少女であった。
「次の仕事の準備をしてくる。」
そういって部屋を出て行く背中をスーさんは見送りつつ、隣室からこちらをハラハラを覗き込むルークを一瞥した。
「あんな言い方、かわいそうじゃねぇか…。」
「ルークは本当にチェリーに甘いですね。」
「でもよぅ…。」
「トムもそう思いますか?」
ルークの後ろでニッコリと笑うトム青年に話題をふる。トムはニッコリとしたまま首を横にふる。
「いえ、僕はスーさんに釘を刺してもらってよかったと思います。あの子はスーさんの判断力を信頼しているので。」
「事前にあなたが止めていないのは意外でした。」
「チーちゃんは気持ちが乗ってる時の仕事は誰よりも上手いから、恋愛がうまくいくなら家の役に立つと思って。」
「なるほど。」
スーさんはやっと少し口角をあげた。
「トムがそう言うなら成功させる根拠が?」
「うーん、いま裏を洗ってるところだからまだなんとも言えないんだけどね。」
トムはニッコリと笑う。
「あの家族以外とまともに話せない娘が恋を実らせるとは想像できませんが…。よく見守ってあげてください。」
「了解!」
「ルークは大人しくしてなさい。」
スーさんに釘をさされたルークは叱られた大型犬のようにシュンとなる。大人しくなったルークを見てスーさんはふふっと笑う。
「私は私のやり方で進めますけどね。」
殺し屋だって恋愛したい みたに @mitani3106
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